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12 “俺”に同情する
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「あの時は色々あったのよね。私が知ってることは二つかな」
「二つ……」
「そう。一つは、秋人って芸能人が世間で騒がれ始めてね。それがまた、すっごいあんたに似てるのよ」
「ああ、うん、知ってる」
そうか、秋人の人気が出たのが中三なのか。
「似てるでしょ? そのせいであんたまでキャーキャー言われるようになってね。ストーカー並だったのよ」
「え、そこまで?」
「そうよぉ。それでだんだんあんたの様子がおかしくなって、そのうち全然笑わなくなっちゃったの」
秋人のせいでそこまで変わるのか……。
いや、具体的にどれだけ迷惑だったのか、どんな目に合ったのかは想像もできないし、きっとよっぽどだったんだろう。
「さっき、二つって言ってたけど」
「たぶん同じ頃だったのよ。あんたの恋愛対象が男だってわかったのが」
「……っ、えっ?」
俺は月森を好きだとは自覚していても、自分がゲイだとは自覚していない。
自分の性指向を親から知らされるショックを味わうことになるとは思わなかった。
そうだったのか……。俺は、ゲイなのか……。
あまりピンとはこないが、林さんとやり取りを思い出すと、たしかに女性を好きになれる感じがしなかったように思う。
月森には、出会ってすぐに好意を持ったのに。
「俺ってそんなことまで母さんに話してたんだ……」
想像以上にこの人を信頼していたんだな。
そう思った時、母さんが「まさか」と笑う。
「あんたが話すわけないでしょ。私が気づいちゃっただけよ」
「え……」
なんか、すごく普通なことのように言うけど……。
「気づけるもの……なの?」
「だってあんた、わかりやすいんだもの」
つい先程、月森が好きだとすぐに見破られたことを思い出して、ああ……と納得した。
「相手は幼馴染の子だったのよ。いつも一緒にいてね。よく遊びに来るから、あんたを見てるうちにわかっちゃったのよ」
「もしかして……付き合ってた?」
「ううん。それはないと思う。それに、あんたが笑わなくなった頃から、一緒に学校も行かなくなって、家にも遊びに来なくなったのよ。あれは振られちゃったのかなぁ」
最後はしみじみとつぶやくように母さんが言った。
俺の性格が変わった理由は、どうやら秋人だけじゃなさそうだ。
中三の俺は、本当に色々あったんだな。
「母さんが俺のこと、その……ゲイだって知ってること、前の俺はいつ頃知ったの?」
「話してないから知らなかったと思うわよ?」
平然とした顔で言ってのける母さんに驚いて、箸から昆布キャベツがボロっと落ちた。
「え、じゃあ話しちゃマズかったんじゃない……?」
「なんで?」
「なんでって……だってもし記憶が戻ったら怒るんじゃない? 前の俺が……」
俺の言葉に、母さんが首をかしげて不思議そうに見つめてくる。
「だから……知ってたのになんで黙ってたんだとか、なんで勝手に話したんだとかさ……。面倒臭いことになるんじゃない? 知らないよ、俺……」
俺のせいで母さんが怒られるかもしれないと思うと、罪悪感が押し寄せる。
今まで何年も黙っていたことを、俺のために話してくれた。それは嬉しいけれど、そのせいで前の俺との仲が壊れるのは……なんか嫌だ。
母さんがジッと俺を見つめながら口を開いた。
「前の俺とか、今の俺とか、なんでそこ切り離して考えるのよ。あんたはあんた。一人の陽樹でしょ?」
「……いや、それはそう、だけど」
そうなんだけど、俺はどうしても切り離してしまう。前の俺は、今の自分とは別人のように感じてしまう。
「私はただ、記憶をなくして苦労してる息子に知ってることを教えただけよ。記憶が戻ったって戻らなくたって、陽樹は陽樹なんだから。そんな心配はいらないわよ」
母さんは笑って続ける。
「もし記憶が戻って陽樹が怒るとしても、その陽樹の中には私のことを心配してくれる今の陽樹だっているわけでしょ?」
言われてみれば確かにそうだな……と、目からうろこが落ちる気分だった。
もし記憶が戻ったときに今の記憶が消えてしまえば、この会話だって覚えていない。そのときは母さんを面倒事に巻き込まずに済む。
そして、もしこの記憶が残っていれば、怒る陽樹を俺が止められるかもしれないんだ。
いや、それだとまるで二重人格みたいだな。
今の記憶が残ったまま前の俺が戻ってくる感覚が、全く想像できない。
でも、そうか……。前の俺とか今の俺とか、切り離さずに考えていいのか……。できるかどうかはわからないけれど、母さんのおかげでちょっと気持ちが楽になった気がした。
でも……と俺は考える。
自分がゲイだとわかると、ちょっと疑問がわいてくる。
前の俺は、月森を好きな素振りはなかったと母さんは言うけれど、ゲイなのに好きでもない男と一緒に同居なんてするだろうか。
やっぱり前の俺も月森を好きだったんじゃないか。
でも、母さんにかかると俺はわかりやすいはずなのに、前の俺は月森が好きだとはバレていない。
もしかして……俺の性格が変わった理由は、ゲイだとばれないように、性指向を必死で隠すために、気を張り詰めるようになったせいではないだろうか。
そして、秋人のせいで騒がれるようになって、さらに性格がひん曲がった。
