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第一章 観察日記
9 真似っこをされる
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『十月二十五日 快晴 健康状態◎ ゴラくんの手がとうとう解放された。爪の間に入り込んだ土がなかなか取れない。どうやって取ればいいのか要確認』
長いこと地面に縫い付けられていたゴラくんの手が、観察開始から二十二日経ってようやく自由になった。これまでは、腕の周りにぐるりと帯を巻いて浴衣を着用していた。その浴衣が朝、ゴラくんの元を訪れると地面に落ちていたのだ。手を引っこ抜いたことにより、緩んで落ちたらしい。
地面から生えている膝上辺りから上は、素っ裸。朝日をバックににこやかに手を振るゴラくんは格好いいの一言だったけど、もう少し隠すとかいった恥じらいを持ってはもらえないものか。それともこれは人間特有の感覚で、マンドラゴラに恥じらいを求めるのは酷なのか。
まあ、赤ん坊が裸を恥ずかしがらないのと一緒なのかもしれないけど。
それか、マンドラゴラは媚薬としても使用される伝承があるので、恥じらいよりは曝け出す方が好みなのかもしれない。こんな爽やかで素朴な笑みの持ち主であるゴラくんに露出癖があったらと思うとハラハラしてしまうけど、この辺りに住んでいる限り、殆ど人には会わない。
ゴラくんが自由に歩き回れる様になった暁には、その辺りの一般常識というものも少しずつ学ばせてみよう。
腕が上がる様になったことで、これまで身体の側面に付着していた土も拭き取れる様になった。私が脇腹を拭くと、ゴラくんが身体をよじって逃げる素振りを見せる。くすぐったいらしい。
ちなみに、例の場所を拭いた時は心頭滅却して挑んだのであまり詳細は覚えていないけど、そういえば上半身を少しくねらせていたかもしれない。――深く考えるのはやめておこう。
「ゴラくん、くすぐったいの?」
確認の為、尋ねる。ゴラくんは照れくさそうな笑みを浮かべながら、こくこくと頷いた。
「じゃあさっさと済ませようね」
手さえ自由になるなら、今後は自分で拭ける。これまで苦労させられていた局部についても、きちんと説明すれば出来そうだ。いずれにしても、明日以降の話だけど。
綺麗になった素っ裸のゴラくんに、後ろから浴衣を羽織らせる。袖を通してみると分かる。ゴラくんの腕は長い。浴衣はつんつるてんだ。最近は大きめのサイズの浴衣もあると何かで読んだことがあるので、今夜はそれを探してみよう。
後ろから腕を回して帯を締めると、まるで抱きついている様だ。どうしたって触れる頬と腕にゴラくんの体温が感じられ、少し照れ臭い。
でも、ゴラくんはマンドラゴラだし、額しか出てない頃から面倒を見てきた私は、謂わば育ての親だ。そんな私が照れなどしたら、ゴラくんだって困るだろう。
「はい、完成!」
ポンと背中を叩いて前に回ると、ゴラくんが嬉しそうに手を上げ下げして袂をパタパタさせている。物珍しいのだろう。この場面だけ見ていると、身体が大きいだけの子供にしか見えない。
その様子を微笑ましく思いつつ見守っていると、ゴラくんが私に向かってひょいと手を伸ばしてきた。
「おっ」
肩を優しく抱き寄せられ、バランスを崩した私は、よたよたとゴラくんに引き寄せられる。もう子供くらいの背丈があるゴラくんの額が、私の気持ち程度ある胸にぱふっと埋もれた。
「ゴラくんっご、ごめ……っ」
急いで離れようとした途端、ゴラくんが私の腰に腕を回し、ギュッとしてしまう。――これはもしや、先程までの私を真似ているのか。
「真似っこしてるの?」
私が尋ねると、眼下の放射線状に広がる葉が前後にふるふると震えた。やはりそうらしい。葉があるので表情は窺えないけど、一体どんな顔をしているのか気になる。
