30 / 42
30 最悪だ
しおりを挟む
最悪だ。
最悪だ、最悪だ、最悪だっ。
なんなんだ、この酔っ払いの千鳥足みたいなヨロヨロっぷりと重だるい腰は……っ。
マジでふざけんなっ。
俺はアパートの塀を思い切り拳で殴り、あまりの痛さにしゃがみ込んだ。
「痛ってぇ……クソ……!」
目が覚めたら月森の腕の中ってなんなんだっ。
なんで恋人繋ぎで寝てんだよっ。
月森は友達だろっ。後輩だろっ。
何やってんだ俺はっ。
ほんっとムカつくっ。ふざけんなっ。
何が一番腹が立つって……っ。
何もかも、全部覚えてるってことだっ!
目覚めた時には記憶が戻ってた。
まるで昨日思い出せなかったちょっとした物忘れを、ふと思い出したようなそんな感覚。
その瞬間、月森とのあれこれに愕然とした。体内の血が全て失われたかのように全身が冷たく凍りついた。
とにかく月森から離れたい。今すぐ一人になりたい。
そう思い、家から飛び出した。
早くここから離れたい。
俺はふらふらと立ち上がり、目的もなく歩き始めた。
だいたいなんだよ、前の俺とか今の俺とか、マジ意味わかんねぇっ。
どっちだって俺は俺だろっ。
中二病かよっ。
馬鹿じゃねぇのかっ。
前の俺と今の俺を切り離して考えていた自分が、どれだけ馬鹿げていたか今ならわかる。
記憶を失っていた昨日までの自分が幼稚すぎて、恥ずかしくて死にそうだ。
『今の俺を見てほしい。前の俺のことなんて、もう忘れてほしい』
『万が一今の俺が消えたとしても、この気持ちだけは前の俺に託したい』
『月森の一番近くに行くことができた。前の俺よりも先。それが嬉しい』
『ずっと……そばにいたい……な……』
昨日までの自分の思考が耐えられない。まじでクソ恥ずい……っ。
記憶がないからって、なんであんな能天気でいられたんだ。
今までどれだけ苦労してきたと思ってる。
月森は友達だ。ずっと友達だ。友達でいなきゃ駄目なんだっ。
必死にそう言い聞かせてずっとやってきただろっ。
なに恋愛感情なんて育ててんだっっ!!
俺のクソ野郎っっ!!
こうしていくら毒づいても、昨夜のことが思い出されて顔がほてる。心臓が暴れる。
もう頭の中が月森でいっぱいで、感情があふれてこぼれそうだ。
「クソ……心臓痛てぇ……っ」
ほんと……今までの苦労が水の泡だ……っ。
俺は月森を失いたくない。一生友達としてそばにいたかった。
うっかり育ちそうな気持ちに何度も何度も蓋をして、硬い殻で閉じ込めてきた。
月森に好きだと伝えられたときは、正直気持ちが揺れた。感情の蓋が外れそうになった。
でも、俺は永遠の愛なんて信じてない。信じられるわけがない。
母さんはもう三度も結婚に失敗してる。彼氏の数も含めればもっとだ。誰かと付き合うたびに、いつも母さんは重すぎると言われて捨てられてきた。
見聞きするかぎり、俺は母さんが重いとは少しも思わない。そんな俺も、誰かを好きになれば重いんだろう。きっと俺も母さんと同じ未来が待っている。
だから俺は、いつか終わりがくるようなそんな薄っぺらい関係になんて、月森とは絶対になりたくなかった。
しかし、それならさっさと他に誰か見つけて……という気分にもならない。俺は『秋人』のせいで、ろくな恋愛ができない。恋愛どころか、人間不信がひどい。
俺に初恋と裏切りを教えた幼馴染の修也のせいで。
自分がゲイだとはっきり悟ったのは、中二の冬休みだった。
いつもつるんでる修也は小学生の頃からの付き合いで、一緒にいるのが普通で当たり前で、独占欲がわくのもそのせいだろう、くらいに思っていた。
でもだんだんと、好きなのかもしれないと思うようになり、もしかして俺はゲイなのか? と疑問を持つようになった。
