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第五話,一人ぼっち×2
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その遠藤に会ったのは、あたしが高二だった夏のことだ。
ベタベタと群れながら昼飯を食う趣味はないので、その日もあたしはいつも通り、とっときの場所に一人で向かっていた。学校の裏庭のフェンスが破れたところから抜け出すと、植え込みの間に小さな草地があるのだ。座っていれば誰にも見つからないし、寝転がって昼寝をするにも気持ちがいい。
ところが、その日は先客がいた。
「あれ? ……生徒会長じゃん」
遠藤生徒会長。長身の眼鏡。育ちのいい坊っちゃんで、頭も良く、誰からも慕われている。あたしが知っている情報はそのぐらいだ。
ちなみに、あたしのクラスメイトでもある。もっとも、これまでは交流らしき交流も無かったんだが。
その生徒会長が、広げた弁当を手にあたしを見上げて、驚いた顔をしている。
「まさか。生徒会長が、ぼっち飯?」
「……そうだ。ここは君の場所だったのか? 侵入してすまなかった」
「いや、別にあたしが金払ってるわけでもないしさ」
立とうとした彼を手で制して、あたしは少し離れたところに座った。
「気にしないで過ごしなよ。あたしも気にしないし」
「……そうか」
それきり黙って、黙々とそれぞれのぼっち飯を済ませる。あたしは勿論驚いていたし、向こうも驚いただろうけれど、声を掛け合うことはしなかった。
生徒会長は弁当を、あたしは買ったパンを食って、先に終えた生徒会長が草地から出ていくとき、軽くあたしに目礼しただけだ。
(……なんか予想外だな、生徒会長)
いつも人に囲まれて、穏やかな顔で受け答えをしている彼は、ぼっち飯を食うようなタイプには到底見えなかった。孤高のヤンキーと名高いあたしに苦言を言うでもないし、非難がましい顔もしない。それどころか、あたしの居場所と見るとすぐさま譲ろうとするなんて。
割といい奴なのかもしれない。
(まあ、今日は何か事情があってぼっち飯だったのかもしれないしな)
もうこれきり、出くわすこともないだろう。
その予想を裏切って、それから毎日、遠藤生徒会長はあたしと同じ場所で飯を食うようになった。同じ場所というだけで、会話もしない。出入りのときに軽く挨拶するだけだから、これは単に一人ぼっちが二人いる、というだけだ。
そう思っていたんだが。
やっぱり、遠藤はいい奴だったのだ。
「よお、生徒会長」
「ああ、失礼する」
あいつが毎回挨拶だけはしてくるので、あたしも挨拶をするようになった。
あいつが一切あたしを忌避する空気を醸し出さないので(そういうのって、黙ってても伝わってくるよな)、何となくぽつぽつと言葉を交わすようになって、
「会長、毎日ここに来てていいのか?」
「遠藤と呼んでくれ。いつも人と一緒だと、……疲れるんだ」
「へえ、予想外」
そんな会話から始まり、
「人と合わせるのは疲れるが、一人でいるのも心もとない。俺は中途半端だから……君はいつでも一人で、しっかりと背筋を伸ばして歩いていて、いつも羨ましいと思ってた」
「へえ」
割と重たい話をぶち込まれるぐらいの仲になっていた。
「人といてもいなくても疲れるから、あたしは楽な方を選んだだけだけどな。一人でいるには強くならなきゃいけないから、ちょっとは鍛えたけどさ」
自慢の拳をにぎにぎして、にやっと笑ってみせると、遠藤は苦笑した。眼鏡の奥の黒目がちの目は少し垂れていて、優しげな色が宿っている。
「君のそういうところがいいと思う」
何がいいんだ、何が。とは問わない。
何だっていいのだ。ちょっとした好意は伝わっている。
結局、あたしたちは話さなかったことの方が多くて、言葉を交わさなかった時間の方が長い。同じ場所の端と端に座って飯を食ってるだけで、一緒に飯を食ってるという意識も最後まで芽生えなかった。
黙って座っているだけで、お互いにそこそこの好意を感じている。
それがあたしたちには最適な距離だったのだと思う。
「結局、あたしも生徒会長も、根っからのぼっちだったからさ……」
「私もぼっちだ」
「うん? そうだな」
