ドラゴンに殺られそうになって(電車にはねられそうになって)気が付いたらOLになっていた(気が付いたら魔術師になっていた)件

ミドリ

文字の大きさ
594 / 731
第三章 上級編開始

第592話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下三十二階の惨状

しおりを挟む
 まず視界に飛び込んできたのは、辺りに無数に転がる子蜘蛛の死体だった。どれも皆、齧られたのか引き千切られたのかは分からないが、身体が一部欠けている。

 子蜘蛛の死体からはでろっとした濁った緑色の液体が流れ出ており、それが地面の凹んだ部分に流れて溜まっていた。

 正直、えぐい。だけどそれ以上に、すえた様な臭いが鼻にも目にもきつく、サツキの目から涙が滲んできた。熱い空気が臭いを助長させているのかもしれない。

「何があったんだ!?」

 アールが辺りを確認するが、目に見える範囲で生きている子蜘蛛はいない様だ。

「行くしか、ないわね……」

 今にも吐きそうな位に青い顔色をしたウルスラが、それでも剣を構えたまま一歩踏み出す。さすが見習い勇者だ。ウルスラの度胸は、毎度本当に尊敬する。

「ウルスラ、はやるな。俺も一緒に行くから」

 アールがウルスラに追いつくと、肩を並べた。ウルスラの緊張していた背中が、少し緩んだのが分かった。もう、それ程にアールはウルスラの心の中を占めているのだ。それが見て取れた。

 サツキは前を見ながら、ユラに声を掛けた。

「ユラ、どうする? 一回アンファンフロストを唱えておく?」
「いや、温存しておこう。これだけの数の子蜘蛛を食い荒らすことが出来んのは、多分あれしかいねえ」
「あれ?」

 ユラには、何がこの状況を作り上げたのかが分かっているのだろうか。

「想像するのも反吐が出るが、モンスターの習性は分かんねえのが実情だ。これだけ素直に食われてんだ。犯人は多分親だろ」

 サツキは思わずバッとユラを見た。前衛のウルスラとアールは、じりじりとだが前へと進んでいる。ここで立ち止まっていては離れてしまう。それは分かっていたが、今のユラの言葉にサツキは思わず足を止めてしまう程の衝撃を受けてしまった。

 前を見ていなかった所為で、緑色の水たまりの中に足を突っ込んでしまった。ねとり、とブーツに液体が絡みつく。

「親蜘蛛が、子供を食べたっていうの?」
「分かんねえよ。でも、抵抗してたらもっと滅茶苦茶になってんじゃないかって思った」

 ユラの言葉に、サツキは辺りを改めて見回した。確かに、小蜘蛛達の死骸は無数に転がっているが、よく見ると彼らは一様に通路の中心に身体を向けて死んでいた。まるで逃げるなどという考えが始めからなかったかの様に。

「いいかサツキ、こいつらを食った犯人を見たら、即座にアンファンフロストだ。とりあえずこのダンジョンにいる奴だったら、ファイヤースパイダーじゃなくても氷系の呪文は効くと思う」

 ユラの握り締める手に更に力が込められて、魔石が手のひらに食い込んで少し痛い。ユラも緊張しているのだ。サツキだけじゃない、ウルスラもアールも、この先に待ち受けている物に対し警戒している。

「分かった」

 サツキは短くそれだけ答えた。杖をすっと前に構える。サツキの前にはアールがいるので、パニクって間違えてアールに当たらない様にだけはしないとな、と気を引き締めた。

 延々と続く死骸を避けつつ通路の奥へと進む。

 ウルスラが止まる様に手で指示をした。

「何か、音がする」

 全員その場に立ち止まり、耳を澄ます。

 仄かに赤黒い通路の奥から聞こえてきたのは、空気が通り抜ける様なシューシュー、という音だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

処理中です...