学校でクラスメイトを見渡しても、恋愛対象として好感が持てるのは女子ではなく男子だと感じる。背の高い男らしい男子に特にそう感じた。
中二の冬休み、友達を数人呼んで夜通しゲームをやり、皆で雑魚寝をした。
隣に寝ている修也が近すぎてドキドキが止まらない自分に、やっと修也への気持ちを自覚した。
やっぱり俺は……ゲイなんだな。
修也は男らしくてサバサバしていて明るく、皆に優しい男だった。
ただ、何かにつけてすぐに肩を組んできて、好きだと自覚してからは心臓に悪い。そのたびに顔が熱くなる。
「どうした陽樹、顔赤いぞ? 熱あんじゃね?」
「……ないよ。大丈夫」
「ほんとかよ」
「ほんとだって」
毎日、気持ちがバレないかとハラハラした。
中三の春、どうしても肩を組まれると意識してしまって耐えられなくなり、正直に話して控えてもらおうと決意した。
告白はしない。ゲイだと話して、過度なスキンシップをやめてもらおう。
きっと修也は、俺がゲイだと知っても何も変わらないはずだ。
俺はそう信じていた。
「……え、まじで言ってんの? 嘘だろ?」
いつも笑顔の修也が、わずかに嫌悪の表情を浮かべた。
「しゅ……修也」
「いや、悪い。お前を否定するつもりはねぇけど……ちょっと無理」
あまりのショックで愕然とした。
修也でさえこうなら、きっとこれが世間一般の普通の反応なんだろう……と理解した。
それからは距離を置かれて避けられるようになり、言わなければよかったと何度も後悔した。
ただ、修也は俺がゲイだということを誰にも話さなかった。ゲイであることを受け入れてもらえなかったのは悲しいけれど、修也はやっぱりいい奴だ。
最悪だ、最悪だ、最悪だっ。
なんなんだ、この酔っ払いの千鳥足みたいなヨロヨロっぷりと重だるい腰は……っ。
マジでふざけんなっ。
俺はアパートの塀を思い切り拳で殴り、あまりの痛さにしゃがみ込んだ。
「痛ってぇ……クソ……!」
目が覚めたら月森の腕の中ってなんなんだっ。
なんで恋人繋ぎで寝てんだよっ。
月森は友達だろっ。後輩だろっ。
何やってんだ俺はっ。
ほんっとムカつくっ。ふざけんなっ。
何が一番腹が立つって……っ。
何もかも、全部覚えてるってことだっ!
目覚めた時には記憶が戻ってた。
まるで昨日思い出せなかったちょっとした物忘れを、ふと思い出したようなそんな感覚。
その瞬間、月森とのあれこれに愕然とした。体内の血が全て失われたかのように全身が冷たく凍りついた。
とにかく月森から離れたい。今すぐ一人になりたい。
そう思い、家から飛び出した。
早くここから離れたい。
俺はふらふらと立ち上がり、目的もなく歩き始めた。
だいたいなんだよ、前の俺とか今の俺とか、マジ意味わかんねぇっ。
どっちだって俺は俺だろっ。
中二病かよっ。
馬鹿じゃねぇのかっ。
前の俺と今の俺を切り離して考えていた自分が、どれだけ馬鹿げていたか今ならわかる。
記憶を失っていた昨日までの自分が幼稚すぎて、恥ずかしくて死にそうだ。
『今の俺を見てほしい。前の俺のことなんて、もう忘れてほしい』
『万が一今の俺が消えたとしても、この気持ちだけは前の俺に託したい』
『月森の一番近くに行くことができた。前の俺よりも先。それが嬉しい』
『ずっと……そばにいたい……な……』
昨日までの自分の思考が耐えられない。まじでクソ恥ずい……っ。
記憶がないからって、なんであんな能天気でいられたんだ。
今までどれだけ苦労してきたと思ってる。
月森は友達だ。ずっと友達だ。友達でいなきゃ駄目なんだっ。
必死にそう言い聞かせてずっとやってきただろっ。
なに恋愛感情なんて育ててんだっっ!!
