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おまけ♡
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「シモン……好き……」
ベッドの上で幸せそうに微笑みながら雅がささやく。
俺の顔は火がついたようにボッと熱くなった。
寝ながらささやくの……反則だって……っ。
繋いだ手を指先で優しくさすると「ん……」と声を漏らしぎゅっとにぎり返される。
俺も好きだよ……雅……。
コンコンとノックの音が響き、俺は慌てて手を離す。
雅のおばあちゃんが飲み物の入ったグラスとお菓子を持って顔を出した。
「あ、すみません。でも、俺すぐ帰るので……」
「あら、急ぎの用事でもあるの?」
「あ、いえ、特には……」
「なら雅が目を覚ますまでいてあげて。シモンくんが来てくれたのに、寝てる間に帰ったなんてことになったら後で私が怒られるわ」
俺のばあちゃんよりも少しふっくらとして白髪も少ない。それに元気で若そうに見えた。人の良さそうな優しい笑顔に、ばあちゃんを思い出して鼻の奥がツンとする。
「じゃあ、もう少しだけ……」
「帰るときまで起きなかったら、たたいて起こしてね。絶対会いたいだろうから」
「えっ……と……」
返事に困って視線を泳がせる俺に、おばあちゃんはふふっと笑ってテーブルに飲み物とお菓子を並べ「ごゆっくり」と部屋を出て行った。
おばあちゃんの『絶対に会いたいだろうから』の言葉に、その通りだろうなと思ってしまった自分が恥ずかしくなった。
朝早く『今日はシモンに会えねぇ……』と泣き顔のスタンプが雅から送られてきた。聞けば熱が出たという。『大丈夫か? いい子でちゃんと寝てろよ』と返すと『学校行きてぇ。寂しい……』と返信がきた。
昼にまたスマホが震え、見ると今度は『鼻グリグリされたー』と号泣スタンプ。なんのことかと思えば病院で検査を受けたらしい。
その後、やったー! というスタンプと『熱下がったらすぐシモンに会えるからっ!』のメッセージに、俺はすぐにでも会いたくなって学校が終わるとすぐに雅の家まで走った。
付き合うようになってから、雅はときどき俺の心臓が壊れそうなほど甘えてくることがある。誰もいない教室で。裏庭で。公園で。
でも、俺たちはあれからまだ二回目のキスをしていない。
あの日のキスは、お互いにいろいろと必死で、さらに興奮状態にあったからできたんだと思う。いまは手を繋いだり抱きしめたりするだけで脳内がテンパる。それに、なにより雅がキスを避けているように感じる。甘えて来るときは顔を上げない。目が合わない。人目を気にしているのかもしれない。
おばあちゃんが用意してくれたグラスにはオレンジジュースが入っていた。お皿の上には、かりんとうと塩味のせんべい。なにもかもがばあちゃんを思い出させる。
ばあちゃん、元気?
ばあちゃんの大好きなかりんとう、そっちにはある?
食べすぎちゃだめだぞ?
「ん……」
雅の声がかすかに漏れ聞こえて視線を戻す。
ゆっくりと目が開いて瞳が合わさった。
「…………えっ、シモン?!」
「雅、具合どう?」
「えっ、はぁっ? 待って! 俺顔洗ったっけっ。寝癖はっ。嘘だろっ。一番ヨレヨレのパジャマじゃんっ!」
雅は赤面して大騒ぎして、最後は青くなって布団を頭まで被った。
「おい、雅?」
「な……なんでいんのっ? てかいつからいんのっ?」
「十五分くらい前かな?」
「く……来るなら言えよっ!」
「学校終わってすぐ飛び出したからさ。ごめん、迷惑だったか?」
「そっ、そうじゃなくてっ! だって俺、ぜんぜん会える格好してねぇじゃんっ! 来るなら着替えとか準備とかしてぇじゃんっ!」
「熱あんのになに言ってんだ。ただの見舞いだ。そんなの気にすんなって」
今の今までギャンギャン言っていた雅が急に静かになった。
「雅?」
雅は黙り込み、布団にくるまったままじっとして動こうとしない。
「ごめん雅。そんな困らせると思わなかったよ。どうしても心配で会いたくなってさ」
布団の上からなだめるように数回優しくポンとする。
「…………俺だって……会いたかった」
「ん」
それはメッセージを見て充分伝わっていたからわかる。
「……かっこ悪いとこ……見せたくなかった……」
「なんで。熱出してんだから普通だろ? なんもかっこ悪くないよ。……っつうか、かっこ悪い雅、俺はもっと見たい」
「俺はやだ……」
「……そっか」
「シモンには……ずっとカッコイイ俺だけ見て、ずっと好きでいてほしい。少しでも長く付き合いてぇもん……」
「…………は?」
雅いまなんて言った?
