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第二話偶然じゃない
残業が終わったのは、思ったより遅い時間だった。
「送る」
エレベーター前で、上司は当然のようにそう言った。
断る理由が見つからず、頷いてしまった自分に、少しだけ驚く。
夜の駐車場は静かで、エンジン音だけがやけに大きい。
「……いつも、残ってますよね」
助手席で、ぽつりと零した言葉に、上司はすぐには答えなかった。
「偶然だ」
短くそう言って、ハンドルを切る。
でも、その声はいつもより少しだけ低かった。
「君が帰るまで、誰かが残っていた方がいいだろ」
「え?」
信号待ちで、こちらを見た視線は、逃げ場がなかった。
「それに……君は、自分が思っているより無防備だ」
胸が、静かに音を立てる。
「勘違い、しないでください」
そう言ったのに、声がわずかに震えた。
「していない」
否定は、穏やかだった。
「最初から、偶然じゃない」
そう言って、上司は視線を外さなかった。
逃げ道は、もうどこにもない。
それでも、嫌じゃなかった。
――たぶん、最初に気づかなかったのは、
俺のほうだ。
(了)
「送る」
エレベーター前で、上司は当然のようにそう言った。
断る理由が見つからず、頷いてしまった自分に、少しだけ驚く。
夜の駐車場は静かで、エンジン音だけがやけに大きい。
「……いつも、残ってますよね」
助手席で、ぽつりと零した言葉に、上司はすぐには答えなかった。
「偶然だ」
短くそう言って、ハンドルを切る。
でも、その声はいつもより少しだけ低かった。
「君が帰るまで、誰かが残っていた方がいいだろ」
「え?」
信号待ちで、こちらを見た視線は、逃げ場がなかった。
「それに……君は、自分が思っているより無防備だ」
胸が、静かに音を立てる。
「勘違い、しないでください」
そう言ったのに、声がわずかに震えた。
「していない」
否定は、穏やかだった。
「最初から、偶然じゃない」
そう言って、上司は視線を外さなかった。
逃げ道は、もうどこにもない。
それでも、嫌じゃなかった。
――たぶん、最初に気づかなかったのは、
俺のほうだ。
(了)
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