……ありえるな。きっとそうに違いない。
完全に嫉妬対象だったはずの前の俺に、俺は初めて同情した。
「二つ……」
「そう。一つは、秋人って芸能人が世間で騒がれ始めてね。それがまた、すっごいあんたに似てるのよ」
「ああ、うん、知ってる」
そうか、秋人の人気が出たのが中三なのか。
「似てるでしょ? そのせいであんたまでキャーキャー言われるようになってね。ストーカー並だったのよ」
「え、そこまで?」
「そうよぉ。それでだんだんあんたの様子がおかしくなって、そのうち全然笑わなくなっちゃったの」
秋人のせいでそこまで変わるのか……。
いや、具体的にどれだけ迷惑だったのか、どんな目に合ったのかは想像もできないし、きっとよっぽどだったんだろう。
「さっき、二つって言ってたけど」
「たぶん同じ頃だったのよ。あんたの恋愛対象が男だってわかったのが」
「……っ、えっ?」
俺は月森を好きだとは自覚していても、自分がゲイだとは自覚していない。
自分の性指向を親から知らされるショックを味わうことになるとは思わなかった。
そうだったのか……。俺は、ゲイなのか……。
あまりピンとはこないが、林さんとやり取りを思い出すと、たしかに女性を好きになれる感じがしなかったように思う。
月森には、出会ってすぐに好意を持ったのに。
「俺ってそんなことまで母さんに話してたんだ……」
想像以上にこの人を信頼していたんだな。
そう思った時、母さんが「まさか」と笑う。
「あんたが話すわけないでしょ。私が気づいちゃっただけよ」
「え……」
なんか、すごく普通なことのように言うけど……。
「気づけるもの……なの?」
「だってあんた、わかりやすいんだもの」
つい先程、月森が好きだとすぐに見破られたことを思い出して、ああ……と納得した。
「相手は幼馴染の子だったのよ。いつも一緒にいてね。よく遊びに来るから、あんたを見てるうちにわかっちゃったのよ」
「もしかして……付き合ってた?」
「ううん。それはないと思う。それに、あんたが笑わなくなった頃から、一緒に学校も行かなくなって、家にも遊びに来なくなったのよ。あれは振られちゃったのかなぁ」
最後はしみじみとつぶやくように母さんが言った。
俺の性格が変わった理由は、どうやら秋人だけじゃなさそうだ。
中三の俺は、本当に色々あったんだな。
「母さんが俺のこと、その……ゲイだって知ってること、前の俺はいつ頃知ったの?」
「話してないから知らなかったと思うわよ?」
平然とした顔で言ってのける母さんに驚いて、箸から昆布キャベツがボロっと落ちた。
「え、じゃあ話しちゃマズかったんじゃない……?」
「なんで?」
「なんでって……だってもし記憶が戻ったら怒るんじゃない? 前の俺が……」
俺の言葉に、母さんが首をかしげて不思議そうに見つめてくる。
「だから……知ってたのになんで黙ってたんだとか、なんで勝手に話したんだとかさ……。面倒臭いことになるんじゃない? 知らないよ、俺……」
俺のせいで母さんが怒られるかもしれないと思うと、罪悪感が押し寄せる。
今まで何年も黙っていたことを、俺のために話してくれた。それは嬉しいけれど、そのせいで前の俺との仲が壊れるのは……なんか嫌だ。
母さんがジッと俺を見つめながら口を開いた。
「前の俺とか、今の俺とか、なんでそこ切り離して考えるのよ。あんたはあんた。一人の陽樹でしょ?」
「……いや、それはそう、だけど」
そうなんだけど、俺はどうしても切り離してしまう。前の俺は、今の自分とは別人のように感じてしまう。
「私はただ、記憶をなくして苦労してる息子に知ってることを教えただけよ。記憶が戻ったって戻らなくたって、陽樹は陽樹なんだから。そんな心配はいらないわよ」
母さんは笑って続ける。
「もし記憶が戻って陽樹が怒るとしても、その陽樹の中には私のことを心配してくれる今の陽樹だっているわけでしょ?」
言われてみれば確かにそうだな……と、目からうろこが落ちる気分だった。
もし記憶が戻ったときに今の記憶が消えてしまえば、この会話だって覚えていない。そのときは母さんを面倒事に巻き込まずに済む。
そして、もしこの記憶が残っていれば、怒る陽樹を俺が止められるかもしれないんだ。
いや、それだとまるで二重人格みたいだな。
今の記憶が残ったまま前の俺が戻ってくる感覚が、全く想像できない。
でも、そうか……。前の俺とか今の俺とか、切り離さずに考えていいのか……。できるかどうかはわからないけれど、母さんのおかげでちょっと気持ちが楽になった気がした。
でも……と俺は考える。
自分がゲイだとわかると、ちょっと疑問がわいてくる。
前の俺は、月森を好きな素振りはなかったと母さんは言うけれど、ゲイなのに好きでもない男と一緒に同居なんてするだろうか。
やっぱり前の俺も月森を好きだったんじゃないか。
でも、母さんにかかると俺はわかりやすいはずなのに、前の俺は月森が好きだとはバレていない。
もしかして……俺の性格が変わった理由は、ゲイだとばれないように、性指向を必死で隠すために、気を張り詰めるようになったせいではないだろうか。
そして、秋人のせいで騒がれるようになって、さらに性格がひん曲がった。
……ありえるな。きっとそうに違いない。
完全に嫉妬対象だったはずの前の俺に、俺は初めて同情した。
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