「おい、なんだそれ。まるでいつか終わるみたいな言い方だな」
「…………だって……」
「だってなんだよ」
雅がなにを思ってそんなことを言ってるのか、わけがわからなくて眉が寄る。
終わる前提で付き合ってたのかと、無性に苛立った。
「……もう……いつ幻滅されるかって毎日怖ぇんだよ……」
「なんだよ幻滅って。なんで俺がお前に幻滅するんだよ」
布団の中で丸まってる雅がさらに団子になった。
「おい、雅?」
「……やだ。言いたくねぇ」
「なんだよ、言わなきゃなんもわかんないだろ?」
「……やだ」
「……じゃあもう俺帰るわ。お前、意味わかんねぇ」
俺はそう言い捨てて立ち上がる。リュックを背負って部屋を出た。
壁に寄りかかりカウントする。一、二、三、四…………。
「待ってシモンっっ!!」
五秒でドアが開いて雅が出て来る。
「意外と早かったな?」
「シ、シモ……ン」
俺が笑いかけると雅が泣きそうな顔を見せた。
そのとき、階段の下からおばあちゃんの声が響く。
「雅どうしたの? 大声出して」
「あの、なんでもないです! 驚かせてすみません!」
俺が慌てて声を張って謝ると、びっくりしたわ、という言葉を残して足音が去っていった。
雅が俺の制服をぎゅっとつかんでいる。可愛くて口元がゆるんだ。
「雅、ごめんな。ほら、ベッド戻れ」
雅の背中を押しながら部屋に戻りドアを閉める。すると、雅がぎゅっと俺に抱きついてきた。
「雅」
俺も雅をぎゅっと抱きしめ、なだめるように背中を優しくさする。
雅がなにをそんなに怖がっているのかわからないが、話してくれないとなにもわからない。
どうして俺が雅に幻滅すると思っているのか、ちゃんと聞かせてほしい。
「シモン……俺……」
「うん。絶対幻滅なんてしないから。安心してなんでも話せよ」
雅は、グッと俺の胸に顔を押し付け、背中にまわった腕にも力がこもる。
ああ可愛い……。雅に甘えられると、俺はいつも身体が溶けたようにふにゃふにゃになる。
「俺、さ……」
「うん」
「…………俺…………もう一日中、シモンにベタベタしてたいんだ……」
「……ん?」
「人がいたって気にしないでずっとくっついてたい。誰に見られたっていいからいつでもキスしてたい。休み時間は全部シモンに会いに行きてぇし、夕方だって本当は毎日一緒にいたい。……シモンの気持ちも考えないで暴走しそうで怖ぇんだ……」
突然なんの告白だっ。心臓が爆発しそうになった。
「で……でも雅、ずっとキス避けてなかったか?」
「だって……シモンは……バレたくねぇだろ? 俺と付き合ってるなんて、知られたくねぇだろ? どこで見られるかわかんねぇのにできねぇじゃん……。あの日だって、もう少しで見られるとこだったし……」
俺たちが付き合ったあの日、雅が人影にギクリと身体を強ばらせ、俺は慌ててキスを終わらせて身体を離した。
もしかしてそれで誤解した?
だからずっと俺のために我慢してたのか?
