雨宮課長に甘えたい

コハラ

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佐伯リカコの本心

《9》

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「へえー。彼女いるんだ。この前はいないって言っていたのに。もしかして最近できた?」

冷やかすような佐伯リカコの声がする。

「そうだよ」
「ふーん。最近なんだ」
「何だよ」
「妬けるなと思って。拓海はもう私の事好きじゃないの? 私たち嫌いで別れた訳じゃないでしょ?」

なっ、何言ってるの?

障子越しに離れていた二人の影が重なったように見えた。

「リカ、くっつくな」
「いいじゃない。元夫婦なんだから」
「やめろ」
「焦ってるの? 拓海かわいい」

何このやり取り……。
嫉妬で胸が焦げて苦しくなる。

「やめろって言っているだろ!」

障子越しに背の高い影が立ち上がるのがわかった。

あ、拓海さんがこっちに来る!

慌てて、女子トイレの中に入って隠れた。

顔を合わせたくない。
きっと感情的になって怒ってしまうから。

拓海さんに嫉妬でいっぱいの私を見せたくない。
拓海さんといる時は笑顔でいたい。

でも、今は笑顔でいられない。

はあ。こんな現場見たくなかったな。

お座敷に戻ると、今日子さんに顔色がよくないと心配してもらったけど、心配かけたくなかったら、少し酔っただけだと誤魔化した。

贅沢づくしのふぐのコース料理も終わり、阿久津が締めの挨拶をして解散となった。

拓海さんと佐伯リカコは最後まで戻って来なかった。
あの後、拓海さんは佐伯リカコを送っていったのかもしれない。

ため息をつくと、望月先生に元気出せよと言われた。

それから真剣な顔で忠告された。

「佐伯リカコから雨宮拓海を奪うのは骨が折れるぞ」

世間的には私が佐伯リカコから奪う方になるんだ。
なんか落ち込む。

「もう、かおるさん。中島さんに意地悪を言うのはやめて」

隣で聞いていた今日子さんが言った。

「今日子、怒るな。親切心で言ってやっているんだ。佐伯リカコは相当、雨宮拓海に想いがあるぞ」
「望月先生、どういう意味ですか?」
「『フラワームーンの願い』の中の佐伯リカコと、今夜、隣で雨宮拓海を見つめていた表情が同じに見えた。きっと映画の中の佐伯リカコは雨宮拓海を見ていたんだろう。そしてそれは今も変わっていない。あれは好きな男を見る表情だ」

そんな……。

佐伯リカコは妻子持ちの男が好きだったんじゃないの?
もしかして、拓海さんに恋人のふりを頼んだのは、本当は拓海さんと恋人になる為の作戦?

『拓海はもう私の事、好きじゃないの?』

さっき聞いた言葉が過る。
あの言葉からは拓海さんへの好意が感じられた。

考えたくないけど、佐伯リカコは拓海さんが好きなんだ。

だとしたら、私はどうすればいいの?
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