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第二十四話 その字面がもう駄目じゃ
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「……ルシアンは公爵なのか? その齢で?」
「ラスシェングレ家の当主は、二つの条件によって決まります。千の執事を従えること、そして見た目です。この条件を満たせば、年齢は幾つだろうと関係ありません」
「美形でなければ許されぬとは、貴族の世界も随分と過酷な……」
「造作の問題ではなく、色ですね。色も造作の一部と言えばそれまでですが」
すらすらと答えるルシアンを、妾はまじまじと見た。
銀髪碧眼。銀河帝国皇族の一人と言われても通用しそうな色味じゃな。
「……我々は遺伝子操作の粋を極め尽くしていますから、逆に、どんなに追求しても生まれる誤差というものに敏感なんですよ。ただの銀や青ではない、この色でなければいけないという基準があるんです。我々ラスシェングレ家だけではない、高位貴族ならば大抵、何か譲れない一族の基準というものを持っているはずです」
そう言いながら、ルシアンは妾の前に置かれたソファにすっと腰を下ろした。さっきまでそこには置かれていなかったはずのソファじゃ。
わざとらしく寛いだ様子で脚を組み、わざとらしい笑みをこちらに向けてくる。
皇女の御前としてはやや不作法、しかもその不作法をわざと演出しておる。それが許される家格であることを、こうやって教えてくれているというわけじゃな。
……なるほど、公爵らしい傲慢な態度が似合うのう。
「……という話を、本来、銀河帝国皇女である貴女にはする必要がなかったはずです。姫はまだ幼いが、皇族としての基本知識は備えておられたはず。それに貴女は、金の髪を持って生まれたにも関わらず、周囲を納得させるだけの『皇族らしさ』があった」
「……皇族らしさ?」
「一つには、その喋り方です。銀河帝国皇族のうち、稀に、生まれながらにして帝国古語を喋る者がいる」
「……帝国古語? まさかと思うが……のじゃロリ語のことか?」
「のじゃロリ語?」
ルシアンの眉間にくっきりと皺が刻まれたのを見て、妾は慌てて手を振った。
「いや、その、語尾に『のじゃ』とつくような喋り方のことじゃ」
のじゃロリ、と言って、ジョーカーには通じるのじゃが、ルシアンには通じなかったようじゃ。これが、一緒に過ごした時間の違いというやつかのう? それとも単に、ルシアンが俗な言い方に通暁しておらんというだけか?
「そうですね。帝国古語を話す者は、皇族の神秘性を高める者として大事にされています」
「そうなのか……」
妾の「のじゃロリ」語に、こんな設定が備わっていたとは。いや、だからといって、結局、何の解明にもなっていないのじゃが……
「もう一つの特徴は、姫が生まれた時、その手に『皇威のダイアモンド』を握っておられたことです」
「皇威のダイアモンド?」
「別名『機動石』とも言います。その名の由来は明らかではありませんが……明らかなのは、皇族の中に、稀に同じような石を持って生まれる者が現れること。これは皇祖の血を濃く引く者として歓迎されます」
「機動石……」
(ヤバいな……)
ルシアンは淡々と説明の口調を積み重ねておるが、妾はひそかに冷や汗を掻いていた。
機動石。
この字面がもう駄目じゃ。
そんなの……そんなの、妾に巨大ロボットの乗組員になれと命じているも同じじゃろう。ヒーロー物といえば戦闘用ロボ。ヒーローは必ず巨大ロボットに乗らねばならぬ。
乗るなら雅仁であろう。そう思って慢心しておったのじゃ。悪ののじゃロリが戦闘用機体に乗るはずがない。じゃが、妾の手の中に機動石があったじゃと?
