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第三十七話 これが金持ちの発想なのか
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「オ、オマエは……エルドォォォォ!」
予想外なことに……いや、これは当然の帰結と言うべきか? エルド教官が現れたことで、シェイドナムに乗っておる葉垣元総司令が切れた。
「オマエだけは……オマエだけは、許さんぞォォォ」
さっきまで謎の機械音を発するだけだったシェイドナムから、憎悪と怨恨の篭った呻き声が絶え間なく漏れ出てくる。
一体何をしたのじゃエルド教官。
想定を超える恨まれ方をしておるぞ。
「散々馬鹿にしたのは聞いておるが、実は積極的に虐めたんじゃなかろうな?」
「何を言っているんですか、レジーナ。馬鹿にしたこともありませんよ」
「息を吐くように嘘を吐くな!」
妾の部下の中でも屈指のサイコパスに、「嘘を吐くな」と言っても意味がないのは分かっておるが、世の中に常識というものがあることだけは主張しておかねばなるまい。
まるで駄々っ子のように、シェイドナムの黒い鞭が暴れ始めた。いつの間にか浅瀬に入っていたせいで、一面に水柱と飛沫が上がる。
「お父様……お父様、もう止めて!」
ゆかりの悲痛な声が響き渡る。
「ゆかり、下がりなさい。お父上は我々が止めます。正気に戻った時、貴方が傷付いていたら、お父上も悲しまれるでしょう」
事の元凶が、絶対に思ってはいないことをすらすらと口にしておるぞ。
妾はどん引いておったが、エルド教官は確かに強い。シェイドナムのあちこちに魔力の軛を撃ち込んで、しばらく動きを止めてくれた。
「さて、そろそろ、彼が到着する頃ではないですか」
「彼?」
「巨大兵器を前に個人の武勇は役に立たない、と以前も言いましたが。巨大兵器にぶつけるなら、巨大兵器ですよね」
にこにこと言うエルド教官の顔を数秒間見つめ、妾はようやく、奴が何を言っているのか理解した。
頭上に、ヘリコプターのような風切り爆音が響いてくる。しかし、ヘリコプターではない。散開してシェイドナムを取り巻いている我々全員をすっぽり覆ってしまうような巨大な影が落ちて、妾はビクつきながら見上げた。
飛行形態を取れる巨大ロボ、という奴じゃろう。
金の縁取りが太陽に輝く。鳥型の飛行ロボットが、周囲に風圧を掛けながら舞い降りてきた。その上に、片膝をついて背を低くする体勢で乗っておるのはルシアンじゃ。彼が立ち上がると同時に、ロボットが変形した。カシャカシャと組み上がる軽快な音を立てて、シェイドナムに対抗するような人型となる。
今はロボットの肩に立つ形になっているルシアンが、遥か上方から、妾に青い眼差しを向けてきた。
「お待たせしました」
「ああ……妾、何を待っておるのか今まで知らなかったのじゃが、うん……それは何じゃ?」
「対抗兵器として、我が家で開発してみた試作機です」
「ちょっと作ってみました」みたいな風に言っておるが、ラスシェングレ家の金の匂いがぷんぷんするぞ。謎の敵対ロボットが発見されたからこちらもロボを作っておくか……それが金持ちの発想というやつなのであろうか。
(しかも、眩い……)
全面的に金、とまではいかぬが、かなり金色の面積が多い機体である。ルシアン自身には金色の要素がないくせに、金持ちだとか、技が発動する時の色が金だとか、なぜか金のイメージが付き纏うのう。
いや、それより気になるのは、
「……操縦者は? 無人型なのか?」
ルシアンが操縦している様子でもない。妾は首を傾げた。
「星間生命体研究所と組んで、各所に星間生命体を組み込めるように作ったんですよ。全身を統括する頭から脚、腕、他にもいたるところに僕の執事を詰め込んでいます」
「千人も執事がいると、そういう使い方が出来るのじゃな……」
それ、本当に執事か?