「でも、シモンに甘えてるとさ。顔見るだけでキスしたくてたまんなくなるんだ……だから……」
「なんだ。俺はてっきり雅が人目を避けてるんだと思ってた。俺は別にバレたっていいよ。てか、いまどき男同士だからってそんな騒がれないだろ?」
「は……? それ本気で言ってる?」
雅は顔を上げて驚愕の表情を見せる。
「本気だけど」
「だ……だって……」
「だって?」
「まだ……たぶん、なんじゃねぇの?」
「たぶん?」
「たぶん好きって……言われたままだし……」
「あ……」
なんだよ、全部俺のせいだったんだ。
いつか俺と終わるかもなんて、毎日雅を不安にさせていたのは俺だったんだ。
「好きだよ、雅。俺は雅が本当に好きだ。大好きだ」
雅の目にみるみる涙がたまっていく。
「俺だって一日中雅とベタベタしたいって思ってるよ。雅が甘えてくれるとすごい嬉しいし、ずっとキスしたいって思ってた。うーん、人前ではアレだけどな?」
「…………ほん……とか?」
「うん、ほんと」
「毎日ベタベタしても……幻滅しねぇ……?」
「俺が明日から毎日ベタベタしたら、雅は幻滅するか?」
雅が驚いたように目を見開いて、涙がポロっとこぼれ落ちた。
「う、嬉しくて死んじゃうっ!」
「うん、俺も」
「シモン……」
雅が熱っぽい瞳で俺を見つめる。
俺は雅の頬を両手で包み、涙を親指の腹で拭った。
「キスしていい?」
「キスしていい?」
声がそろって雅が破顔する。
俺たちはゆっくりと顔を近づけて、唇をそっと合わせた。
前回は人生初めてのキスに舞い上がって胸がいっぱいで、夢の中の出来事のような気分だった。
でも、今回は違った。舞い上がってはいても雅をゆっくり見つめる余裕があった。目を閉じて俺のキスを受ける雅が可愛くて愛しくてたまらない。
何度も唇をついばみながら、もっと深いキスがしたくなった。
舌を入れたら……驚くかな……。
ドキドキしながら、雅の唇を舌でそっと舐める。
その瞬間、雅の目がびっくりしたようにパッと開いた。
「……嫌か?」
「なわけねぇじゃん」
雅は頬を染めて嬉しそうに微笑む。俺たちは唇を合わせながらゆっくりと唇を開いて舌を絡めた。
背中にまわった雅の手がぎゅっと俺にしがみつく。
「ん……シモ……ン……」
「みやび……っ」
唇を合わせるだけの乾いたキスとは違う濡れたキス。雅の漏らす熱い吐息に、のぼせ上がって頭がおかしくなりそう。雅の熱い舌に、まるで俺自身が溶けていくようだった。
雅の舌……熱い……ほんとのぼせる。
ん……?
熱い……?
「おいっ、雅、熱いっ!」
「……ん?」
トロンとした顔をして見上げる雅の首元をさわると、あきらかに熱い。
くっそ。これ何度あるんだよっ。
病人だってうっかり忘れてたっ。
「雅、早く寝ろ。ベッド戻れ」
「やだ、もうちょっと」
「だめだって。寝て。んで熱測れ」
「やだ……」
嫌がる雅を引っ張ってベッドに寝かせ、無理やり体温計を脇に挟む。
「は……三十八度三分ってマジか……。ごめん雅。見舞いに来たのにうっかり手出しちゃった……」
「俺もごめん……シモンにうつしちゃったかも……」
「うつせば治るってよく言うけど都市伝説かな? 雅が治るなら全然いいよ」
「やだよ……治って学校行ってもシモンいなかったら意味ねぇもん……」
「なら見舞い来いよ。人目気にせず二人になれるだろ?」
「……シモンはうつったらだめだ。鼻グリグリされるぞ。あれ痛いんだぞっ」
「そうか? アレそんな痛かったっけ」
「は? めっちゃ痛てぇよっ」
痛てぇし鼻水出るし涙出るしくしゃみ出るしっ、って熱弁する雅にわかったわかったと俺はあやした。
「雅」
「うん?」
「好きだよ」
「……っ、シモン」
「ごめんな、ちゃんと伝えてなくて。もう、ずっと独り占めにしたいって思うくらい、雅が好きだよ。さっきの雅の告白さ。幻滅するどころか、すごい幸せだった」
「俺も……シモンにちゃんと好きって言ってもらえてすげぇ幸せ」
「もう、不安になるなよ?」
「……うん」
雅の手をにぎると、その手を引っ張って額にあてる。
「冷たくて気持ちい……」
「あ、冷却シートここにあるぞ。貼るか?」
「もうちょいこのまま……」
「ん。ずっとでもいいぞ?」
嬉しそうにふわっと雅が笑った。
「早く治って学校来いよ」
「ん。明日は絶対行く」
雅の宣言はちゃんと現実となって、翌日から元気に登校した。
でもまだ学校でベタベタするというのを実行できない。
『シモン、大丈夫? 帰り見舞い行くから!』
