ドラゴンに殺られそうになって(電車にはねられそうになって)気が付いたらOLになっていた(気が付いたら魔術師になっていた)件

ミドリ

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第二章 中級編開始

第194話 OLサツキの中級編二日目、春祭りを楽しみたい

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 アン・ビンデルという呪文は他から意識を向けられにくくなる補助魔法だそうだ。まずはとにかく腹ごしらえだと、三人は昨日の恐ろしげなタコがいた辺りへと向かった。

「ユラは、呪文は結構詳しいよね。なのに何でへっぽこ僧侶なんて言われてるの?」
「へっぽこ言うな」
「別にユラがへっぽこだって言ってる訳じゃなくて、へっぽこだって言われてる理由を聞いただけで」
「そこまで連呼されると何だか二つ名みたいで悲しいんだけど」

 警戒しなくていい、この人は安全な人だ。そう思える様になると、自然と会話もしやすい。以前だったらこんなこと絶対言えなかったな、ということも普通に話せている自分に驚きを隠せなかった。

「それに、魔導書も読み込んでるみたいだし」
「あー。あんまり言ってないからここだけの話にしておいてほしいんだけど」
「うん」

 ユラが、少し言いにくそうに語り始めた。

「俺はさ、実はずっと魔術師を目指してたんだよ。あの本を書いたマグノリア・カッセに憧れてさ」

 自伝でも書きたくなったのだろうか。

「でも、訓練所行ってる時に適性が悲しい程ないってことが分かって、でも魔力はそこそこあるから、適性が一番ある僧侶になることにした」
「そうだったんだ」
「そうなんだよ。でも僧侶の勉強なんて全然してこなかったし、ていうか俺目に見えるものしか信じない主義なのに僧侶って」

 確かにそんなことを言っていた。ユラらしいやと思った覚えがある。

「神様なんて信じちゃいないしさ、いたって目に見えないだろうし、でも確かに適性ばっちりみたいでそっち系呪文はほぼ成功する」
「そういうものなんだ」
「そういうものなんだよ」

 そういえば、ユラが唱えたバリアーラだったけ? の方がかなり効きがよかった覚えがある。

「僧侶系の呪文はまだまだ勉強中でさ、ドラゴン討伐でパーティーをウルスラ達と組んだ時に、ようやく一通り覚えたなって位だったんだよ」
「成程」
「という訳で、無名の僧侶がいきなりドラゴンスレイヤーの称号を貰ったから、世間の奴らはへっぽこと呼ぶらしい」
「理解しました」
「本当はさ」
「うん?」

 ユラの顔は少し悔しそうだ。この人、こういう表情もするんだな、とちょっと意外に思った。

「リアムが参加したからウルスラのパーティーに応募したんだ」
「? どういうこと?」
「サツキは知らないか」

 ふ、と笑うユラの表情は少し寂しそうだ。ちっとも意味が分からない。

「リアムの師がマグノリア・カッセなんだよ。あの偉大な人の弟子ってどんな奴か見てみたくて、ていうか粗探ししたくなって参加したら、思った以上に変人でびっくりした」

 どれだけ変な人だったんだろうか。

「でもいい人だった。その人がいきなりサツキになったから、正直戸惑ったけど、まあかといってどうしようもないだろうし、俺は目に見えるものを受け入れることにした」

 ユラがサツキを見下ろして言った。

「サツキ、あの人はどこに行っても多分大丈夫だ。だからお前は安心して自分を生きていけばいいと、俺は思うぞ」

 この人は、そんなことを思いながらサツキの隣にいたのだ。サツキは、胸が締め付けられる様な切なさを覚え。

「ありがと」

 ユラにそう伝えた。
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