ドラゴンに殺られそうになって(電車にはねられそうになって)気が付いたらOLになっていた(気が付いたら魔術師になっていた)件

ミドリ

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第三章 上級編開始

第519話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略二日目の仕事は無事終了

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 その日の午後の仕事は、羽田が戻って来なかった所為もあり、非常に和やかな雰囲気のまま終了した。

 木佐ちゃん曰く、ここのところは届く商品の品質も安定しており物流も遅延がない為、仕事全体が落ち着いて来ているそうだ。

「連休前に、溜まっていた案件を野原さんが対応しててくれたお陰もあるわ。今更だけど、ありがとう」

 木佐ちゃんのその言葉に、リアムは何も言うことが出来なかった。それをやったのはリアムではない。祐介の話では、それの所為でサツキが電車へ足を一歩向けてしまったのだ。適当に笑って流せるかと言われると、サツキのことを思うとそれは無理だった。

 なので、会釈のみ返した。

 終業を告げる鐘が鳴ると、祐介と目が合い共に立ち上がる。毎度祐介がほっとした様な表情を覗かせていたことにも、今日になってようやく気が付いた。

 祐介はここのところ、いつもこの表情を笑顔の合間に覗かせていた。それだけ、リアムの存在が薄れることが増えたのか。考えても、リアム本人に感じることが出来ないので分からなかった。

「今日の夜ご飯、何にしようか」

 ぞろぞろと社員達がエレベーター前へと向かう中、祐介が尋ねてきた。

「味噌汁は飲みたい」
「お、じゃあ和食にしよう」

 にこにこと祐介が答えると、近くにいた田端がからかってきた。

「お前ら夫婦かよ。いいねえ。て、山岸が飯作ってんのか?」

 リアムは頷く。

「祐介の料理はどれも美味しいぞ」
「うわ……もう今のでお腹一杯だわ。ご馳走様」

 田端がそう言って笑うと、それまで一緒に待っていた佐川が、スッと外階段の扉へと向かう。

「俺一服してから帰るんで、お疲れ様です」
「お疲れ様です」

 扉の奥に消える佐川と、一瞬だけ目が合った。そして逸らされた。

 田端が祐介を見上げ聞いた。

「あいつと何かあったのか?」
「別に何もありませんよ」

 祐介はにっこりと返した。

「味噌汁の話なんてするから、悔しくなったんじゃないのー? 俺も羨ましいもんなー、彼女」

 山口が大きな腹を揺らしながらからかう様に言った。

「お前はまず痩せろよ」
「だって食事がうまいんすよ田端さん」
「痛風になると辛いらしいぞー」
「ひいいいっ」

 ようやくエレベーターが来たが、人だらけで乗れなかった。すると田端が山口に声をかける。

「おい、階段で行こうぜ」
「ええー」
「お前はもっと動けよ。ほら行くぞ」
「えっあ、山岸達は?」

 すると祐介は手をサッと上げて爽やかに挨拶した。

「お疲れ様でした!」
「くうううっ」

 そうして二人も扉の奥へと消えていった。リアムが祐介を見上げて尋ねる。

「階段で行くか?」
「行かない」
「私の靴のことを心配しているのなら、大分慣れてきたぞ」
「違うよ」
「では疲れたのか?」

 短い祐介の返答に首を傾げつつ矢継ぎ早に質問を投げかけると、祐介がふ、と笑った。

「違う。嫉妬」

 嫉妬だと? どういうことだろうと考え、佐川がそこで喫煙中なのに思い至る。

「さすがに我ながら性格悪いなと思っちゃった」

 祐介はそう言うと、リアムの手を握った。祐介のその言葉で、夕飯の話の時点で祐介が牽制を始めていたことを知ったリアムだった。
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