『……プリン食いたい』
『オッケー!』
『雅、好きだよ』
『俺も大好き!』
終
ベッドの上で幸せそうに微笑みながら雅がささやく。
俺の顔は火がついたようにボッと熱くなった。
寝ながらささやくの……反則だって……っ。
繋いだ手を指先で優しくさすると「ん……」と声を漏らしぎゅっとにぎり返される。
俺も好きだよ……雅……。
コンコンとノックの音が響き、俺は慌てて手を離す。
雅のおばあちゃんが飲み物の入ったグラスとお菓子を持って顔を出した。
「あ、すみません。でも、俺すぐ帰るので……」
「あら、急ぎの用事でもあるの?」
「あ、いえ、特には……」
「なら雅が目を覚ますまでいてあげて。シモンくんが来てくれたのに、寝てる間に帰ったなんてことになったら後で私が怒られるわ」
俺のばあちゃんよりも少しふっくらとして白髪も少ない。それに元気で若そうに見えた。人の良さそうな優しい笑顔に、ばあちゃんを思い出して鼻の奥がツンとする。
「じゃあ、もう少しだけ……」
「帰るときまで起きなかったら、たたいて起こしてね。絶対会いたいだろうから」
「えっ……と……」
返事に困って視線を泳がせる俺に、おばあちゃんはふふっと笑ってテーブルに飲み物とお菓子を並べ「ごゆっくり」と部屋を出て行った。
おばあちゃんの『絶対に会いたいだろうから』の言葉に、その通りだろうなと思ってしまった自分が恥ずかしくなった。
朝早く『今日はシモンに会えねぇ……』と泣き顔のスタンプが雅から送られてきた。聞けば熱が出たという。『大丈夫か? いい子でちゃんと寝てろよ』と返すと『学校行きてぇ。寂しい……』と返信がきた。
昼にまたスマホが震え、見ると今度は『鼻グリグリされたー』と号泣スタンプ。なんのことかと思えば病院で検査を受けたらしい。
その後、やったー! というスタンプと『熱下がったらすぐシモンに会えるからっ!』のメッセージに、俺はすぐにでも会いたくなって学校が終わるとすぐに雅の家まで走った。
付き合うようになってから、雅はときどき俺の心臓が壊れそうなほど甘えてくることがある。誰もいない教室で。裏庭で。公園で。
でも、俺たちはあれからまだ二回目のキスをしていない。
あの日のキスは、お互いにいろいろと必死で、さらに興奮状態にあったからできたんだと思う。いまは手を繋いだり抱きしめたりするだけで脳内がテンパる。それに、なにより雅がキスを避けているように感じる。甘えて来るときは顔を上げない。目が合わない。人目を気にしているのかもしれない。
おばあちゃんが用意してくれたグラスにはオレンジジュースが入っていた。お皿の上には、かりんとうと塩味のせんべい。なにもかもがばあちゃんを思い出させる。
ばあちゃん、元気?
ばあちゃんの大好きなかりんとう、そっちにはある?
食べすぎちゃだめだぞ?
「ん……」
雅の声がかすかに漏れ聞こえて視線を戻す。
ゆっくりと目が開いて瞳が合わさった。
「…………えっ、シモン?!」
「雅、具合どう?」
「えっ、はぁっ? 待って! 俺顔洗ったっけっ。寝癖はっ。嘘だろっ。一番ヨレヨレのパジャマじゃんっ!」
雅は赤面して大騒ぎして、最後は青くなって布団を頭まで被った。
「おい、雅?」
「な……なんでいんのっ? てかいつからいんのっ?」
「十五分くらい前かな?」
「く……来るなら言えよっ!」
「学校終わってすぐ飛び出したからさ。ごめん、迷惑だったか?」
「そっ、そうじゃなくてっ! だって俺、ぜんぜん会える格好してねぇじゃんっ! 来るなら着替えとか準備とかしてぇじゃんっ!」
「熱あんのになに言ってんだ。ただの見舞いだ。そんなの気にすんなって」
今の今までギャンギャン言っていた雅が急に静かになった。
「雅?」
雅は黙り込み、布団にくるまったままじっとして動こうとしない。
「ごめん雅。そんな困らせると思わなかったよ。どうしても心配で会いたくなってさ」
布団の上からなだめるように数回優しくポンとする。
「…………俺だって……会いたかった」
「ん」
それはメッセージを見て充分伝わっていたからわかる。
「……かっこ悪いとこ……見せたくなかった……」
「なんで。熱出してんだから普通だろ? なんもかっこ悪くないよ。……っつうか、かっこ悪い雅、俺はもっと見たい」
「俺はやだ……」
「……そっか」
「シモンには……ずっとカッコイイ俺だけ見て、ずっと好きでいてほしい。少しでも長く付き合いてぇもん……」
「…………は?」
雅いまなんて言った?
