俺のスキル、説明すると大体笑われるが、そんな他人からの評価なんてどうでもいいわ

ささみやき

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第1話 異世界に転生したんだがw    いや、笑っている場合ではないぞ

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やぁ、初めまして、こんにちは。いや、今は夕方だからこんばんわ、かな?
――俺の名前は 山田悠斗(やまだ ゆうと)。
平凡って言葉を擬人化したら俺になる。よろしくな。

それにしても……今日の天気、めちゃくちゃいいな。
こんなの、家でじっとしてる方が罪ってもんだろ?
出かけるに限るよな、ha ha!!

……ってテンションで目を開けたらだよ?

見渡す限りの 大平原。
地平線以外なにもない。
金もない。いまがどこかも分からない。
バッグも財布もスマホもない。
あるのは、妙に元気な太陽と、俺の絶望だけ。

いやぁ…… 笑えてくるねー。ha ha!!

……って笑えるわけあるか!!

脳裏に浮かぶのは、さっきまで一緒にいた――
あの謎空間にいた、笑顔だけは満点のあの女。

俺は天を仰ぎ、魂の底から叫んだ。

「あのクソ女があぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!」
遡るほど、数分前。
俺は、目を覚ますと「知らない天井」を見ていた。

「……ここは、どこだ?」

上半身を起こし、あたりを見回す。
薄暗くて、家具ひとつない、無機質すぎる空間。
部屋というより、何もかもを捨て去った倉庫の片隅みたいな場所に俺はいた。

状況がよく分からず眉をひそめたそのとき――
ふと、視界の真正面に影が差す。

そこに、一人の女性が立っていた。

「起きましたね。よかった、魂が崩壊してなくて」

女は、まるで朝の挨拶みたいなノリで言った。
しかし俺にとっては、目覚め一発でホラー級のインパクトだ。

「だ、誰……? いや、そもそもここ何? 病院? 誘拐? 新手の宗教の勧誘?」

俺が混乱した声で質問を乱射していると、彼女は落ち着いた笑みを浮かべながら、
指先でくるりと宙をなぞった。光が線を描く。

「落ち着いてください、山田悠斗さん。ここは“生界”と“冥界”の狭間。
あなたはいま、死んでいます」

「……は?」

えっ、俺、死んだの?
ちょっと待て、今世紀最大の情報がサラッと投げ込まれたんだが。

「死因ですか? ええと……説明すると長くなるので省略しますね」

省略すんなよ。

女は、俺のツッコミも無視して続けた。

「私は世界の調停者――あなたに、新たな役目と人生をご用意しました。
さぁ、ここからが本題です」

そう言って微笑む女の顔は、信じられないくらい神々しい。
そんな彼女は、戸惑う俺を無視するかのように続いてこういった。

「では、さっそくご説明しますね。
あなたには、転生にあたり――二つの選択肢があります」

女はそう言うと、どこからともなく金と銀に輝くパネルを出した。
物理法則を完全に無視している。怖い。

「まずはこちら、Aコース!」

金色のパネルが、ピカーッと俺の目に刺さる勢いで光る。

「チートスキル、盛り盛り! 無双し放題! ただし――」

「ただし?」

「前世の記憶は、きれいさっぱり無くなります」

「うわぁぁ……」

何その“全部盛りの代わりに人格初期化します”みたいな仕様。
ソシャゲなら炎上確定だぞ。

「続いてBコース!」

銀色のパネルがぴょーんと飛び跳ねるように浮かび上がる。

「スキルは完全ランダム! 最強が当たるか、ただのゴミが出るか、運次第!
その代わり――前世の記憶は残せます」

「ランダム……ガチャかよ」

聞いた瞬間、俺の背筋が震える。
だって俺、ガチャ運だけは世界最低レベルなんだよ。

「どちらにします?」

彼女は軽く首を傾げる。
その動作ひとつひとつが、神秘的というより“あざとい”。
絶対わざとだろ。

「……Aは記憶なし、Bはギャンブル、か」

「ちなみにAコースを選んだ人たちは全員、
『記憶ないから気楽で最高ー!』と叫びながら魔王に突っ込んでいきました」

「なんでそんな元気なんだよ!?」

「まぁ、記憶がないので恐怖も薄いのです」

ああ……なるほど……なるほどじゃねぇよ。てか、魔王いんのかよ。

女はふわりと微笑む。

「あなたはどちらを選びます? 時間は無制限ですよ」

時間は無制限。
でも待ってくれる保証はなさそうな笑みだ。

そして俺は――悩んだ末、決めた。

「……Bでいきます。記憶消えるのは、なんか嫌だし」

「ふふっ。やっぱりそうだと思いました。
記憶を残したい人は、大抵“面白い人生”を歩むんですよ」

その表情はどこか楽しそうで――
未来の俺は、それに殴りたいほど腹を立てることになる。

「では、転生処理を開始します。
あ、そうだ。説明し忘れてましたが――」

「まだあるの!?」

「あなたが行く“生界世界”と“冥界世界”は、
魂の循環がうまくいっていません。
原因は“五人の魔王”ですので――まぁ、倒してきてください」

さらっと世界の命運を俺に投げてきた。

「いやいやいや! 急にスケール跳ね上がった!?
なんで俺!? スキルガチャ結果もまだ出てないのに!?」

「大丈夫ですよ。気楽にどうぞ」

気楽に魔王退治ってなんだよ。それに魂の循環ってなんだよ。説明しろ。

抗議する暇もなく、俺の足元が光の渦に吞み込まれる。

「それでは悠斗さん。良い転生ライフを――くすっ」

最後の最後に聞こえた“くすっ”が、
やけに意味深だったことに気づくのは――
落下しながら現実に放り出された後の話である。
光の渦に呑み込まれた次の瞬間――
俺は、猛烈なスピードで落下していた。

「ちょ、ちょ待っ――落ちる落ちる落ちるってばあああぁぁ!!」

パラシュートもクッションもない。
あるのは、青空と俺の悲鳴だけ。

そして。

ドガァッ!!

……痛い。
けど死んでない。転生ボディすげぇ。

顔を上げると――
そこには、どこまで行っても広がる見渡す限りの大平原。

建物? ない。
人? いない。
文明? ゼロ。
財布? 当然ない。
スマホ? 圏外どころか概念すらない。

あるのは、青い空、さらさらの草原、そして俺だけ。

「……やぁ、初めまして、異世界。いや、こんちは? こんばんわ? どっちでもいいか」

自分でも分かるくらいテンションが迷子だ。

「はー……今日の天気、めっちゃいいな……こんなの出かけるに限るよな、ha ha!!」

言いながら、膝から崩れ落ちる。

「――いや笑えねぇだろ!!」

なんだこの状況。
金もない。装備もない。チュートリアルもない。
ガチャスキルの結果すら分からない。
そして一番重要な“安全”がまったくない。

草原で野宿したら一瞬で死ぬ未来しか見えないんだが。

俺は天を仰ぎ、さっきまでの記憶を思い返す。

あの笑顔。
あの美人。
あの説明。
あの“くすっ”。

そして、いまのこの状況。

俺は叫んだ。

「あのクソ女がああああああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

どこまでも響く俺の魂の叫び。
鳥たちが驚いて一斉に飛び立っていく。
ああ、くそ。平和そうな世界だな。俺以外は。

息を整えつつ、立ち上がる。

「……遡ること数分前、俺は確か狭間の空間で――」

自分に言い聞かせるように呟きながら、
ようやく現実を受け入れる覚悟を決めた。

ここが、「生界世界」。
俺の異世界ガチャ人生は、どうやらここから本番らしい。
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