最低最悪のクズ伯爵

kae

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最低最悪のクズ伯爵に嫁がされそうになったので、全力で教育して回避します!

第19話 欲のないことですな

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 孤児院のお祭りで振る舞って以来、ユフレープは飛ぶように売れるようになった。
 特にジャムは、プラテル伯爵領内の使っていなかった別邸を改造した工場で、新しく雇った人員が常に作り続けいるが、予約で生産が追い付かないような状況だ。



 ジャムは貴族にも売れた。
 生のフルーツは以前と同じように大変希少で、貴族と言えどもめったに食べられないからだ。


 こちらから出向かなくても、売ってくれという者がひっきりなしに来るようになった。
 ケヴィンの昔仲が良かったという友人が、何事もなかったかのように『久しぶり!』と言ってやってくることもあった。


 そのような時、ケヴィンは特に訪問を断る事もなく、しかし優遇することもなく。ただ「久しぶりだね」と言って、適正価格で、適正な順番で売るだけだった。


「なんだよケヴィン、水臭いな。子どもがユフレープジャムを食べてみたいってうるさくてさ。1瓶くらい融通してくれよ。友達のよしみでさ!」
「悪いな。公爵様や侯爵様にも待っていただいているような状態なんだ。」



 ケヴィンにそう言われて怒って帰る“ユウジン”もいれば、『お前大人になったんだな』とちょっと嬉しそうにして、大人しく予約リストに名前を書いていく“友人”もいた。

 そんな“友人”は、意外なことに結構いたのだった。






*****
 






 ある日のこと、ケヴィンが他の客と会う予定の日に、最近台頭してきた、特に勢いのある新興の商会から会って欲しいという申し入れがあった。


 他の日にしてくれないかと頼んでも、どうしても商会長が、時間がとれるのがその日なのだと言って譲らない。



「どうしようか。会えるのがその日だけと言うのも妙な話だし、商会のほうを断ってもいいんだけど。」

「・・・・今は評判のおかげでジャムが飛ぶように売れていますが、ある程度行き渡ったら人気も落ち着いてくるでしょう。そうなった時に安定的に仕入れてくれる商会があれば、助かるはずです。商会のほうは私だけでうかがっても良いか聞いてみてくれませんか。ケヴィン様は先客のかたを優先してください。」
「アメリヤだけで?女性一人では危険だ。」
「何を言っているんですか、ケヴィン様。一人で商談することなんて、今まで何回もありましたよ。というか、基本的にずっと一人でやってきましたから。」


 孤児院で作る品を小さな商会に置いてもらうように頼みに行くことは、これまでに何度もあった。確かに女一人で商談に行くと、足元を見られることや見下されることも多かったけれど、だからこそ今でも取引を続けられているのは、公明正大な信頼できる相手だけだ。


 それに若い頃は危うく危険な目に遭いそうなこともあったけれど、ここ最近はそんな機会もほとんどない。



「・・・護衛に、ベルタを連れて行くこと。それは譲れない。いいね?」
「まあ、それは良いですけど。」


 ケヴィンが妙に真剣な目で、表情で忠告してくるので、アメリヤは大げさだなーと思った。ベルタというのはプラテル屋敷の庭師だけど、プラテル屋敷は基本的に人員が足りないので、掃除や雑用など、あらゆることをしてくれている。
 体格が良いので力仕事は基本的に彼の仕事だ。

 最近プラテル屋敷に貴族の訪問が増え、使う機会の増えた応接室やティールームを整えるために家具の入れ替えを行った際には、ケヴィンも自ら一緒に手伝って運んだので、ベルタは目を白黒させて驚いていた。



 貴族に会って話す機会の増えたアメリヤは、ここ最近は容姿を整えることにも気を遣い、髪や爪などしっかりと手入れをしていた。更にマナーの練習も欠かさず、ユリア様の置いていかれたドレスを着る機会も増えた。

 元々聡明で明るくて、人に親しみを感じさせて安心させるような不思議な魅力のあるアメリヤだったが、ドレスを着てお化粧をして、更に立ち居振る舞いも日に日に洗練されていっている。
 商談中に目を細めて見つめる男性も増えてきていることに、アメリヤは気が付いていなかった。



 


*****






「やあきたね。君がプラテルの女神さんか。」
「プラテルの女神?誰のことでしょう。」

 商会のほうへ出向いたアメリヤを出迎えたのは、一見ニコニコと優しそうに笑う中年の男性だった。 
 日頃良い物を食べているのか、お腹が出ていて随分恰幅が良い。



 アメリヤは不本意ながら孤児院の聖母と呼ばれたことはあるが、プラテルの女神は初耳だ。多分誰か別人と間違えていると思う。

「君のことだよ、アメリヤさん。借金まみれの崩壊寸前のプラテル領にある日突然現れたかと思ったら、奇跡のようにプラテル領とプラテル伯爵を生き返らせてしまったと有名だ。」


―――なーんとなく、うさんくさい笑顔だわ。


 顔だけは笑っているけれど、思いやりとか、会えて嬉しいとか、そういう感情が全く伝わってこない。

 しかしこういうことは商売をしているとよくあることだ。
 ・・・外側だけの商売用の笑顔ということだろう。

 これまでの経験上、同じように胡散臭い笑顔をしていても、実は中身は性格最悪でこちらをだまそうとしてくる人もいたし、親しくなってきたら本当の笑顔を見せてくれた人もいた。
 この人はどちらだろうか。


「ジギスムント商会の商会長のジギスムントだ。よろしく頼むよアメリヤさん。」
「よろしくお願いいたします。」


 気合を入れ直して、差し出された手を握り返したアメリヤだった。







 商会長の話とは、やはりユフレープのことについてだった。
 ユフレープジャムを仕入れたいというのは予想通りだったけれど、更にユフレープジャムのレシピと権利を買いたいと言ってきたので、それについてははっきりと断る。
 
 ジャムのレシピは特に内緒にしていない。現に街の人に聞かれてホイホイ教えているので、柑橘系のジャムを家庭で作るのも流行り始めている。

 だからこの男が言う「権利を買いたい」とは、「ジギスムント商会でもジャムを作っていいですか」という意味ではない。「ジギスムント商会以外にジャムを作らせなるな」という意味だろう。



「もうレシピは公開していますので、好きに使っていただいて結構ですよ。プラテル領では皆作っていますし。」
「いやあ、実に欲のないことですな。まあ各ご家庭で作る分には目をつぶりましょうか。しかし商売目的で作ることができる権利は、是非我が商会に独占させていただきたい。当然のことながら、それ相応の謝礼を約束いたしますぞ。」


「それはもしも権利を売ったら、それ以降我がプラテル領でもユフレープジャムの製作ができなくなるという意味ですか。」
「お忙しい伯爵ご自身が、いつまでも自ら監修し続けるのは大変でしょう。我が商会で製造から販売まで、全て肩代わりいたしますということです。」
「ユフレープの仕入れはどうするのですか?ゴルドバ公爵から仕入れるめどがついているのでしょうか。」
「いやあ、はっはっは。ユフレープの仕入れはこれまで同様プラテル領にしていただいて。」
「間にお宅の商会を挟むメリットがありませんね。今のユフレープの仕入れ量でしたら、プラテル領だけで十分やっていけますから。」




 知らない者が見たら、喧嘩をしていると勘違いしたかもしれない。
 そのくらい激しく、意見を戦わせる。
 図々しいほどの条件を言ってくるジギスムントだったが、それについてはアメリヤは気にならなかった。


 腹の中で何を考えているか分からないよりも、正面からハッキリと希望を言われたほうが分かりやすい。



「ふむ。噂以上にしっかりとしたお嬢さんだ。」

 ジギスムントのほうも、特に気分を害した様子はなく、逆に機嫌よさそうに笑みを深める。
 先ほどまでの外面ニコニコ笑顔と違って、思わずでた笑みといった感じだ。
 それはまるで悪徳商人といったような悪い微笑みだったが、こちらのほうがよほど人間味がある。


「・・・いきなり欲張りすぎましたかな。ではまず、ユフレープジャムをうちの商会で扱わせていただくのは可能ですか。」
「予約分を捌くのにせいいっぱいで、今すぐには用意できませんが、将来的には是非お願いしたいです。」
「ふむ。もしも将来的に、ユフレープジャムの製造を、伯爵領の他に任せたくなる時がきたら、ジギスムント商会に頼んでいただくというのは?」
「その時に、良いお付き合いをさせていただけていれば、前向きに検討いたします。」



「はっはっはっはっは!実に愉快だ。余計な欲はかかないほうが良さそうですな。是非お宅の領とは、良いお付き合いをさせていただきたい。」



 ジギスムント会長は、そう言って心から嬉しそうに笑った。


―――うん。この人はちょっと欲張りだし、自分の商会の有利になるように交渉してくるけれど、それは商人として当然のことだわ。正直な分、やりやすい。



 アメリヤとしても、全く不快感がない。ジギスムントは希望を正直に伝えてくるし、それが嫌で条件に合わなければ断ればいい。そしてこちらも好きに希望を伝えればいいし、条件に合わなければジギスムントも断るだろう。

 条件が合えば契約するし、合わなければしない。条件が合わなくても、お互いに気にしない。
 商売相手として、理想的かもしれない。




「さて、私の用事はこれだけなのですが、実は知り合いに頼まれごとがありましてね。それで無理を言ってこの日を指定させていただいたのです。」



 言いたいことを言い合えて、ある意味スッキリとしていたアメリヤに、ジギスムントがそんなことを言いだした。


 部屋の隅に控えていた人物が、その言葉と同時にアメリヤの前に進み出てきた。
 シンプルな服装をしていたので、ジギスムントの後ろに控えていたその人物を、アメリヤは使用人だと思って気にしていなかった。



「紹介いたしましょう。この方はホーエンベルク子爵。うちも何度か出資していただいたことのある投資家のかたでして。是非アメリヤさんとお話ししたいということで、本日お呼びいたしました。」
「初めまして、アメリヤさん。私はフィクトル・ホーエンベルク子爵と申します。」
「・・・・・始めまして。」





 細くてヒョロリと背の高い、少し顔色の悪いその男性は、確かにアメリヤの見た事のない、初めて会った人物だった。
 だけどアメリヤはこの名前を何度も見た事、聞いたことがあった。


 フィクトル・ホーエンベルク子爵。

 ケヴィンに高利で貸し付けをしていた『お友達』の名前だった。




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