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8話
最終話<4>
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レストランで夕食をとって、午後八時頃にホテルに戻ったが、まだ外は明るかった。
今日の日没は午後九時過ぎで、明日の夜明けは午前七時前になる。
八月は太陽が出ている時間が長いことをパリに来て知った。
「まだ外が明るいなんて不思議だね」
窓際に立つ希美が言った。
「夜遊びが出来るね」
後ろから希美を抱きしめながら言うと、「夜遊びって、暗くなってからするんじゃないの?」と希美が顔だけをこちらに向ける。
「明るい夜遊び。お風呂に入ろうか」
耳元で囁くと「えっ」と希美が小さな声をあげる。
「一緒に入るの?」
「せっかく豪華なバスルームだしね」
「そうね」と、照れくさそうな顔で希美が返事をする。
それから僕たちは一緒にお風呂に入り、広いベッドで抱き合った。
僕との記憶があまりない希美は「なんか初めての時みたい」と恥ずかしそうにしていた。ベッドの中で甘い時間を過ごし、朝が来た。
*
次の日は午前中からルーブル美術館に出かけた。展示作品は三万五千点もあり、かなりの見応えだった。
ヴェルサイユ宮殿のモデルとなったアポロンのギャラリーは部屋の造りが豪華で、装飾のテーマは太陽らしい。どこもかしこも金ぴかで、フランス王家の宝物も展示され、充分な見応えだった。そしてレオナルドダヴィンチが描いた有名なモナリザは、思っていたよりも小さな絵で驚いた。大きさは人間の赤ちゃんぐらいだろうか。もっと大きな絵だと思ったと希美も同じ感想を持っていた。他の展示物よりも人が多く、みんなモナリザの前で記念撮影をしていた。そういうのは恥ずかしいと思ったが、僕たちも記念撮影はした。こういうことはやっぱり大事だ。
7万平方メートルの展示スペースは広くて、一日では見切れなかったが、充分楽しめた。
*
最終日はパリ市内を出て、希美が行きたがっていたヴェルサイユ宮殿に地下鉄と電車を乗り継いで行った。
予約していたチケットで宮殿内に入り、セキュリティチェックを受けてから、見学をする。
王様の居住スペースと王妃の居住スペースの間にある有名な鏡の回廊はルーブル美術館のモナリザと同じくらい人が多かった。少々疲れたが、楽しそうにしている希美を見たら疲れは吹き飛んだ。ルイ14世の寝室も公開されていて、金ぴかのベッドには驚いた。僕だったら全然落ち着いて眠れない。
二時間かけて宮殿内を見た後はお土産コーナーでマリーアントワネットの絵が描かれたリンゴの飴を希美が熱心に見ていた。どうやら律子さんや凪の皆さんへのお土産にするらしい。
宮殿の外に出ると、今度は広い庭園を希美と歩いた。フランス式の庭園で、植木が人工的な形に切りそろえられていた。それがフランス式庭園の特徴で、自然さえもコントロールし、完璧な幾何学的造形美を追求するらしい。
庭園の端まで行くとアポロンの噴水があり、太陽神アポロンが四頭の馬が引く戦車に乗り、水面から飛び出してくる様子で作られた彫刻が池の中にあった。馬も戦車もアポロンも金ぴかで太陽に照らされ、キラキラと輝いていた。
「あんな所に金の彫刻を作るなんて、贅沢ね」
希美がアポロン像を見ながら口にする。
庶民感覚あふれる希美の言葉が微笑ましい。
「一生に一度は来たかったんだろう?」
「うん。一度この目でオスカル様の世界を見てみたかったんだ」
希美は律子さんの影響で池田理代子先生のベルサイユのばらが好きだった。
「私は今、オスカル様が吸った空気を吸っているのね」
希美が空想するようにうっとりした表情で周囲を見る。
「いや、オスカル様は架空の人物だろう」
僕のツッコミに「わかってるわよ。アンドレ」と希美が返す。
「僕、アンドレなのか」
「このヴェルサイユ宮殿にいる間はそうよ」
「じゃあ、希美がオスカル?」
「アンドレ行くぞ。次はマリーアントワネット様がいるトリアノンだ」
オスカルになり切った希美が僕の手を取り歩き出す。しばらくベルサイユのばらごっこに付き合わされたが、楽しそうにしている希美を見るのが楽しかった。
