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弟子を自分の色に染めようとするのは止めて下さい:フィヨル様
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「純白のローブに天使の翼。それにこの疑似後光を付ければ、天界人そのもの! すぐにでも、かずねを天界に連れて行けます」
「はあ? 偽物の翼に意味なんてあると思ってるの? むしろ、純正なものを尊ぶ天界人に疎まれ蔑まれるだけだろ。そもそも地上の生き物を天界に連れて行こうって発想が間違いだ。お空をパタパタ飛んでいて、頭に雲でも詰まったか?」
容赦ない口調で、バシバシと突っ込みを決める少年。
私の第二のお師匠様、フィヨル様です。
(そう、言ってやってフィヨル様! でもあんまり言い過ぎると、グレスエル様の堕天使化が進行しちゃうから、程々のところで止めて!)
応援したいけれど応援しきれない、それがフィヨル様。絶対に私の都合がいいようには動いてくれないフィヨル様。むしろ、全世界を敵に回すために生きてるんじゃないかな?
「天界人って、本当に常識というものがないね。知性の在り方というのが違うんだろうね? それだけかけ離れすぎていると、側にいるだけで和音も疲れて可哀想だよ。今からでも師匠の座を辞して、尻尾を巻いて帰ったらいいのに」
「くっ……」
冷たい言葉が氷魔法のように間断なく突き刺さる。
超攻撃特化型ハイエルフ、フィヨル様(253歳)。
見た目は若いけど、育成論についての本を著すほどに熱心な学識者で、これまでに取った弟子は百人以上。問題は、その弟子全てに嫌われ恨まれていることだけど……
「天才は孤独なものだ。……分かるだろう?」
王城の一室で、私と初めて引き合わされたとき。
フィヨル様は憂いに満ちた蒼い目を伏せ、片手で私と握手しつつ、もう片手はひっきりなしに魔法文字を描いては、廊下に並ぶ窓という窓をかち割って飛び込んでくる暗殺者に向かって強烈な攻撃魔法を叩き込んでいた。
……いや、暗殺者じゃなかったんだけど。そもそも暗殺って、こんなに白昼堂々、うるさくやるものじゃないよね。
「死ね、フィヨル師!」「フィヨル師、貴方の命は貰い受ける!」「貴方に教えを受けたことは我が人生最大の汚点!」
とか何とか、口々に叫んでいるし。
(滅茶苦茶嫌われてる……?)
かつて弟子だったらしい人たちにこれだけ嫌われるとか。本当に名高い教育者なの?
そんな状況で、「分かるだろう」とか言われても「分からん」としか答えようがない。でも、それを正直に答えるのも何なので、私は愛想笑いで誤魔化しておいた。
だって、魔王を倒すまでの短い付き合いだし。
深く関わり合う気もなかった。だから、フィヨル様が山のような課題を押し付けてきても、出来る分しかやらなかったし、「何故やらない」と怒られても「出来なかったからです」と平然と答えていた。出来ないものは出来ないよね! 異世界から来た女子高生相手に何を期待してるんだって話ですよ!
そしたら、フィヨル様が、「僕を前にすると、誰もが劣等感に苛まれる……下級種である自分を思い知らされて、僕を憎むようになるんだ。お前のように、劣等感に潰れず、まっすぐ僕を見てきた者は初めてだ」とか言い始めた。何言ってんだこの高慢エルフ、と思ったけれど、やっぱり何も言わずに放置していた(面倒だから)
その結果がこれです。
「……フィヨル様、その服は何ですか?」
「世界樹の護り手の里で、エルフたちが紡いだ衣だ。これを着ればエルフの里人は受け入れてくれる。お前は下級種とはいえ、その……割と上等だから、大丈夫だとは思うが……あと、これ」
すっと差し出されたのは、肌と同じ色をした一対の何か。
「これを耳につければ、エルフと同じに見える」
最近は、エルフ耳みたいになる付け耳(コスプレ用)も売ってるんですよ、ご存知でしたか皆様?! ……それにしても、偽物の翼と後光をけちょんけちょんに貶していたくせに、偽物の耳を平然と勧めてくるフィヨル様、本当に「そういうところだぞ」としか言えない。
せめて、もうちょっと舌の根が乾いてから言って欲しいな!