「……その機動石は、今どこに」
「それが見つかっていないんですよ。誘拐された貴女は見つかったのですが、ダイアモンドはどこにも無かった。恐らくそれが、姫の容姿の変化と、記憶喪失の原因ではないかと考えられます」
「容姿の変化と記憶喪失?」
妾はおうむ返ししたが、ルシアンは直接答えず、ジョーカーの方に顎をしゃくって見せた。
お前が説明しろ、ということらしい。それを受けて、ジョーカーの冷静な声が流れ出す。
「レジーナ様が攫われたのは、今から一年ほど前のことです。帝国を挙げて捜索が行われましたが、未だに犯人は見つかっていません。その間に叛乱軍による首都陥落が起き、我々の捜索網も分断を余儀なくされました。最終的に、とある植民星の退役軍人が、闇オークションで『白雪姫の眠る柩』を落札したという話を耳にしまして」
「白雪姫……童話か?」
「色は白く、唇は朱く、髪は黒い。白雪姫のような少女が、仮死状態で眠り続けているのをどこぞの好事家が拾って、水晶製の柩に閉じ込め、オークションで売りに出したという話です。心臓は止まっていて、どう見ても死んでいるのに腐り落ちることもない。死んでいるというよりは、時が止まっているようだったという話です。無論、レジーナ様は黒髪ではない。ですが、髪色ならば染めている可能性もあると考えて、その足跡を追ったのです」
「ラスシェングレ家の当主は、二つの条件によって決まります。千の執事を従えること、そして見た目です。この条件を満たせば、年齢は幾つだろうと関係ありません」
「美形でなければ許されぬとは、貴族の世界も随分と過酷な……」
「造作の問題ではなく、色ですね。色も造作の一部と言えばそれまでですが」
すらすらと答えるルシアンを、妾はまじまじと見た。
銀髪碧眼。銀河帝国皇族の一人と言われても通用しそうな色味じゃな。
「……我々は遺伝子操作の粋を極め尽くしていますから、逆に、どんなに追求しても生まれる誤差というものに敏感なんですよ。ただの銀や青ではない、この色でなければいけないという基準があるんです。我々ラスシェングレ家だけではない、高位貴族ならば大抵、何か譲れない一族の基準というものを持っているはずです」
そう言いながら、ルシアンは妾の前に置かれたソファにすっと腰を下ろした。さっきまでそこには置かれていなかったはずのソファじゃ。
わざとらしく寛いだ様子で脚を組み、わざとらしい笑みをこちらに向けてくる。
皇女の御前としてはやや不作法、しかもその不作法をわざと演出しておる。それが許される家格であることを、こうやって教えてくれているというわけじゃな。
……なるほど、公爵らしい傲慢な態度が似合うのう。
「……という話を、本来、銀河帝国皇女である貴女にはする必要がなかったはずです。姫はまだ幼いが、皇族としての基本知識は備えておられたはず。それに貴女は、金の髪を持って生まれたにも関わらず、周囲を納得させるだけの『皇族らしさ』があった」
「……皇族らしさ?」
「一つには、その喋り方です。銀河帝国皇族のうち、稀に、生まれながらにして帝国古語を喋る者がいる」
「……帝国古語? まさかと思うが……のじゃロリ語のことか?」
「のじゃロリ語?」
ルシアンの眉間にくっきりと皺が刻まれたのを見て、妾は慌てて手を振った。
「いや、その、語尾に『のじゃ』とつくような喋り方のことじゃ」
のじゃロリ、と言って、ジョーカーには通じるのじゃが、ルシアンには通じなかったようじゃ。これが、一緒に過ごした時間の違いというやつかのう? それとも単に、ルシアンが俗な言い方に通暁しておらんというだけか?
「そうですね。帝国古語を話す者は、皇族の神秘性を高める者として大事にされています」
「そうなのか……」
妾の「のじゃロリ」語に、こんな設定が備わっていたとは。いや、だからといって、結局、何の解明にもなっていないのじゃが……
「もう一つの特徴は、姫が生まれた時、その手に『皇威のダイアモンド』を握っておられたことです」
「皇威のダイアモンド?」
「別名『機動石』とも言います。その名の由来は明らかではありませんが……明らかなのは、皇族の中に、稀に同じような石を持って生まれる者が現れること。これは皇祖の血を濃く引く者として歓迎されます」
「機動石……」
(ヤバいな……)
ルシアンは淡々と説明の口調を積み重ねておるが、妾はひそかに冷や汗を掻いていた。
機動石。
この字面がもう駄目じゃ。
そんなの……そんなの、妾に巨大ロボットの乗組員になれと命じているも同じじゃろう。ヒーロー物といえば戦闘用ロボ。ヒーローは必ず巨大ロボットに乗らねばならぬ。
乗るなら雅仁であろう。そう思って慢心しておったのじゃ。悪ののじゃロリが戦闘用機体に乗るはずがない。じゃが、妾の手の中に機動石があったじゃと?
「……その機動石は、今どこに」
「それが見つかっていないんですよ。誘拐された貴女は見つかったのですが、ダイアモンドはどこにも無かった。恐らくそれが、姫の容姿の変化と、記憶喪失の原因ではないかと考えられます」
「容姿の変化と記憶喪失?」
妾はおうむ返ししたが、ルシアンは直接答えず、ジョーカーの方に顎をしゃくって見せた。
お前が説明しろ、ということらしい。それを受けて、ジョーカーの冷静な声が流れ出す。
「レジーナ様が攫われたのは、今から一年ほど前のことです。帝国を挙げて捜索が行われましたが、未だに犯人は見つかっていません。その間に叛乱軍による首都陥落が起き、我々の捜索網も分断を余儀なくされました。最終的に、とある植民星の退役軍人が、闇オークションで『白雪姫の眠る柩』を落札したという話を耳にしまして」
「白雪姫……童話か?」
「色は白く、唇は朱く、髪は黒い。白雪姫のような少女が、仮死状態で眠り続けているのをどこぞの好事家が拾って、水晶製の柩に閉じ込め、オークションで売りに出したという話です。心臓は止まっていて、どう見ても死んでいるのに腐り落ちることもない。死んでいるというよりは、時が止まっているようだったという話です。無論、レジーナ様は黒髪ではない。ですが、髪色ならば染めている可能性もあると考えて、その足跡を追ったのです」
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