俺のクソ野郎っっ!!
こうしていくら毒づいても、昨夜のことが思い出されて顔がほてる。心臓が暴れる。
もう頭の中が月森でいっぱいで、感情があふれてこぼれそうだ。
「クソ……心臓痛てぇ……っ」
ほんと……今までの苦労が水の泡だ……っ。
俺は月森を失いたくない。一生友達としてそばにいたかった。
うっかり育ちそうな気持ちに何度も何度も蓋をして、硬い殻で閉じ込めてきた。
月森に好きだと伝えられたときは、正直気持ちが揺れた。感情の蓋が外れそうになった。
でも、俺は永遠の愛なんて信じてない。信じられるわけがない。
母さんはもう三度も結婚に失敗してる。彼氏の数も含めればもっとだ。誰かと付き合うたびに、いつも母さんは重すぎると言われて捨てられてきた。
見聞きするかぎり、俺は母さんが重いとは少しも思わない。そんな俺も、誰かを好きになれば重いんだろう。きっと俺も母さんと同じ未来が待っている。
だから俺は、いつか終わりがくるようなそんな薄っぺらい関係になんて、月森とは絶対になりたくなかった。
しかし、それならさっさと他に誰か見つけて……という気分にもならない。俺は『秋人』のせいで、ろくな恋愛ができない。恋愛どころか、人間不信がひどい。
俺に初恋と裏切りを教えた幼馴染の修也のせいで。
自分がゲイだとはっきり悟ったのは、中二の冬休みだった。
いつもつるんでる修也は小学生の頃からの付き合いで、一緒にいるのが普通で当たり前で、独占欲がわくのもそのせいだろう、くらいに思っていた。
でもだんだんと、好きなのかもしれないと思うようになり、もしかして俺はゲイなのか? と疑問を持つようになった。
学校でクラスメイトを見渡しても、恋愛対象として好感が持てるのは女子ではなく男子だと感じる。背の高い男らしい男子に特にそう感じた。
中二の冬休み、友達を数人呼んで夜通しゲームをやり、皆で雑魚寝をした。
隣に寝ている修也が近すぎてドキドキが止まらない自分に、やっと修也への気持ちを自覚した。
やっぱり俺は……ゲイなんだな。
修也は男らしくてサバサバしていて明るく、皆に優しい男だった。
ただ、何かにつけてすぐに肩を組んできて、好きだと自覚してからは心臓に悪い。そのたびに顔が熱くなる。
「どうした陽樹、顔赤いぞ? 熱あんじゃね?」
「……ないよ。大丈夫」
「ほんとかよ」
「ほんとだって」
毎日、気持ちがバレないかとハラハラした。
中三の春、どうしても肩を組まれると意識してしまって耐えられなくなり、正直に話して控えてもらおうと決意した。
告白はしない。ゲイだと話して、過度なスキンシップをやめてもらおう。
きっと修也は、俺がゲイだと知っても何も変わらないはずだ。
俺はそう信じていた。
「……え、まじで言ってんの? 嘘だろ?」
いつも笑顔の修也が、わずかに嫌悪の表情を浮かべた。
「しゅ……修也」
「いや、悪い。お前を否定するつもりはねぇけど……ちょっと無理」
あまりのショックで愕然とした。
修也でさえこうなら、きっとこれが世間一般の普通の反応なんだろう……と理解した。
それからは距離を置かれて避けられるようになり、言わなければよかったと何度も後悔した。
ただ、修也は俺がゲイだということを誰にも話さなかった。ゲイであることを受け入れてもらえなかったのは悲しいけれど、修也はやっぱりいい奴だ。
161
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる