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空白の5年間
③
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『セドリック・ハウケ様
昨夜はありがとうございました。
セドリック様にお声を掛けていただけなかったら、私は今頃どうなっていたことでしょう。
運命の神様が、あなたと出会わせてくれた幸運に感謝をしながら、今お手紙を書いています。
あなたは他の人と揉める可能性を恐れる事もなく、私を助けて下さいました。
社交界での噂など気にせず、紳士として家まで送り届けて下さいました。
本当に、素晴らしい方です。
あなたの切れ長の瞳や、私に向けていただいた暖かな優しい笑顔、頬にかかる優しいダークブロンドの髪。
目を閉じると浮かんできてしまうので、眠れぬ夜を過ごしています。
あと100回思い出した頃、ようやく東の空から日が昇ることでしょう。
今度是非お礼をさせてください。
リクサ・ルガーより、心からの感謝と愛を込めて』
*****
夜会のあった次の日の朝、大量のアガパンサスの花と一緒に届いた手紙を、ルガー家の使者の目の前で、さっさと開封して読む。
「やあ、アガパンサスの見事な花束ですね。花言葉はたしか『恋の訪れ』に『ラブレター』」
優秀過ぎる執事カミールは、さすがに花言葉まで完璧にマスターしているらしい。
プラテル伯爵から引き抜いて以来、ちょうどいいからと俺専用として働いてもらっている。
「それでは失礼いたします」
「イヤちょっと待て」
使命を果たして帰ろうとするルガー家の使者を引き留める。
カミールがすかさずレターセットを差し出してくれたので、その場で『いえいえ、紳士として、困っている令嬢になら誰にでもする、当然のことをしたまでですから。お気になさらず』と書いて、使者に渡す。
「くれぐれも、お気になさらず。このお花でお礼は十分ですと、ルガー夫人にお伝えください。くれぐれも」
そう念を押して手紙を押し付けると、使者は引きつった笑顔で受け取って、去って行った。
「正直申し上げて、セドリック様がそこまで女性を遠ざける理由が分かりません。ユリア様はハウケ家から出ての再婚をお望みなんですよね。セドリック様も、他の方とデートの一回や二回なされても、ユリア様に止める権利はないのではないですか」
今は俺専属の執事となったカミールは、プラテル伯爵家で働いていた頃から一緒に仕事をしていたこともあり、ハウケ伯爵やユリアよりも、俺を優先してくれるところがある。
それは嬉しいけれど、俺よりもどこの誰とも知らない再婚相手を探してくれ言うユリアに対して、少し怒っているようなところがある。
「止める権利なんてないさ。……止めてくれるなら嬉しいけどな」
「なぜそこまでセドリック様がユリア様のことをお好きなのか、分かりません。ルガー夫人、一度夜会で助けたからといって、これからも女性お一人で子爵家を切り盛りされるのはさぞかし大変でしょう。可哀そうではないですか」
カミールが遠慮なく、ポンポンと厳しい意見を言ってくる。
一緒に仕事をしているうちに、遠慮をしていては効率的に話が進まないと考え、思ったことはそのままどんどん言ってくれと頼んだのは俺だ。
既に主従と言うよりも、仕事の相棒として頼りにしている。
別にユリアにも、ハウケ伯爵にも女性と出掛けるのを止められていない。
止めてなんてくれない。
ただ俺が、王都で化粧の匂いのする女性とデートをする時間よりも、あのハウケの領地でユリアやレオと、木陰で寝転がってお弁当を食べたり、追いかけっこをしたり、釣りをする時間が眩しすぎて、楽しすぎて、早くあそこへ帰りたいだけ。
例えいつかユリアが出ていってしまうとしても、それまではせめて、家族としてでも良いから、できるだけ一緒の時を過ごしたいだけだった。
昨夜はありがとうございました。
セドリック様にお声を掛けていただけなかったら、私は今頃どうなっていたことでしょう。
運命の神様が、あなたと出会わせてくれた幸運に感謝をしながら、今お手紙を書いています。
あなたは他の人と揉める可能性を恐れる事もなく、私を助けて下さいました。
社交界での噂など気にせず、紳士として家まで送り届けて下さいました。
本当に、素晴らしい方です。
あなたの切れ長の瞳や、私に向けていただいた暖かな優しい笑顔、頬にかかる優しいダークブロンドの髪。
目を閉じると浮かんできてしまうので、眠れぬ夜を過ごしています。
あと100回思い出した頃、ようやく東の空から日が昇ることでしょう。
今度是非お礼をさせてください。
リクサ・ルガーより、心からの感謝と愛を込めて』
*****
夜会のあった次の日の朝、大量のアガパンサスの花と一緒に届いた手紙を、ルガー家の使者の目の前で、さっさと開封して読む。
「やあ、アガパンサスの見事な花束ですね。花言葉はたしか『恋の訪れ』に『ラブレター』」
優秀過ぎる執事カミールは、さすがに花言葉まで完璧にマスターしているらしい。
プラテル伯爵から引き抜いて以来、ちょうどいいからと俺専用として働いてもらっている。
「それでは失礼いたします」
「イヤちょっと待て」
使命を果たして帰ろうとするルガー家の使者を引き留める。
カミールがすかさずレターセットを差し出してくれたので、その場で『いえいえ、紳士として、困っている令嬢になら誰にでもする、当然のことをしたまでですから。お気になさらず』と書いて、使者に渡す。
「くれぐれも、お気になさらず。このお花でお礼は十分ですと、ルガー夫人にお伝えください。くれぐれも」
そう念を押して手紙を押し付けると、使者は引きつった笑顔で受け取って、去って行った。
「正直申し上げて、セドリック様がそこまで女性を遠ざける理由が分かりません。ユリア様はハウケ家から出ての再婚をお望みなんですよね。セドリック様も、他の方とデートの一回や二回なされても、ユリア様に止める権利はないのではないですか」
今は俺専属の執事となったカミールは、プラテル伯爵家で働いていた頃から一緒に仕事をしていたこともあり、ハウケ伯爵やユリアよりも、俺を優先してくれるところがある。
それは嬉しいけれど、俺よりもどこの誰とも知らない再婚相手を探してくれ言うユリアに対して、少し怒っているようなところがある。
「止める権利なんてないさ。……止めてくれるなら嬉しいけどな」
「なぜそこまでセドリック様がユリア様のことをお好きなのか、分かりません。ルガー夫人、一度夜会で助けたからといって、これからも女性お一人で子爵家を切り盛りされるのはさぞかし大変でしょう。可哀そうではないですか」
カミールが遠慮なく、ポンポンと厳しい意見を言ってくる。
一緒に仕事をしているうちに、遠慮をしていては効率的に話が進まないと考え、思ったことはそのままどんどん言ってくれと頼んだのは俺だ。
既に主従と言うよりも、仕事の相棒として頼りにしている。
別にユリアにも、ハウケ伯爵にも女性と出掛けるのを止められていない。
止めてなんてくれない。
ただ俺が、王都で化粧の匂いのする女性とデートをする時間よりも、あのハウケの領地でユリアやレオと、木陰で寝転がってお弁当を食べたり、追いかけっこをしたり、釣りをする時間が眩しすぎて、楽しすぎて、早くあそこへ帰りたいだけ。
例えいつかユリアが出ていってしまうとしても、それまではせめて、家族としてでも良いから、できるだけ一緒の時を過ごしたいだけだった。
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