「はあ? 偽物の翼に意味なんてあると思ってるの? むしろ、純正なものを尊ぶ天界人に疎まれ蔑まれるだけだろ。そもそも地上の生き物を天界に連れて行こうって発想が間違いだ。お空をパタパタ飛んでいて、頭に雲でも詰まったか?」
容赦ない口調で、バシバシと突っ込みを決める少年。
私の第二のお師匠様、フィヨル様です。
(そう、言ってやってフィヨル様! でもあんまり言い過ぎると、グレスエル様の堕天使化が進行しちゃうから、程々のところで止めて!)
応援したいけれど応援しきれない、それがフィヨル様。絶対に私の都合がいいようには動いてくれないフィヨル様。むしろ、全世界を敵に回すために生きてるんじゃないかな?
「天界人って、本当に常識というものがないね。知性の在り方というのが違うんだろうね? それだけかけ離れすぎていると、側にいるだけで和音も疲れて可哀想だよ。今からでも師匠の座を辞して、尻尾を巻いて帰ったらいいのに」
「くっ……」
冷たい言葉が氷魔法のように間断なく突き刺さる。
超攻撃特化型ハイエルフ、フィヨル様(253歳)。
見た目は若いけど、育成論についての本を著すほどに熱心な学識者で、これまでに取った弟子は百人以上。問題は、その弟子全てに嫌われ恨まれていることだけど……
「天才は孤独なものだ。……分かるだろう?」
王城の一室で、私と初めて引き合わされたとき。
フィヨル様は憂いに満ちた蒼い目を伏せ、片手で私と握手しつつ、もう片手はひっきりなしに魔法文字を描いては、廊下に並ぶ窓という窓をかち割って飛び込んでくる暗殺者に向かって強烈な攻撃魔法を叩き込んでいた。
……いや、暗殺者じゃなかったんだけど。そもそも暗殺って、こんなに白昼堂々、うるさくやるものじゃないよね。
「死ね、フィヨル師!」「フィヨル師、貴方の命は貰い受ける!」「貴方に教えを受けたことは我が人生最大の汚点!」
とか何とか、口々に叫んでいるし。
(滅茶苦茶嫌われてる……?)
かつて弟子だったらしい人たちにこれだけ嫌われるとか。本当に名高い教育者なの?
そんな状況で、「分かるだろう」とか言われても「分からん」としか答えようがない。でも、それを正直に答えるのも何なので、私は愛想笑いで誤魔化しておいた。
だって、魔王を倒すまでの短い付き合いだし。
深く関わり合う気もなかった。だから、フィヨル様が山のような課題を押し付けてきても、出来る分しかやらなかったし、「何故やらない」と怒られても「出来なかったからです」と平然と答えていた。出来ないものは出来ないよね! 異世界から来た女子高生相手に何を期待してるんだって話ですよ!
そしたら、フィヨル様が、「僕を前にすると、誰もが劣等感に苛まれる……下級種である自分を思い知らされて、僕を憎むようになるんだ。お前のように、劣等感に潰れず、まっすぐ僕を見てきた者は初めてだ」とか言い始めた。何言ってんだこの高慢エルフ、と思ったけれど、やっぱり何も言わずに放置していた(面倒だから)
その結果がこれです。
「……フィヨル様、その服は何ですか?」
「世界樹の護り手の里で、エルフたちが紡いだ衣だ。これを着ればエルフの里人は受け入れてくれる。お前は下級種とはいえ、その……割と上等だから、大丈夫だとは思うが……あと、これ」
すっと差し出されたのは、肌と同じ色をした一対の何か。
「これを耳につければ、エルフと同じに見える」
最近は、エルフ耳みたいになる付け耳(コスプレ用)も売ってるんですよ、ご存知でしたか皆様?! ……それにしても、偽物の翼と後光をけちょんけちょんに貶していたくせに、偽物の耳を平然と勧めてくるフィヨル様、本当に「そういうところだぞ」としか言えない。
せめて、もうちょっと舌の根が乾いてから言って欲しいな!
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