【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

文字の大きさ
152 / 154
番外編

クリスマス 3

しおりを挟む
「ただいまー!」
 
 玄関で靴を脱いで早足で廊下を進むと、リビングのドアが開いて冬磨がやってきた。
 
「ずいぶん遅かったな?」
「う、うん、ごめんっ。ちょっと寄り道してた」
「電話したのにスマホ忘れてるし。心配するだろ?」
「ぅ……ごめんっ。本当に……っ」
 
 一時間は経ってないけど、ケーキを取りに行くだけにしては遅すぎる時間。
 冬磨、心配してくれたんだ。「何やってたんだよ」って怒るんじゃなく、心配してくれたんだ。
 
「なに天音、なんかすげぇ笑顔じゃん」
「え、あ……っ」

 冬磨の優しさが嬉しくてつい……っ。
 謝ってるのに笑っちゃだめだよね……っ。

「まぁ、無事でよかったよ」

 優しい笑顔で頭をポンとされて、ホッとしたのと同時に思わず顔がとろけた。

「お前、顔に何かついてるぞ?」
「え? ……あっ!」

 しまった! クリーム!
 あとで鏡見ろって言われてたのに忘れてた!
 どうしようどうしよう! ケーキ作ってたってバレちゃう!
 気づけばケーキの箱をぎゅうっと抱きしめていた。
 そんな俺を不思議そうに見つめた冬磨は、ケーキの箱に視線を落とし、そしてまた俺を見た。
 すると、みるみる笑顔になって「ふはっ」と笑った。

「なるほどな。じゃあこの白いのは……」

 冬磨の指が俺の頬を撫で、ゆっくりと顔が近づいてくる。

「あ、の、冬磨、ん……っ」

 ペロっと頬を舐めてちゅっとキスをされ、ふるっと身体が震えた。
 キスなんて毎日してるのに、クリームだとバレないようにしなきゃと警戒していたせいか、不意打ちすぎてドキドキが半端ない。
 
「うん、甘いな」
「き……気のせいだよ」
「鼻にもついてる」
「えっ、……ん……っ」
「やっぱ甘い」

 クスっと笑って「ありがとな、天音」と頭をくしゃっと撫でられた。
 うう……やっぱりバレちゃった……!
 せっかくのサプライズだったのに……!

「じゃあ、ケーキは冷蔵庫にしまっておくか」
「えっ、料理と一緒に並べないの?」
「ん? 食後じゃないのか?」
「だってパーティーだよ?」

 俺が首をかしげると、冬磨はまたふはっと笑った。

「んじゃ、そうしよ」

 くしゃくしゃっと俺の頭を撫でてから、笑顔でケーキの箱をそっと手に取りリビングへと向かっていった。

「ほら、天音も来いよ。パーティー始めるぞ」
「う、うん!」

 サプライズは失敗しちゃったけど、冬磨がすごく笑顔だからもうなんでもいいや。
 今日は冬磨に、クリスマスを最高に楽しんでもらいたい。
 俺の実家に挨拶に行った時、冬磨が言ったあの言葉を思い出して、胸がぎゅっと締め付けられる。

『自分がなぜ生きてるのかも分からないような毎日でした……』

 きっと、何年もクリスマスを楽しむなんてこと、なかったんじゃないかと思う。
 だからこそ、今日は冬磨をたくさん笑顔にしたい。
 すごくすごく楽しいクリスマスパーティーにしたいっ。



「うわぁ! 美味しそう!」
 
 ローストチキンはたくさんの野菜と一緒にオーブンで焼き上げて、香ばしい香りが広がっている。それからフライドポテト、サラダ、カップに入った白いスープ。

「これはシチュー?」
「クラムチャウダーだ」
「クラムチャウダー! すごい! 冬磨はなんでも作れるんだね!」
「いや、レシピ見ながら作ってみたんだ。シチューより簡単だったよ」
「えー? うそだぁ」
「ほんとほんと。ほら、天音。ケーキ出して? 早く見たい」
「……あ、う、うん」

 箱から出すのも緊張する。崩れないかな……大丈夫かな……。
 生まれて初めて作ったケーキ。冬磨、喜んでくれるかな……。
 緊張しながら箱を開け、ケーキが乗ったトレーをそっと引いた。ケーキがそのまま綺麗に出てきたのを見て、ほぅっと息をついた。
 冬磨が作ってくれた料理と一緒に、サンタが乗ったイチゴのホールケーキがテーブルを飾った。
 ドキドキと冬磨を見る。
 数回瞬きをして「あれ?」と首をかしげる冬磨に、俺は恐る恐る問いかけた。

「な、なにか変……?」

 自分でも分かるくらい、不安げな声になっていた。

「なんか俺、勘違いしたわ、ごめん」
「勘違い……?」
「いや、てっきり天音がケーキを作ってくれたんだとばっかり……」

 ……え? あれ? どういうこと?

「あの……ケーキ、作りました……っ」
「え?」
「だから……ケーキ、俺が作りました!」
「は……」
 
 冬磨は固まって目を見開いた。
 俺が作ったケーキを、穴が開きそうなくらいじっと見つめている。

「……いやいやいや、これは売り物だろ」

 真面目な顔でそんなことを言う。

「ううん。俺が作ったケーキだよ?」
「……天音が?」
「うん」
「これを?」
「うん」
「まじで?」
「まじでっ」
「……嘘だろ?」
「ほんとだよっ。スポンジはスーパーで買ったやつだけど、美香ちゃんに教えてもらいながら俺が作ったっ」

 すると、これでもかってくらいに目を見開き、冬磨が叫んだ。

「すっっっげーじゃんっ! え、まじで天音が作ったのか?! どう見ても売り物だぞこれっ!」
「そ……それは褒めすぎだよ、冬磨」
「いやまじですげぇって! そうだ、写真っ。写真撮るぞ写真っ!」
 
 俺の予想をはるかに超える冬磨の驚きと喜びようにちょっと恥ずかしくなったけど、それ以上に嬉しさが込み上げてくる。
 冬磨が喜んでくれてよかった。
 冬磨が笑顔になってくれてよかった。
 楽しいクリスマスになりそうで、本当によかった。
 冬磨はケーキをいろんな角度から撮り終えると、今度は俺を引き寄せて、料理とケーキを背景に俺たちの写真を何枚も撮り始めた。
 なかなか終わらない撮影会に、思わず笑ってしまった。
 こんなに喜んでもらえるなんて思わなかった。頑張ってケーキ作って本当によかった!

「ね、冬磨、ツリーの前でも撮ろう?」
「おお、そうだな。クリスマスだもんな」
 
 毎年こうしてクリスマスの写真が増えていったらいいな。

「よし、最後にもう一枚撮ったら飯食おう」

 最後と聞いて、シャッター音が鳴る瞬間に冬磨の頬にキスをした。
 最後……と言ったはずなのに、冬磨はそのあと何枚もキスの写真を撮りたがった。
 冬磨がすごく嬉しそうだから、もうなんでもいい!

 
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...