神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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 涼くんが逝ったのは、十二月十四日の明け方だった。
 享年35歳。決して長い人生だとは言えないけど、涼くんはしっかりと生きた。

「僕は今、後悔のない人生がどんなものかわかったよ」

 亡くなる二日前に涼くんが言った。
 ホスピスに入院していて、病室で二人きりの時だった。
  食事が取れないので、涼くんは一回り痩せたけど、穏やかな表情をしていた。

「さんざん迷ったけど、希美と一緒にいると決めて本当に良かった。もし、その選択をしなかったらきっと後悔していた。希美、こんな僕の傍にいたいと言ってくれてありがとう。僕は希美に会えて幸せだよ。それから、この先、希美を守れなくてごめんな」

 涙に擦れた声で涼くんが言った。
 私のことを心配してくれていると思ったら、胸がいっぱになった。

「私は大丈夫だよ。凪の人たちがいるし、涼くんと暮らした家があるし、記憶喪失になってちょっと強くなったし」

 涼くんに笑ってもらおうと思って、冗談めかして言ったけど、もうすぐ涼くんは旅立ってしまうんだと思ったら涙声になった。

「希美、自由に生きて。あの家に住まなくてもいいから。希美がやりたいことをやって」
「私、もうやりたいことやっているよ。大好きな涼くんの傍にいられて幸せだよ」

 私の言葉を聞くと涼くんが満足そうに微笑んだ。

「僕も大好きな希美と一緒で幸せだよ」

 私の手を握りながら言ってくれた。
 細くなった手からはしっかりとした涼くんの力が伝わって来て、嬉しかった。

 それから涼くんは「少し疲れた」と言って目を閉じた。
 もう二度と、涼くんが目を開けることはなかった。

 涼くんが亡くなって、やっぱり私は泣いた。涼くんを悲しませたくないと思ったけど、毎日のように泣いた。そして涼くんの一周忌法要が終わり、少しだけ前を向けるようになった。

 今でも私は凪で働いている。月に一度ランチを食べにくる藤原さんとはお友だちになった。大事な人を喪った者同士、通じ合うものがあった。

 涼くんの主治医だった小川先生も凪に来てくれる。涼くんが先生に頼まれてデザインしたというホスピスのパンフレットは桜色の配色で、温かみのあるデザインになっていた。先生はずっとこのデザインで使わせてもらうと言ってくれた。

 涼くんの仕事がこうして残っていることが嬉しい。私も頑張らなきゃと思う。

 坂本さんに頼まれて、野島崎灯台の絵を描いたら、大手旅行代理店の広告に私の絵を使ってもらえることになった。それを切っ掛けにイラストレーターの仕事も少し増えて、ある日、出版社から依頼が来た。

 それは故人に向けての手紙を集めた本で、カバーイラストと、私にも手紙を書いて欲しいという依頼だった。

 お断りしようと思ったけど、夢の中に涼くんが出て来て「やりなよ」と言われた。
 涼くんに言われては断れない。書けるか不安だったけど、手紙込みでその仕事を引き受けた。
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