「むしろ私の方がより深刻なぼっちだ」
「どうした遠藤、何か張り合ってんの?」
パチパチ、と火が爆ぜる音が聞こえていた。
冥界にも夜がやってきて、頭上の亀裂の先ではみっちりと星々が犇めいている。その光だけではあたしには足りないと思ったのか、遠藤(生徒会長じゃなくて冥王のほう)がランタンに火を灯した。
火のもとが何なのか、あたしには分からない。冥界らしく青くて鬼火みたいな光だ。
(人の魂とかでなきゃいいんだが)
あたしが考えていると、
「……コレーヌがいなければ、私には何もない」
隣に腰を下ろしていた遠藤が、低く呟いた。
「私はここで、永遠に孤独だ。コレーヌがいても孤独だが……孤独でないと感じる瞬間がある。その歓びは何にも代えがたい。乾いた喉に染み込む水のようなものだ」
「おいおい、依存かよ。人に頼って孤独を埋めてもらうのってどうかと思うぜ」
あたしは星を見上げながら言った。
なんで見上げているかというと、あたしは地面に大の字になって寝ているからだ。あたしが呼び覚まして育てた草地の上に転がって。
その感触がまた、かつての植え込みの間の草地を思い出させた。
ふっと、胸の奥に微かな懐かしさと、小さな痛みがわだかまる。
「……でもまあ、あたしも知ってんだよな、そういう気持ち」
あたしは小さく呟いた。
孤独が好きな人間とか、本当にいるんだろうか? あたしは一人でいるほうが楽だったけれど、楽だっただけで、好きだったとまでは言えない。そもそも、最初にあたしを置き去りにして孤独にしたのは親だった。その後は、教師。付き合うのが苦痛だなと思って、少しずつ離れた友人たち。
どのみち人は一人なのだから、生きていくためには強くなったほうがいい。だからあたしは強くなったし、もっと強くなりたい。それでも、孤独の中で引き合う誰か、嵐の海の中で身を休めるための島や洞窟みたいな、一時の心の通じ合いを求めていなかったと、本当に言えるのか?
(あたしは……)
生徒会長はその気持ちが、あたしよりも強かったのだと思う。
だから、生徒会長はあたしに恋らしきものをしたのだろう。いや、実際にはっきり聞いてないから知らんけど。思い込みかもしれないけど。
「君と、将来の約束をしたい」
その日、生徒会長に言われたのはそれだ。
重々しく告げられて、あたしは危うく咥えていたパンを落っことしそうになった。
(……いや、流石は生徒会長、言うことが重すぎるだろ)
品行方正、良家の坊っちゃんは、間に色んな男女交際の形があるということを知らんのか? まあ、あたしもよく知らんのだが……
と思いながら、動揺を押し殺してむしゃむしゃとパンを食んでいると、遠藤はあたしに紙切れを一枚手渡した。
「ん? 何だこれ」
「某遊園地のチケットだ。正式な申込みは観覧車の上でやるものだと聞いた」
(こ、こいつ……)
いささか慄然としたあたしが奴の顔面を凝視していると、奴はあくまで生真面目そうに、
「チケットの費用は、先日君から分けて貰ったパンのお返しだと思ってもらえればいい」
「いや、なんか違くねーか……?」
これまでに何度か、弁当を持って来なかった遠藤にパンを分けてやったことは確かだ。金持ちの生徒会長がヤンキーを餌付けするんじゃなくて、ヤンキーが生徒会長を養うってところが新しいよな。そうやって養われて、少しも屈辱を感じてないのが遠藤の変わり者なところだよ。……などと、あたしが現実逃避していると、
「明日、土曜日の11時でいいか? 来て欲しい」
「お、おう……」
あたしが頷くのを見届けて、遠藤はいつものように目礼をして去っていった。
(何なんだ……)
混乱。混乱しかない。あたしは草地の上に、ぺったりと腰を落とした。
がしがしと髪の毛を掻き回す。それでも動揺は鎮まらなかったけれど、心の奥底では分かっていた。
明日。あたしは遊園地に行くだろう。
そして何と答えるか……
(まあ、決まってるよな)
知らずに、口元に笑みが浮かんだ。
遠藤と心が通じ合ってる、なんて言うつもりはない。何もかもが思い込み、一時の流されかもしれない。でも、衝動のまま草地に寝転んで、青空を見上げたとき、どこか胸が熱くなって、浮かされたような……どこまでも続く孤独の枷が剥がれ落ちて、身体が軽くなったような気がした。
(明日)