あっという間の三日間が終わり、夜の便で僕たちはフランスを後にした。
今日の日没は午後九時過ぎで、明日の夜明けは午前七時前になる。
八月は太陽が出ている時間が長いことをパリに来て知った。
「まだ外が明るいなんて不思議だね」
窓際に立つ希美が言った。
「夜遊びが出来るね」
後ろから希美を抱きしめながら言うと、「夜遊びって、暗くなってからするんじゃないの?」と希美が顔だけをこちらに向ける。
「明るい夜遊び。お風呂に入ろうか」
耳元で囁くと「えっ」と希美が小さな声をあげる。
「一緒に入るの?」
「せっかく豪華なバスルームだしね」
「そうね」と、照れくさそうな顔で希美が返事をする。
それから僕たちは一緒にお風呂に入り、広いベッドで抱き合った。
僕との記憶があまりない希美は「なんか初めての時みたい」と恥ずかしそうにしていた。ベッドの中で甘い時間を過ごし、朝が来た。
*
次の日は午前中からルーブル美術館に出かけた。展示作品は三万五千点もあり、かなりの見応えだった。
ヴェルサイユ宮殿のモデルとなったアポロンのギャラリーは部屋の造りが豪華で、装飾のテーマは太陽らしい。どこもかしこも金ぴかで、フランス王家の宝物も展示され、充分な見応えだった。そしてレオナルドダヴィンチが描いた有名なモナリザは、思っていたよりも小さな絵で驚いた。大きさは人間の赤ちゃんぐらいだろうか。もっと大きな絵だと思ったと希美も同じ感想を持っていた。他の展示物よりも人が多く、みんなモナリザの前で記念撮影をしていた。そういうのは恥ずかしいと思ったが、僕たちも記念撮影はした。こういうことはやっぱり大事だ。
7万平方メートルの展示スペースは広くて、一日では見切れなかったが、充分楽しめた。
*
最終日はパリ市内を出て、希美が行きたがっていたヴェルサイユ宮殿に地下鉄と電車を乗り継いで行った。
予約していたチケットで宮殿内に入り、セキュリティチェックを受けてから、見学をする。
王様の居住スペースと王妃の居住スペースの間にある有名な鏡の回廊はルーブル美術館のモナリザと同じくらい人が多かった。少々疲れたが、楽しそうにしている希美を見たら疲れは吹き飛んだ。ルイ14世の寝室も公開されていて、金ぴかのベッドには驚いた。僕だったら全然落ち着いて眠れない。
二時間かけて宮殿内を見た後はお土産コーナーでマリーアントワネットの絵が描かれたリンゴの飴を希美が熱心に見ていた。どうやら律子さんや凪の皆さんへのお土産にするらしい。
宮殿の外に出ると、今度は広い庭園を希美と歩いた。フランス式の庭園で、植木が人工的な形に切りそろえられていた。それがフランス式庭園の特徴で、自然さえもコントロールし、完璧な幾何学的造形美を追求するらしい。
庭園の端まで行くとアポロンの噴水があり、太陽神アポロンが四頭の馬が引く戦車に乗り、水面から飛び出してくる様子で作られた彫刻が池の中にあった。馬も戦車もアポロンも金ぴかで太陽に照らされ、キラキラと輝いていた。
「あんな所に金の彫刻を作るなんて、贅沢ね」
希美がアポロン像を見ながら口にする。
庶民感覚あふれる希美の言葉が微笑ましい。
「一生に一度は来たかったんだろう?」
「うん。一度この目でオスカル様の世界を見てみたかったんだ」
希美は律子さんの影響で池田理代子先生のベルサイユのばらが好きだった。
「私は今、オスカル様が吸った空気を吸っているのね」
希美が空想するようにうっとりした表情で周囲を見る。
「いや、オスカル様は架空の人物だろう」
僕のツッコミに「わかってるわよ。アンドレ」と希美が返す。
「僕、アンドレなのか」
「このヴェルサイユ宮殿にいる間はそうよ」
「じゃあ、希美がオスカル?」
「アンドレ行くぞ。次はマリーアントワネット様がいるトリアノンだ」
オスカルになり切った希美が僕の手を取り歩き出す。しばらくベルサイユのばらごっこに付き合わされたが、楽しそうにしている希美を見るのが楽しかった。
あっという間の三日間が終わり、夜の便で僕たちはフランスを後にした。
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