と思わぬでもないが、今はその話を突っ込んで聞いている場合でもあるまい。
というか、妾、星間生命体と言えば、以前にもルシアンに聞かされた気がするが……
「というわけで、セイランを武器に詰めたいので、召喚して下さい」
「人を武器に詰めるなど、人聞きが悪い言い方は止すのじゃ!」
分かっておる! 妾とて分かっておるぞ。
ルシアンが言っておるのは、星間生命体に侵食されたセイランを呼べ、ということじゃ。セイランはもはや大半が人ではない、と言われておるしの。
ルシアンがあまりに端的な言い方をするので、思わず反応してしまっただけじゃ。
「セイランを呼ぶのは良いが……あやつ、呼び出した途端に斬り掛かってこぬじゃろうな」
不安を口に出しながら、総裁から渡された鍵を取り出す。
「暴れるようなら、即座に無力化します。そこそこ損傷しても、武器に詰められれば十分なので」
「暴れるようなら、すぐに躾をしますよ。レジーナは何も怖がらなくていいんです」
ルシアンとエルド教官が言う。こういう時には息が合っておるな。仲は悪いが。
「妾は、お主らが一番恐ろしいのじゃ……」
本音で言えば、泣き叫びたいくらい怖いのじゃが、妾はぐっと堪えてセイランを召喚した。
予想外なことに……いや、これは当然の帰結と言うべきか? エルド教官が現れたことで、シェイドナムに乗っておる葉垣元総司令が切れた。
「オマエだけは……オマエだけは、許さんぞォォォ」
さっきまで謎の機械音を発するだけだったシェイドナムから、憎悪と怨恨の篭った呻き声が絶え間なく漏れ出てくる。
一体何をしたのじゃエルド教官。
想定を超える恨まれ方をしておるぞ。
「散々馬鹿にしたのは聞いておるが、実は積極的に虐めたんじゃなかろうな?」
「何を言っているんですか、レジーナ。馬鹿にしたこともありませんよ」
「息を吐くように嘘を吐くな!」
妾の部下の中でも屈指のサイコパスに、「嘘を吐くな」と言っても意味がないのは分かっておるが、世の中に常識というものがあることだけは主張しておかねばなるまい。
まるで駄々っ子のように、シェイドナムの黒い鞭が暴れ始めた。いつの間にか浅瀬に入っていたせいで、一面に水柱と飛沫が上がる。
「お父様……お父様、もう止めて!」
ゆかりの悲痛な声が響き渡る。
「ゆかり、下がりなさい。お父上は我々が止めます。正気に戻った時、貴方が傷付いていたら、お父上も悲しまれるでしょう」
事の元凶が、絶対に思ってはいないことをすらすらと口にしておるぞ。
妾はどん引いておったが、エルド教官は確かに強い。シェイドナムのあちこちに魔力の軛を撃ち込んで、しばらく動きを止めてくれた。
「さて、そろそろ、彼が到着する頃ではないですか」
「彼?」
「巨大兵器を前に個人の武勇は役に立たない、と以前も言いましたが。巨大兵器にぶつけるなら、巨大兵器ですよね」
にこにこと言うエルド教官の顔を数秒間見つめ、妾はようやく、奴が何を言っているのか理解した。
頭上に、ヘリコプターのような風切り爆音が響いてくる。しかし、ヘリコプターではない。散開してシェイドナムを取り巻いている我々全員をすっぽり覆ってしまうような巨大な影が落ちて、妾はビクつきながら見上げた。
飛行形態を取れる巨大ロボ、という奴じゃろう。
金の縁取りが太陽に輝く。鳥型の飛行ロボットが、周囲に風圧を掛けながら舞い降りてきた。その上に、片膝をついて背を低くする体勢で乗っておるのはルシアンじゃ。彼が立ち上がると同時に、ロボットが変形した。カシャカシャと組み上がる軽快な音を立てて、シェイドナムに対抗するような人型となる。
今はロボットの肩に立つ形になっているルシアンが、遥か上方から、妾に青い眼差しを向けてきた。
「お待たせしました」
「ああ……妾、何を待っておるのか今まで知らなかったのじゃが、うん……それは何じゃ?」
「対抗兵器として、我が家で開発してみた試作機です」
「ちょっと作ってみました」みたいな風に言っておるが、ラスシェングレ家の金の匂いがぷんぷんするぞ。謎の敵対ロボットが発見されたからこちらもロボを作っておくか……それが金持ちの発想というやつなのであろうか。
(しかも、眩い……)
全面的に金、とまではいかぬが、かなり金色の面積が多い機体である。ルシアン自身には金色の要素がないくせに、金持ちだとか、技が発動する時の色が金だとか、なぜか金のイメージが付き纏うのう。
いや、それより気になるのは、
「……操縦者は? 無人型なのか?」
ルシアンが操縦している様子でもない。妾は首を傾げた。
「星間生命体研究所と組んで、各所に星間生命体を組み込めるように作ったんですよ。全身を統括する頭から脚、腕、他にもいたるところに僕の執事を詰め込んでいます」
「千人も執事がいると、そういう使い方が出来るのじゃな……」
それ、本当に執事か?
と思わぬでもないが、今はその話を突っ込んで聞いている場合でもあるまい。
というか、妾、星間生命体と言えば、以前にもルシアンに聞かされた気がするが……
「というわけで、セイランを武器に詰めたいので、召喚して下さい」
「人を武器に詰めるなど、人聞きが悪い言い方は止すのじゃ!」
分かっておる! 妾とて分かっておるぞ。
ルシアンが言っておるのは、星間生命体に侵食されたセイランを呼べ、ということじゃ。セイランはもはや大半が人ではない、と言われておるしの。
ルシアンがあまりに端的な言い方をするので、思わず反応してしまっただけじゃ。
「セイランを呼ぶのは良いが……あやつ、呼び出した途端に斬り掛かってこぬじゃろうな」
不安を口に出しながら、総裁から渡された鍵を取り出す。
「暴れるようなら、即座に無力化します。そこそこ損傷しても、武器に詰められれば十分なので」
「暴れるようなら、すぐに躾をしますよ。レジーナは何も怖がらなくていいんです」
ルシアンとエルド教官が言う。こういう時には息が合っておるな。仲は悪いが。
「妾は、お主らが一番恐ろしいのじゃ……」
本音で言えば、泣き叫びたいくらい怖いのじゃが、妾はぐっと堪えてセイランを召喚した。
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