だけど、今はそれを見ちゃ駄目だ。
何となくそんな気がしてしまい、ゴラくんが満足して私を離してくれるまで、暫しゴラくんに抱きつかれたままにした。
長いこと地面に縫い付けられていたゴラくんの手が、観察開始から二十二日経ってようやく自由になった。これまでは、腕の周りにぐるりと帯を巻いて浴衣を着用していた。その浴衣が朝、ゴラくんの元を訪れると地面に落ちていたのだ。手を引っこ抜いたことにより、緩んで落ちたらしい。
地面から生えている膝上辺りから上は、素っ裸。朝日をバックににこやかに手を振るゴラくんは格好いいの一言だったけど、もう少し隠すとかいった恥じらいを持ってはもらえないものか。それともこれは人間特有の感覚で、マンドラゴラに恥じらいを求めるのは酷なのか。
まあ、赤ん坊が裸を恥ずかしがらないのと一緒なのかもしれないけど。
それか、マンドラゴラは媚薬としても使用される伝承があるので、恥じらいよりは曝け出す方が好みなのかもしれない。こんな爽やかで素朴な笑みの持ち主であるゴラくんに露出癖があったらと思うとハラハラしてしまうけど、この辺りに住んでいる限り、殆ど人には会わない。
ゴラくんが自由に歩き回れる様になった暁には、その辺りの一般常識というものも少しずつ学ばせてみよう。
腕が上がる様になったことで、これまで身体の側面に付着していた土も拭き取れる様になった。私が脇腹を拭くと、ゴラくんが身体をよじって逃げる素振りを見せる。くすぐったいらしい。
ちなみに、例の場所を拭いた時は心頭滅却して挑んだのであまり詳細は覚えていないけど、そういえば上半身を少しくねらせていたかもしれない。――深く考えるのはやめておこう。
「ゴラくん、くすぐったいの?」
確認の為、尋ねる。ゴラくんは照れくさそうな笑みを浮かべながら、こくこくと頷いた。
「じゃあさっさと済ませようね」
手さえ自由になるなら、今後は自分で拭ける。これまで苦労させられていた局部についても、きちんと説明すれば出来そうだ。いずれにしても、明日以降の話だけど。
綺麗になった素っ裸のゴラくんに、後ろから浴衣を羽織らせる。袖を通してみると分かる。ゴラくんの腕は長い。浴衣はつんつるてんだ。最近は大きめのサイズの浴衣もあると何かで読んだことがあるので、今夜はそれを探してみよう。
後ろから腕を回して帯を締めると、まるで抱きついている様だ。どうしたって触れる頬と腕にゴラくんの体温が感じられ、少し照れ臭い。
でも、ゴラくんはマンドラゴラだし、額しか出てない頃から面倒を見てきた私は、謂わば育ての親だ。そんな私が照れなどしたら、ゴラくんだって困るだろう。
「はい、完成!」
ポンと背中を叩いて前に回ると、ゴラくんが嬉しそうに手を上げ下げして袂をパタパタさせている。物珍しいのだろう。この場面だけ見ていると、身体が大きいだけの子供にしか見えない。
その様子を微笑ましく思いつつ見守っていると、ゴラくんが私に向かってひょいと手を伸ばしてきた。
「おっ」
肩を優しく抱き寄せられ、バランスを崩した私は、よたよたとゴラくんに引き寄せられる。もう子供くらいの背丈があるゴラくんの額が、私の気持ち程度ある胸にぱふっと埋もれた。
「ゴラくんっご、ごめ……っ」
急いで離れようとした途端、ゴラくんが私の腰に腕を回し、ギュッとしてしまう。――これはもしや、先程までの私を真似ているのか。
「真似っこしてるの?」
私が尋ねると、眼下の放射線状に広がる葉が前後にふるふると震えた。やはりそうらしい。葉があるので表情は窺えないけど、一体どんな顔をしているのか気になる。
だけど、今はそれを見ちゃ駄目だ。
何となくそんな気がしてしまい、ゴラくんが満足して私を離してくれるまで、暫しゴラくんに抱きつかれたままにした。
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