3年2組の山田くん

ことのは

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日常、それは変わらない日々

相談者は、3年2組の山田くん

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 夕暮れに染まる教室で、俺こと山田優樹やまだゆうきは1人、机に突っ伏しながら窓を見ていた。

 中学3年もあと少し。部活はとうに引退し、受験も終わり、この制服ともあとわずか。
 正確には、明日ある卒業式で最後だ。やっとこの制服であるスカートから離れられるのは嬉しいが、ほんの少しの期待と不安に胸が押し潰されそうだった。

 目を瞑れば、嫌でもあの言葉が頭の中に響く。そのたびに憎悪と嫌悪感に苛まれ、頭痛がこれでもかと襲ってくる。ここにはいないはずなのに、本当に嫌な人達だ。どこまでも人を目の敵にし、相手を罵らなければ気が済まない。最悪最低な人達…。

「はぁ…」

 自然と出るため息さえ、あの人達を思い出している様で嫌気が差す。
 目を開ければ、隣のクラスの青木優斗あおきゆうとがいた。

「何だ、青木か。…それで、一体何の用だ?」
「いや別に。帰ってもやることないし暇つぶしだよ。山田は?」
「まぁ…。似た様なもん、かな…」
「なんだ? 何か悩み事でもあるのか? 俺で良かったら相談に乗ってやるぞ」
「いや、これは相談して解決するようなことじゃない。自力でなんとかするさ」
「なんだよソレ。話してみろって。案外解決するかもしれないぞ」
「大丈夫だって」
「なら良いけどよぉ…」

 そう言って青木は俺の向かいの席に座り、椅子をこっちに向ける。

「なぁ山田…」
「…そういうのは、相手が違うだろ」

 その言葉に、青木ははっとして顔を赤く染める。
 それが夕日によるものなのかは分からないが、とにかく俺には紅く見えた。

「な、何を言って!? 別に俺は――」
「言っとくが、その顔で言われてもバレバレだ。相変わらず顔に出やすい…」
「う、うるせーよ」

 青木は手で顔を覆い、そっぽを向く。

 保育園の頃からの腐れ縁で、嘘が吐けなく、顔に全て出るのも変わっていない。
 昔は背も低く、顔も童顔で「女顔だな」とよく揶揄われて泣いていた。しかし今では身長170㎝。童顔も影を潜め、整った顔も合わさり、今では女子の注目の的。人生何が起きるか分からないものだ。いや、ほんと…。

「1人に執着するのも悪くないと思うが、他の子とかは考えないのか?」
「執着って…。まぁ、考えは考えたけど…」
「考えたんだ…」
「考えはするだろ」
「はいはい。それで?」
「ほら俺って、そこそこカッコいいだろ?」
「は? 突然の自慢かよ? 何ソレ、引くわぁ…」
「ちょっ!」
 さっきまでそっぽ向いていた青木が、いきなりこっちに向き直った。

「いや普通の反応だろ。いきなり顔の自慢されて引かない奴がいるか? いないだろ」
「分かった、悪かったから。話し進まないだろ…」
「お、おぉ…」

「んで、昔は俺のこと揶揄ってた奴らな訳じゃんか…」
「まぁそうだな…。でも、小さい頃なんてそんなもんだろ?」
「そんなもんって…。山田は男に間違われて嫌じゃなかったのかよ…」

 青木の言葉に、少し戸惑った。
 確かに言動の所為で男によく間違われた。それでも直そうとは思わなかったし、間違えられること自体、別に嫌だと思ったこともない。だから青木の様に、コンプレックスだと感じことなどなかった。

「な、なんだよ。いきなり黙って…」
「別に。ただそう思ったことが無いから、同意できないと思っただけだ」
「ははっ。確かにソレで山田が嫌な顔してんの、俺見たことねーわ」
「だろ?」
「でも、今でも女子からモテるのはやりすぎだろ…」
「何の話だ?」
「バレンタインだよ!」

 青木がまるで怒ったようにムッとする。
 しかし思い当たるようなことは何もない。そんな顔をしていると青木はため息を吐いた。

「俺、未だにお前に勝てたことねーんだぞ…」
「あぁ、なんだ。そんなことか」
「そんなことって…」

 更にため息を吐く青木に、少し気の毒に思えた。

 毎年バレンタインになると、同級生はもちろん。先輩や後輩からチョコやお菓子の類いをよく貰っていた。
 見たことも接点もないはずの先輩や後輩から貰うのはさすがに引けたが、受け取らないと勝手に机の上に置かれるから困る。後で先生に怒られるのは俺なんだぞ…。

「確かに、今年も勝てなかったな。あんだけ『今年こそ!』って豪語してたくせにな」
「…うるせー」
「ま、別に数なんかどうでも良いだろ」
「なんでだよ?」
「好きな人に1個もらえれば、それで十分だろ?」
「…俺知ってる。お前みたいな奴を天然タラシって言うんだ」
「天然タラシって…。おいおい何でそうなるんだよ。実際、何個貰ったところで、好きな人に貰えなかったら何の意味もないだろ? バレンタインって、そういうもんじゃねーの?」
「…そうなんだけどよー」

 頭を抱える青木の姿が可笑しくて、なんだか笑えた。

「んで、好きな人からは貰えたのか?」
「分かってるだろ…」

 バレンタイン当日、いっぱいになった紙袋が机に掛かっていた。
 しかし当の本命からは貰えなかったらしく、その日の夕方、落ち込んでいる姿は実に痛々しかった。
 本命からも貰えず、数でも負けたのだからかける言葉もない…。

「ったく、もうバレンタインの話はいい。話をもとに戻すぞ」
「自分から降った話題のくせに…」
「うるせー」
「で、どこまで聞いたっけか?」
「俺のことを、昔は揶揄ってた辺りまで話したはずだ」
「そうそう、そんな感じだったな。で? それがなんでダメなんだ?」
「嫌だろ。外見で人を判断してるんだぞ。掌返しとかマジ無理」
「人は見た目が100%って言うし、過去は水に流したらどうだ?」
「無理。あんな虐め紛いなことされて、許せるわけねーだろ」

 前に話したように、青木は容姿と身長を散々揶揄からかわれてきた。
 クラスの違う俺には分からなかったが、クラスメイトや先輩から心無い言葉や時には暴力を受けたと言う。
 初めてその事実を知った時は驚いたが、疲弊した青木を見て事実なのだと突きつけられた。

 その一件以来、青木は軽い人間不信に陥ったのは言うまでもない。
 もちろん、成長した今でも身長と童顔がコンプレックスなのは変わらない。まぁ、当然と言えば当然の結果だ。

「なぁ青木、『井の中の蛙、大海を知らず』って知ってるか?」
「俺の世界が狭いって言いたいのか?」
「事実そうだろ? うちの中学は小学校、もっと言えば保育園や幼稚園からの知り合いしかいない。転校生が来る以外、この学校に誰かが入ってくることもない。閉鎖的な空間だ」
「…だからなんだよ。高校に行けば変わるって? 大人になれば価値観も違ってくるって? 時間が経てば心変わりするって? お前はそう言いたいのか?」
「閉鎖的な空間だからこそ、盲目的になってるんじゃないのかって言ってるんだ。人生は長い。学生の、中学の恋愛がずっと続くって、君は本気で思ってるのか?」
「思って何が悪いんだよ。俺はずっとずっと――」
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