あたしは心の中で繰り返して──それ以降のことは覚えていない。
前世の記憶はそこで途切れているから、きっと明日は来なかったんだろう。
ベタベタと群れながら昼飯を食う趣味はないので、その日もあたしはいつも通り、とっときの場所に一人で向かっていた。学校の裏庭のフェンスが破れたところから抜け出すと、植え込みの間に小さな草地があるのだ。座っていれば誰にも見つからないし、寝転がって昼寝をするにも気持ちがいい。
ところが、その日は先客がいた。
「あれ? ……生徒会長じゃん」
遠藤生徒会長。長身の眼鏡。育ちのいい坊っちゃんで、頭も良く、誰からも慕われている。あたしが知っている情報はそのぐらいだ。
ちなみに、あたしのクラスメイトでもある。もっとも、これまでは交流らしき交流も無かったんだが。
その生徒会長が、広げた弁当を手にあたしを見上げて、驚いた顔をしている。
「まさか。生徒会長が、ぼっち飯?」
「……そうだ。ここは君の場所だったのか? 侵入してすまなかった」
「いや、別にあたしが金払ってるわけでもないしさ」
立とうとした彼を手で制して、あたしは少し離れたところに座った。
「気にしないで過ごしなよ。あたしも気にしないし」
「……そうか」
それきり黙って、黙々とそれぞれのぼっち飯を済ませる。あたしは勿論驚いていたし、向こうも驚いただろうけれど、声を掛け合うことはしなかった。
生徒会長は弁当を、あたしは買ったパンを食って、先に終えた生徒会長が草地から出ていくとき、軽くあたしに目礼しただけだ。
(……なんか予想外だな、生徒会長)
いつも人に囲まれて、穏やかな顔で受け答えをしている彼は、ぼっち飯を食うようなタイプには到底見えなかった。孤高のヤンキーと名高いあたしに苦言を言うでもないし、非難がましい顔もしない。それどころか、あたしの居場所と見るとすぐさま譲ろうとするなんて。
割といい奴なのかもしれない。
(まあ、今日は何か事情があってぼっち飯だったのかもしれないしな)
もうこれきり、出くわすこともないだろう。
その予想を裏切って、それから毎日、遠藤生徒会長はあたしと同じ場所で飯を食うようになった。同じ場所というだけで、会話もしない。出入りのときに軽く挨拶するだけだから、これは単に一人ぼっちが二人いる、というだけだ。
そう思っていたんだが。
やっぱり、遠藤はいい奴だったのだ。
「よお、生徒会長」
「ああ、失礼する」
あいつが毎回挨拶だけはしてくるので、あたしも挨拶をするようになった。
あいつが一切あたしを忌避する空気を醸し出さないので(そういうのって、黙ってても伝わってくるよな)、何となくぽつぽつと言葉を交わすようになって、
「会長、毎日ここに来てていいのか?」
「遠藤と呼んでくれ。いつも人と一緒だと、……疲れるんだ」
「へえ、予想外」
そんな会話から始まり、
「人と合わせるのは疲れるが、一人でいるのも心もとない。俺は中途半端だから……君はいつでも一人で、しっかりと背筋を伸ばして歩いていて、いつも羨ましいと思ってた」
「へえ」
割と重たい話をぶち込まれるぐらいの仲になっていた。
「人といてもいなくても疲れるから、あたしは楽な方を選んだだけだけどな。一人でいるには強くならなきゃいけないから、ちょっとは鍛えたけどさ」
自慢の拳をにぎにぎして、にやっと笑ってみせると、遠藤は苦笑した。眼鏡の奥の黒目がちの目は少し垂れていて、優しげな色が宿っている。
「君のそういうところがいいと思う」
何がいいんだ、何が。とは問わない。
何だっていいのだ。ちょっとした好意は伝わっている。
結局、あたしたちは話さなかったことの方が多くて、言葉を交わさなかった時間の方が長い。同じ場所の端と端に座って飯を食ってるだけで、一緒に飯を食ってるという意識も最後まで芽生えなかった。
黙って座っているだけで、お互いにそこそこの好意を感じている。
それがあたしたちには最適な距離だったのだと思う。
「結局、あたしも生徒会長も、根っからのぼっちだったからさ……」
「私もぼっちだ」
「うん? そうだな」
「むしろ私の方がより深刻なぼっちだ」
「どうした遠藤、何か張り合ってんの?」
パチパチ、と火が爆ぜる音が聞こえていた。
