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17.問5「性善説と性悪説」1

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リンゴーン、リンゴーン。
始業を告げる鐘が鳴り響く。
鐘の音が鳴るのと同時にスーッとMr.クロウが教室内へ入ってきて教壇に上る。

「12名ですか。先の授業で大分人数が減ってしまいましたね。寂しいことです。ですが、ここ神養成専門学校は次代の神を養成する学校。その授業は厳しいもので脱落者が多いのはやむを得ないことです。では皆さん、気持ちを切り替えて次の授業を始めるとしましょう」

Mr.クロウが次の授業のテーマを黒板に書き始めた。
次のテーマは「人間は悪か」であった。

「さぁ、かつて人間であった皆さんに問います。人間の本質は悪か善か、皆さんの主張を聞いていきたいと思います」

すっと挙手する生徒がいた。
これまで教室の空気を一変させてきた彼だ。

「Mr.クロウ。性善説と性悪説について白黒つけたいのだろうが、こんな質問は愚問だ。人間の本質は悪に決まっているだろう。教育を受け、人間は悪が悪いことだと認識するようになる。つまり、悪を悪いことだという教育を受ける機会がなく育った人間は悪にしかならない。善の行いをしようとする人間はよい教育を受けてきたもの達だけだ」

今回もまた、テーマの核心をつくような主張を述べた。
性悪説と性善説に触れたことのなかった真一にとって、彼の意見はとても分かりやすく受け入れやすい主張だった。

「君の着眼点の良さにはいつも驚かされます。確かに人間は善と悪を区別するために教育をうけるといっても過言ではありません。善と悪を区別するとき、どのような教育を受けてきたかということが非常に高い重要性をもっています。君がいうように本来人間は教育なしでは善の行いができない生物なのかもしれませんね」

Mr.クロウも彼の着眼点の鋭さを褒めたたえた。
やはり、彼はMr.クロウからも一目置いているようだ。


「ですが、皆さん。まともな教育を受けられない人間はこの世界に数多くいます。そういった国では犯罪も多いでしょう。しかし、教育だけが全てだとしたら、世界はとっくに悪意で満ちた世界になっていると考えられるのではないでしょうか。まともな教育を受けられなかった人間でも善悪の区別がしっかりできる人間もいるのではないでしょうか」

Mr.クロウの反論も分かる。日本だってまともな教育を受けることなく育った人間はいる。それでもその人達が必ずしも悪意に満ちた存在かといえば、そうではない。
何が悪と善を生み出しているんだろう。
真一は考え込んだ。
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