雨宮課長に甘えたい

お料理教室

《15》

夕方になると栗原さんのご主人、晴喜はるきさんが帰って来た。拓海さんは晴喜さんの事をハルと呼び、砕けた表情で話している。その周りにはこうくんとみっくんもいて、拓海さんの事が好きそう。拓海さんもこうくんとみっくんの相手をするのが楽しそうで、なんかパパみたいで微笑ましい。

「拓海さんはよくこちらに？」

キッチンで栗原さんと夕飯の準備をしながら聞いた。

「月一ぐらいで遊びに来るかな。こうくんとみっくんと遊びたいと言って」

あっ……。
もしかして、亡くなった優真君の事を重ねて……。

「時々、映画にも連れて行ってくれたりね。あと、晴喜が仕事で来れない時に代わりに運動会にも来てくれた事があったな。優真君にしてあげたかった事をしているのかも」

栗原さんがハッとしようにこっちを見る。

拓海さんとは大学からの付き合いだものね。栗原さんが優真君の事を知っているのは当然だ。

「中島ちゃん、ごめん。今のは聞かなかった事に」
「優真君の事は知っています。拓海さんから聞きましたから。それに佐伯リカコさんと結婚していた事も」
「そう……」

栗原さんが寂しそうに瞳を細める。

「栗原さんは佐伯リカコさんと拓海さんが結婚している頃の事もよく知っているんですか？」

「うん。知ってる。その頃はリカコさんは今とは全然違って売れていなくてね。そんな彼女を拓ちゃんが励ましていた。でも、優真君が生まれて自然と女優業からは身を引く感じになって。それで、拓ちゃんは宣伝部でバイヤーの仕事が忙しくなって。優真君の事も家の事も全部、リカコさんに任せきりでリカコさんに悪いってよく拓ちゃん言ってた。ワンオペ育児は大変だからね。私もリカコさん、大変だろうなって心配はしていたんだ」

拓海さんがいい父親じゃなかったと言っていたのは、優真君を佐伯リカコに任せきりにしていた事もあるのかも。

「だから拓海さんは定時で帰れる総務部に異動を？」