冥界にも夜がやってきて、頭上の亀裂の先ではみっちりと星々が犇めいている。その光だけではあたしには足りないと思ったのか、遠藤(生徒会長じゃなくて冥王のほう)がランタンに火を灯した。
火のもとが何なのか、あたしには分からない。冥界らしく青くて鬼火みたいな光だ。
(人の魂とかでなきゃいいんだが)
あたしが考えていると、
「……コレーヌがいなければ、私には何もない」
隣に腰を下ろしていた遠藤が、低く呟いた。
「私はここで、永遠に孤独だ。コレーヌがいても孤独だが……孤独でないと感じる瞬間がある。その歓びは何にも代えがたい。乾いた喉に染み込む水のようなものだ」
「おいおい、依存かよ。人に頼って孤独を埋めてもらうのってどうかと思うぜ」
あたしは星を見上げながら言った。
なんで見上げているかというと、あたしは地面に大の字になって寝ているからだ。あたしが呼び覚まして育てた草地の上に転がって。
その感触がまた、かつての植え込みの間の草地を思い出させた。
ふっと、胸の奥に微かな懐かしさと、小さな痛みがわだかまる。
「……でもまあ、あたしも知ってんだよな、そういう気持ち」
あたしは小さく呟いた。
孤独が好きな人間とか、本当にいるんだろうか? あたしは一人でいるほうが楽だったけれど、楽だっただけで、好きだったとまでは言えない。そもそも、最初にあたしを置き去りにして孤独にしたのは親だった。その後は、教師。付き合うのが苦痛だなと思って、少しずつ離れた友人たち。
どのみち人は一人なのだから、生きていくためには強くなったほうがいい。だからあたしは強くなったし、もっと強くなりたい。それでも、孤独の中で引き合う誰か、嵐の海の中で身を休めるための島や洞窟みたいな、一時の心の通じ合いを求めていなかったと、本当に言えるのか?
(あたしは……)
生徒会長はその気持ちが、あたしよりも強かったのだと思う。
だから、生徒会長はあたしに恋らしきものをしたのだろう。いや、実際にはっきり聞いてないから知らんけど。思い込みかもしれないけど。
「君と、将来の約束をしたい」
その日、生徒会長に言われたのはそれだ。
重々しく告げられて、あたしは危うく咥えていたパンを落っことしそうになった。
(……いや、流石は生徒会長、言うことが重すぎるだろ)
品行方正、良家の坊っちゃんは、間に色んな男女交際の形があるということを知らんのか? まあ、あたしもよく知らんのだが……
と思いながら、動揺を押し殺してむしゃむしゃとパンを食んでいると、遠藤はあたしに紙切れを一枚手渡した。
「ん? 何だこれ」
「某遊園地のチケットだ。正式な申込みは観覧車の上でやるものだと聞いた」
(こ、こいつ……)
いささか慄然としたあたしが奴の顔面を凝視していると、奴はあくまで生真面目そうに、
「チケットの費用は、先日君から分けて貰ったパンのお返しだと思ってもらえればいい」
「いや、なんか違くねーか……?」
これまでに何度か、弁当を持って来なかった遠藤にパンを分けてやったことは確かだ。金持ちの生徒会長がヤンキーを餌付けするんじゃなくて、ヤンキーが生徒会長を養うってところが新しいよな。そうやって養われて、少しも屈辱を感じてないのが遠藤の変わり者なところだよ。……などと、あたしが現実逃避していると、
「明日、土曜日の11時でいいか? 来て欲しい」
「お、おう……」
あたしが頷くのを見届けて、遠藤はいつものように目礼をして去っていった。
(何なんだ……)
混乱。混乱しかない。あたしは草地の上に、ぺったりと腰を落とした。
がしがしと髪の毛を掻き回す。それでも動揺は鎮まらなかったけれど、心の奥底では分かっていた。
明日。あたしは遊園地に行くだろう。
そして何と答えるか……
(まあ、決まってるよな)
知らずに、口元に笑みが浮かんだ。
遠藤と心が通じ合ってる、なんて言うつもりはない。何もかもが思い込み、一時の流されかもしれない。でも、衝動のまま草地に寝転んで、青空を見上げたとき、どこか胸が熱くなって、浮かされたような……どこまでも続く孤独の枷が剥がれ落ちて、身体が軽くなったような気がした。
(明日)
あたしは心の中で繰り返して──それ以降のことは覚えていない。
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