神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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6話

夫の本心が知りたい<3>――Side希美――

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 チリンと鳴ったドアベルに反応し、お客様を出迎えにレジ脇まで出ていくと、白いTシャツにカーキ色のチノパン姿の男性が立っていた。

 細身の体型で、色白の顔は小さくスタイルのいい人だった。額には黒髪がかかり、目尻が上がった二重の切れ長の目は少し無愛想そうな感じがしたけど、なぜか懐かしいという感情が湧き上がった。例えるなら十年ぶりに友人と遭遇したような感覚だった。

 席にご案内した後も初対面の彼のことがなぜか気になり、チラチラと視線を向けていた。
 そして誰かに似ている気がした。でも、それが誰かわからず悶々と考えることになった。 

 その日は凪の仕事が終わった後も彼のことが頭から離れなかった。夜、最寄りのコンビニで鍵を探している時に彼と遭遇した時は驚いた。

 彼は私の話を聞くと、名探偵のような推理を披露し、鍵は私のジーンズのポケットに入っていると言い当てた。そんな彼が素敵に思えて、また凪で会いたいという下心もあり、鍵を見つけてくれたお礼に凪のお食事券を渡した。

 それから彼は週に四日の頻度で凪に来るようになり、会う度に柔らかな表情を向けてくれるようになった。 
 彼は一見不愛想な感じがするが、実は笑顔が可愛らしい人だ。彼が笑う度に私の胸はキュンと反応した。

 気づけばドアベルが鳴る度に彼かなと思うようになり、彼じゃないと少し落ち込んだ。
 そんな私を見て、同じホールスタッフの井上さんに「あのお客様のこと好きでしょ」とからかわれて、恥ずかしさのあまり「違います。何とも思ってません。全然私の好きな男性のタイプじゃないですから!」と強く否定した。まさかこの時の私の言葉を青山君が聞いていて、彼に意見するとは思わなかった。

 レジで青山君が彼に「倉田さん目当てで来てますよね。やめてもらえませんか」と話しているのが聞こえた時は、胸がヒヤッと冷たくなった。そんなことを言ったら、彼がお店に来なくなると思い、慌てて出て行き、必死で青山君の誤解だと説明した。けど、彼はしょんぼりと両肩を落として店を出て行った。その様子を見て、もう彼が来ない気がした。

 予感は的中し、彼はピタリと店に来なくなった。

 彼に会いたくて、前に会ったコンビニで待ち伏せもしたけど、彼に会えず悶々とする日々が過ぎた。それが恋心だと気づいたのは、野島崎灯台で偶然彼に会えた時だった。
 彼の顔を見た瞬間、嬉しさと泣きたいような気持ちでいっぱいになり、この人が好きだってはっきりわかった。

 やっと会えた彼と何とか関係を作りたくて、「私と友達になってくれませんか」とお願いした。断られることを覚悟した申し出だったけど、彼は受け入れてくれた。

「あの、私は倉田希美と言います。お名前を聞いてもいいですか?」

 名札で私の苗字は知っていただろうけど、下の名前は知らないと思ったから、改めて名乗った。
 名前を聞かれた彼は、少し考えるような仕草をしてから、答えた。


「佐藤……海人です」
「佐藤さんですね。よろしくお願いいたします」

 握手を求めると、彼は躊躇いながらも私の手を握ってくれた。
 彼の大きな手に包まれて、何だかほっとした。私はこの手が好きだと思った。

 私の行きつけの居酒屋『魚将』で佐藤さんと飲むことになった。その時、佐藤さんと私の敬愛するシンガーソングライターの木村圭さんの話で盛り上がって、横浜のライブの話をした。圭さんの話が出来てとても楽しかった。

 圭さんが亡くなってからずっとライブDVDは見られなかったけど、横浜のライブDVDが見たくなり、居酒屋から帰宅してすぐにパソコンでDVDを見た。

 久しぶりに見たステージ上でピアノ弾き語りをする圭さんを見て何度も涙が浮かんだ。圭さんが遺してくれたライブパフォーマンスと音楽は素晴らしくて、最後まで見終わった後、もう一度最初からライブを観た。

 私が参戦した横浜のライブは丁度DVD撮影日で、ライブを観ながら、カメラがあったことや、圭さんが今日はカメラ入っているから、いつもよりオーバーリアクションね、と言って、客席を笑わせたことを思い出した。

 客席が映るシーンがあって、私もしっかり映っていたなと思いながら、そのシーンを見た時、佐藤さんに似ている人が映っていて停止ボタンを押した。静止画の中で見る佐藤さんらしき人は前から三列目の席にいる私の隣にいた。

 佐藤さんもライブに行ったと言っていたから、多分、ここに映っているのは佐藤さん本人だろう。そのことに不思議はないが、でも、どうして私の隣の席にいるの? 偶々なの? そう言えば私、このライブ誰と観に行ったんだろう?

 そう思った時、スマホが鳴る。姉からだった。

【結婚式の写真見つけたので送ります】

 そのメッセージを読み、送られてきた写真を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。
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