『定時後の偶然が多すぎる』

こさ

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第1話 「ただの上司と部下、のはずだった」  

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第1話

「ただの上司と部下、のはずだった」

 ――それは、たぶん気のせいだと思っていた。

「今日も残るのか?」

 資料をまとめていた手が止まる。
 顔を上げると、定時ぴったりで帰るはずの上司が、まだ席にいた。

「え、あ……はい。少しだけ」

 そう答えると、上司は「そうか」とだけ言って、自分のデスクに戻る。
 それだけのやりとり。
 なのに、胸の奥が妙にざわついた。

 この人は、必要以上に近づいてこない。
 声も低くて、表情もほとんど変わらない。
 仕事は的確で、無駄がなくて、社内でも一目置かれている存在だ。

 ――正直、苦手なタイプだと思っていた。

 けれど最近、残業をすると、なぜか必ずこの人が残っている。

「無理はするな」

 帰り際、そう言われて肩を軽く叩かれた。
 それだけなのに、心臓が一拍遅れて跳ねた。

(……なんで)

 ただの上司だ。
 特別な意味なんて、あるはずがない。

 なのに、エレベーターの扉が閉まる直前、
 こちらを見ていた視線が、妙に――優しかった気がして。

 その日から、
 「偶然」が、少しずつ増えていった。
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