「おい、なんだそれ。まるでいつか終わるみたいな言い方だな」
「…………だって……」
「だってなんだよ」
雅がなにを思ってそんなことを言ってるのか、わけがわからなくて眉が寄る。
終わる前提で付き合ってたのかと、無性に苛立った。
「……もう……いつ幻滅されるかって毎日怖ぇんだよ……」
「なんだよ幻滅って。なんで俺がお前に幻滅するんだよ」
布団の中で丸まってる雅がさらに団子になった。
「おい、雅?」
「……やだ。言いたくねぇ」
「なんだよ、言わなきゃなんもわかんないだろ?」
「……やだ」
「……じゃあもう俺帰るわ。お前、意味わかんねぇ」
俺はそう言い捨てて立ち上がる。リュックを背負って部屋を出た。
壁に寄りかかりカウントする。一、二、三、四…………。
「待ってシモンっっ!!」
五秒でドアが開いて雅が出て来る。
「意外と早かったな?」
「シ、シモ……ン」
俺が笑いかけると雅が泣きそうな顔を見せた。
そのとき、階段の下からおばあちゃんの声が響く。
「雅どうしたの? 大声出して」
「あの、なんでもないです! 驚かせてすみません!」
俺が慌てて声を張って謝ると、びっくりしたわ、という言葉を残して足音が去っていった。
雅が俺の制服をぎゅっとつかんでいる。可愛くて口元がゆるんだ。
「雅、ごめんな。ほら、ベッド戻れ」
雅の背中を押しながら部屋に戻りドアを閉める。すると、雅がぎゅっと俺に抱きついてきた。
「雅」
俺も雅をぎゅっと抱きしめ、なだめるように背中を優しくさする。
雅がなにをそんなに怖がっているのかわからないが、話してくれないとなにもわからない。
どうして俺が雅に幻滅すると思っているのか、ちゃんと聞かせてほしい。
「シモン……俺……」
「うん。絶対幻滅なんてしないから。安心してなんでも話せよ」
雅は、グッと俺の胸に顔を押し付け、背中にまわった腕にも力がこもる。
ああ可愛い……。雅に甘えられると、俺はいつも身体が溶けたようにふにゃふにゃになる。
「俺、さ……」
「うん」
「…………俺…………もう一日中、シモンにベタベタしてたいんだ……」
「……ん?」
「人がいたって気にしないでずっとくっついてたい。誰に見られたっていいからいつでもキスしてたい。休み時間は全部シモンに会いに行きてぇし、夕方だって本当は毎日一緒にいたい。……シモンの気持ちも考えないで暴走しそうで怖ぇんだ……」
突然なんの告白だっ。心臓が爆発しそうになった。
「で……でも雅、ずっとキス避けてなかったか?」
「だって……シモンは……バレたくねぇだろ? 俺と付き合ってるなんて、知られたくねぇだろ? どこで見られるかわかんねぇのにできねぇじゃん……。あの日だって、もう少しで見られるとこだったし……」
俺たちが付き合ったあの日、雅が人影にギクリと身体を強ばらせ、俺は慌ててキスを終わらせて身体を離した。
もしかしてそれで誤解した?
だからずっと俺のために我慢してたのか?
