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第二部 前編
06 指示通りでは終われない
しおりを挟む真っ暗な町に雪降るような電飾で彩られた街路樹、このシーズンだけの特別な仕様は劇の続きのようで非現実を演出していた。
帰り道を人工的な燈に見守られながら、冷たい石畳を三人並んで歩いた。
孤児院に差し掛かると、門前にマキナが突っ立っている。
彼女の所有者ロゼはその存在に気づき急いで駆け出した。
「マキナ!」
と主人の声が聞こえて、ロボットは顔を上げた。
「ロゼ。おかえりなさい」
「どうしてここにいたの? 寒いじゃない……冷たっ!」
手袋を外したロゼは、マキナの手に触れた。氷のような冷たさに驚いた。
この町の冬はこの国の中でも比較的温暖な気候だが、十二月の夜は十二分に寒い。
「ごめんなさい、ロゼ」
「ううん、謝るのは私……てっきり、部屋にいるって、思ってた」
二人のやり取りを見ていたエリオは
「ずっと待ってたのか? 主人の帰りを、ここで」
と尋ねた。マキナが頷くと「まじかよ」と思わず声が漏れた。
「そういう決まりでもあるの?」
とダグラスも質問した。
「はい。基本的に外出はロボット同伴です。孤児院では子どものみでの外出は控えるよう言われています」
「そう」横目で親友を見た。
「広場ではこいつ一人でいたけどな……」
エリオはその時の様子を思い出した。
「あっ」とロゼはハッとした。
「それ……待合場所までは付いてきてもらったんだけど。ポールにロボットは劇場には入れないって聞いてたから、先に帰ってもらおうって、言ったんだけど……」
「はい、ロゼ。私は、こうして孤児院へ戻って参りました」
「う、うん」
「ロボットって、難しいね」
心から思ったことを、ダグラスが口にした。
「ああ、そうだな」エリオも同意した。
青年たちは、こうしたロボットを持つことは便利だが不自由を感じないのかと疑問に思った。
「でもま、マキナは人ではないから」
「え……うん。まあ、そう、なんだけど」
黒髪の青年の意見に若干、否かなり煮え切らないロゼだ。
ロボットとはいえ、人間の姿を取っているから、余計に気がかりになったのだ。
「私は大丈夫ですよ、ロゼ」
「え……」
少女の心が読めたのか、ロボットは話し始めた。
「多少環境が過酷でも、平気です。アマレティア様がお造りになられましたから」
「う、うん」
「それに、私は――」
ロボットは主人の手を持った。ロゼは、手の冷たさに体が震えた。マキナはそれに構わず、ロゼをじっと見つめた。
「――私は、ロゼを信じていますから」
「え?」
「ロゼは、きっと帰って来ます。しかし私一人で敷地内へ戻ると、デヴォート神父に、ロゼが叱られてしまいますからね。ですので、ここで待っていたというわけです」
バラ色の瞳が笑った。
「マキナ……!」
「はい。ロゼ、劇場はどうでしっ――!」小さな主人に飛びつかれた。
「ありがとう、マキナ!」
ロボットに抱きついたロゼは、彼女の耳元でそう囁いた。
傍観者の二人は顔を見合わせると肩をすくめる仕草をした。
少女とロボットの関係には、自分たちは部外者であることをよく理解していた。
ロゼは、青年二人に向き合った。
「今日は、ありがとう」
丁寧にお辞儀をする少女に、二人の青年は微笑みかけた。
ロゼはどこか寂しげに
「一緒に観れて、良かったよ」と言った。そして
「……さよなら」と手を振った。
この門をくぐれば、また日常へ戻ってしまう。二人ともこれでお別れなんだ、先程のバレエと同じように、まるで夢のような儚い出来事だったんだと、子どもの心を締め付けた。
「ロゼ。またね」
「えっ」
ダグラスの別れの言葉に、敏感に反応した。そして「うん!」と今度は元気に手を振った。
「またね! ダグラス、エリオも!」
「ああ。またな」
手を振り返してくれたのがとても嬉しくて、小さな心が晴れ渡った。
満足して後ろを振り向き、後ろで結んだピンクのリボンを揺らしながら、孤児院の門をくぐり抜けた。
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