神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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8話

最終話<2>

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「写真持って来たよ」

 夕食後、押し入れから取り出したアルバムとUSBメモリを希美に渡した。
 ここに越してから一度も写真は見なかった。見てしまうと辛かったからだ。

「うわっ、涼くん、若い!」

 希美が見ているのは結婚式のアルバムだった。
 希美の隣に座り、僕も一緒に見た。
 ウェディングドレス姿の希美に目が奪われる。日付は七年前のものだ。

「希美も可愛いな。お色直しのピンクのドレスも似合ってるな」
「ねえ、私たちの結婚式ってどんな感じだったの?」

 希美が僕に視線を向ける。

「覚えてないのか?」
「うん。結婚式のことはあまり覚えていない」

 僕は写真を見ながら、ウェディングプランナーの人が親切だったとか、ドレスを決める時、何度も試着したこととか、結婚式の余興で坂本がマジックを披露したことを話した。

「坂本さんって、陽気な人だよね。あだ名が宴会部長だって初めて会った時に自分で言ってた」

 希美と出会った食事会をセッティングしたのは坂本で、実は坂本も希美を狙っていたことを僕と希美が結婚したあとに坂本に打ち明けられたが、その話は希美にしていない。

「とてもいい奴だよ。きっと希美のいい友人になってくれると思う」

 僕が亡くなった後のことを少し考えた。

「ねえ、涼くん、今年の結婚記念日は写真館で写真を撮るのはどう? 私たち離婚の危機を乗り越えたわけだし」

 希美がおどけるように言った。
 すごくいいアイデアだと思った。

 結婚記念日は三ヶ月後の十月だった。そしてその日は余命宣告をされてから、ちょうど半年後だった。

「あ、でも、結婚記念日にこだわらなくてもいいかも」

 十月の僕がどうなっているか、希美も同じことを思ったのだろう。

「いや、結婚記念日に撮ろう。それから新婚旅行も行こう」
「えっ、今さら新婚旅行?」

 希美が目を丸くする。

「あの時、お互いに仕事が忙しくて、希美が行きたがっていたパリに行けなかったんだ。それで国内になったが、僕は心残りだ。今度こそパリに行こう」
「ちょっと待って涼くん、外国だなんて大丈夫なの? 何かあったら……」

 僕の体調を心配して希美が言っているのがわかる。

「明日、ホスピスの小川先生に相談してみるよ。希美も一緒に来てくれる?」

 希美の目が潤んだ。

「私も一緒に行っていいの?」
「もちろん。希美にはちゃんと病状を知っておいて欲しいんだ」
「ありがとう」

 希美がぎゅっと僕に抱き着く。それから僕たちは顔を見合わせて、自然と唇を合わせる。
 キスの後、照れくさそうにしている希美が可愛かった。 
 その夜は二枚の布団をくっつけて希美と手をつないで眠った。
 夜中に目を覚ました時、隣に希美がいて幸せだった。

 *

 翌日、ホスピスに行き、僕は小川先生に希美を紹介した。
 小川先生も凪に時々食べに行くらしく、希美の顔を知っていた。

「お医者さんだったんですね」

 診察室で小川先生の顔を見ながら希美が言った。
 小川先生はふふっと笑うと、希美を見た。

「小川です。奥様よろしくお願いいたします」

 小川先生が希美に向かって丁寧なお辞儀をする。
 希美もそれに応えるように深く頭を下げた。

 挨拶が済むと、小川先生が僕に視線を向ける。

「それにしても倉田さん、こんなに可愛らしい奥さんを騙していたのね。悪い人ね」

 小川先生に冗談半分に叱られた。
 僕は希美と最後まで一緒にいることを小川先生に伝え、今の病状を希美にも話して欲しいとお願いした。
 先生は丁寧に僕のガンのことを話してくれた。
 希美は真剣な表情で聞いていた。

「とりあえず今は、そんなに心配することもないかな。痛みの症状もコントロール出来ているし」
「先生、希美とパリに行こうと思うのですが、今行っておいた方がいいですか?」
「そうね。今がいいわね。きっと大丈夫よ」

 小川先生の言葉で決心がついた。

 僕は帰宅すると、すぐに旅行会社にパリ旅行を申し込んだ。
 出発日は二週間後で、丁度お盆休みだ。奇跡的にキャンセルになった所に申し込むことが出来た。
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