「でも、シモンに甘えてるとさ。顔見るだけでキスしたくてたまんなくなるんだ……だから……」
「なんだ。俺はてっきり雅が人目を避けてるんだと思ってた。俺は別にバレたっていいよ。てか、いまどき男同士だからってそんな騒がれないだろ?」
「は……? それ本気で言ってる?」
雅は顔を上げて驚愕の表情を見せる。
「本気だけど」
「だ……だって……」
「だって?」
「まだ……たぶん、なんじゃねぇの?」
「たぶん?」
「たぶん好きって……言われたままだし……」
「あ……」
なんだよ、全部俺のせいだったんだ。
いつか俺と終わるかもなんて、毎日雅を不安にさせていたのは俺だったんだ。
「好きだよ、雅。俺は雅が本当に好きだ。大好きだ」
雅の目にみるみる涙がたまっていく。
「俺だって一日中雅とベタベタしたいって思ってるよ。雅が甘えてくれるとすごい嬉しいし、ずっとキスしたいって思ってた。うーん、人前ではアレだけどな?」
「…………ほん……とか?」
「うん、ほんと」
「毎日ベタベタしても……幻滅しねぇ……?」
「俺が明日から毎日ベタベタしたら、雅は幻滅するか?」
雅が驚いたように目を見開いて、涙がポロっとこぼれ落ちた。
「う、嬉しくて死んじゃうっ!」
「うん、俺も」
「シモン……」
雅が熱っぽい瞳で俺を見つめる。
俺は雅の頬を両手で包み、涙を親指の腹で拭った。
「キスしていい?」
「キスしていい?」
声がそろって雅が破顔する。
俺たちはゆっくりと顔を近づけて、唇をそっと合わせた。
前回は人生初めてのキスに舞い上がって胸がいっぱいで、夢の中の出来事のような気分だった。
でも、今回は違った。舞い上がってはいても雅をゆっくり見つめる余裕があった。目を閉じて俺のキスを受ける雅が可愛くて愛しくてたまらない。
何度も唇をついばみながら、もっと深いキスがしたくなった。
舌を入れたら……驚くかな……。
ドキドキしながら、雅の唇を舌でそっと舐める。
その瞬間、雅の目がびっくりしたようにパッと開いた。
「……嫌か?」
「なわけねぇじゃん」
雅は頬を染めて嬉しそうに微笑む。俺たちは唇を合わせながらゆっくりと唇を開いて舌を絡めた。
背中にまわった雅の手がぎゅっと俺にしがみつく。
「ん……シモ……ン……」
「みやび……っ」
唇を合わせるだけの乾いたキスとは違う濡れたキス。雅の漏らす熱い吐息に、のぼせ上がって頭がおかしくなりそう。雅の熱い舌に、まるで俺自身が溶けていくようだった。
雅の舌……熱い……ほんとのぼせる。
ん……?
熱い……?
「おいっ、雅、熱いっ!」
「……ん?」
トロンとした顔をして見上げる雅の首元をさわると、あきらかに熱い。
くっそ。これ何度あるんだよっ。
病人だってうっかり忘れてたっ。
「雅、早く寝ろ。ベッド戻れ」
「やだ、もうちょっと」
「だめだって。寝て。んで熱測れ」
「やだ……」
嫌がる雅を引っ張ってベッドに寝かせ、無理やり体温計を脇に挟む。
「は……三十八度三分ってマジか……。ごめん雅。見舞いに来たのにうっかり手出しちゃった……」
「俺もごめん……シモンにうつしちゃったかも……」
「うつせば治るってよく言うけど都市伝説かな? 雅が治るなら全然いいよ」
「やだよ……治って学校行ってもシモンいなかったら意味ねぇもん……」
「なら見舞い来いよ。人目気にせず二人になれるだろ?」
「……シモンはうつったらだめだ。鼻グリグリされるぞ。あれ痛いんだぞっ」
「そうか? アレそんな痛かったっけ」
「は? めっちゃ痛てぇよっ」
痛てぇし鼻水出るし涙出るしくしゃみ出るしっ、って熱弁する雅にわかったわかったと俺はあやした。
「雅」
「うん?」
「好きだよ」
「……っ、シモン」
「ごめんな、ちゃんと伝えてなくて。もう、ずっと独り占めにしたいって思うくらい、雅が好きだよ。さっきの雅の告白さ。幻滅するどころか、すごい幸せだった」
「俺も……シモンにちゃんと好きって言ってもらえてすげぇ幸せ」
「もう、不安になるなよ?」
「……うん」
雅の手をにぎると、その手を引っ張って額にあてる。
「冷たくて気持ちい……」
「あ、冷却シートここにあるぞ。貼るか?」
「もうちょいこのまま……」
「ん。ずっとでもいいぞ?」
嬉しそうにふわっと雅が笑った。
「早く治って学校来いよ」
「ん。明日は絶対行く」
雅の宣言はちゃんと現実となって、翌日から元気に登校した。
でもまだ学校でベタベタするというのを実行できない。
『シモン、大丈夫? 帰り見舞い行くから!』
『……プリン食いたい』
『オッケー!』
『雅、好きだよ』
『俺も大好き!』
終
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