神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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6話

夫の本心が知りたい<4>――Side希美――

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 ウェディングドレス姿の私の隣には、グレーのタキシード姿の男性が立っていた。
 その顔を見て心臓が痛い程強く脈打った。

 タキシード姿の男性は――佐藤さんだった!

 えっ、えっ……、どういうこと?

 戸惑いながら姉に電話すると、間違いなくタキシード姿の男性は私の夫、倉田涼介だと教えられた。それから姉は黙っていたことがあると前置きをしてから、倉田家が所有する家が南房総市にあることを教えてくれた。

 私が南房総市で住み込みのバイトをすると言った時、姉は反対したが、どうやら倉田家と関係のある土地だったかららしい。

「なんでもって早く教えてくれないのよ」
『言えばのんちゃんが家を訪ねると思ったからよ。その家には偶にしか来ないって聞いていたから、空き家だと思ったし、もし涼介くんのご両親と遭遇でもしたら、希美も涼介くんのご両親も気まずいと思ったの。離婚の原因は涼介くんの浮気だから』

 確かに夫の両親と遭遇するのは気まずい。でも、佐藤さんと夫が同一人物なら、今その空き家に住んでいるのはご両親ではないだろう。

「ねえ、その家って野島崎灯台の近く?」
『そうだったかも。灯台まで歩いていけるって、前にのんちゃんが言ってた。それで、家の近くにめがね橋って呼ばれる有名な石積み工法の橋があるって』

 めがね橋……。
 パソコンで検索するとすぐに出て来た。
 正式名称は眺尾ながお橋で、日本の名橋百選に選ばれているそう。

「お姉ちゃん、ありがとう。探してみる」

 お店が休みの日、自転車で眺尾橋まで行ってみた。最寄りのコンビニの先にあって、思ったよりも近かった。
 三連の石造アーチ橋になっていて、関東地方で、その造りの橋は唯一だそう。建立されたのは明治二十一年と歴史のある橋だということが、記念碑に書かれていた。

 橋の上に立ち、流れる川を見ていたら、ここに来たことがある気がした。野島崎灯台を見た時と同じ感覚だ。そう思うと、周りの景色が見覚えのあるものに思えてくる。勘に従い、自転車を引きながら、橋の周辺を歩くと、木に囲まれた平屋の家が目に入る。広い庭には一台のコンパクトカーが停まっていた。

 佐藤さんがいつも凪に来る時に乗ってくる車と同じ車種だ。
 ドキンと鼓動が速くなる。

 まさか、まさかという思いを抱えながら、家の前に自転車を停め、芝生が敷き詰められた庭に足を踏み入れる。平屋の玄関まで行くと、【倉田】という表札があった。きっとここが倉田家の所有する家だ。

 庭先に干された洗濯物から男性の一人暮らしに思えた。ということは、ここに住んでいるのは夫?
 インターホンを押すべきか迷っていると、郵便配達のバイクが庭の前に停まったので、慌てて家の側面に回って隠れる。

「倉田さん、郵便局です。書留です」

 郵便配達員はインターホンを押すと、そう言った。

 ガラッと玄関の引き戸が開き、Tシャツ姿の男性が出てくる。その顔を見て、心臓が止まりそうになった。――佐藤さんだ!

「倉田涼介さんで、間違いないですね」

 佐藤さんに向かって郵便配達員が聞いた。

「はい」

 佐藤さんが返事をした瞬間、やっぱり騙されていたという気持ちと、やっと夫に会えたという気持ちで、胸がいっぱいになった。

 病院のベッドで目を覚まして、記憶喪失だと言われた時は、人生でこんなに驚くことはないと思ったけど、それ以上に今、驚いている。

 どうして、佐藤海人なんて偽名を使ったの! 私を嫌いで別れたくせになんで私と友達になってくれたの? なんで一緒にお酒を飲んでくれたの? なんで手をつないでくれたの……。夫に言いたいことがどんどん溢れてくる。

 郵便配達員がいなくなった玄関前に立ち、インターホンに手を伸ばした。

 ――ありがとうございます。僕も倉田さんのことが人として好きですよ

 魚将で飲んだ時の言葉が胸に過り、ボタンを押す寸前で指を下ろした。

 もし、私が倉田涼介であることを問い詰めたら、また彼は私の前から消えるかもしれない。マンションに取り残された時の衝撃は忘れられない。もうあんな悲しい気持ちは味わいたくない。彼と離れたくない。騙されていたとわかっても……。
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