686 / 731
第四章 アルティメット編開始
第683話 魔術師リアムのアルティメット編・最後の砦攻略、結果
しおりを挟む
その日、羽田と橋本が四階へと呼ばれた後は、結局終業時間になっても戻ってこなかった。
終業を告げる鐘の音が鳴ったが、リアムは落ち着かない。ちらちらと入り口の方を何度も見てしまっていた。でも戻っては来ない。なので、リアムは祐介に尋ねた。
「もう帰った方がいいものだろうか?」
すると、向かい側の自席でさっさと帰り支度を始めている祐介がにっこりと笑って言った。
「いいでしょ。今日は待っててもしょうがないと思うよ」
確かに、あそこの関係は何年にも渡り育て上げられた絡み合った蔦の様な関係だ。正すにしても、まずは一本ずつ蔦を引き剥がしていかねばならないのだろう。その結果がどうであれ、恐らく羽田はこの会社を去ることになる。麗子が状況を把握した以上、暴れたりといったことはないであろうとは思われるが、だからといってすぐに全てが決まる訳にはいくまい。
羽田は社内での評判は悪かったが、ユメを連れてくる前までは普通の男だったと祐介が言っていた。それまでに培った仕事の縁は山の様にあるだろう。全てを今日断ってはいおしまい、という訳にはいかないのかもしれない。確かに彼は、何かが狂うまではこの会社の歯車の一部だったのだから。
「お疲れ様です!」
にこやかに祐介が残っている社員達に挨拶をしたので、リアムも同様に挨拶をして祐介と共に外へと向かった。
「祐介」
「ん?」
祐介は機嫌がいい様だ。祐介とリアムの習慣となりつつあった羽田への警戒もこれで終わる。ようやくこの生活から解放されるという理由からであろうか。
「人を愛すことは、かようにも人を狂わせるものなのか」
リアムは愛に狂ったことはない。悲しいことに、一度たりともなかった。だから分からない。他者を害してでも、利用してでも手に入れたいと願うその熱量が。
願ったところで、初めから手に入れられないと分かっているのに、どうして期待を持てようか。リアムは祐介を見上げた。いつもの、慈しむ様な優しい笑顔だ。祐介はいつもリアムに甘い。甘くされているのは、他の人間へ接する時との態度の差でようやく分かった。いつも甘いから、祐介は誰にでも優しい人間だとばかり思っていた。
「私は、そこまでの気持ちを持ったことがない」
リアムがそう言うと、祐介の目が一瞬揺らいだ気がした。どうしたのだろうか。
「僕は……」
祐介の笑顔が消え、真剣な顔つきに変わった。こういう時の祐介の顔は、恋心など縁がなかったリアムを何とも言えない甘酸っぱい気持ちにさせる。
「僕は、持ってるよ。だから、取る方法は羽田さんとは違うけど、どうしても手に入れたいって気持ちは分かる」
「祐介が……?」
いつの間にそんな相手が出来たのだろうか。リアムの心が、ずきりと痛んだ。
祐介は頷く。
「全部狂えたら楽だと思う。僕だって、後先考えずに自分の欲求だけ前面に押し出していいなら、やりたいよ」
「そうか……」
リアムは視線を前に戻した。そして、努めて明るい声を出した。
「なんだ、祐介も随分と水臭いな!」
「……え?」
涙が滲みそうになったが、これは絶対に見せられない。だから耐えるのだ、リアム。おっさんのリアムの涙など、祐介にとっては何の意味もないのだから。
「好いた女子が出来ていたのなら、言ってくれればよかったではないか!」
「え、ちょっと」
ああ、喉が痛い。嗚咽が出そうなのを必死で止めているから、痛くて痛くて仕方ない。リアムは唇を噛み締めた。
終業を告げる鐘の音が鳴ったが、リアムは落ち着かない。ちらちらと入り口の方を何度も見てしまっていた。でも戻っては来ない。なので、リアムは祐介に尋ねた。
「もう帰った方がいいものだろうか?」
すると、向かい側の自席でさっさと帰り支度を始めている祐介がにっこりと笑って言った。
「いいでしょ。今日は待っててもしょうがないと思うよ」
確かに、あそこの関係は何年にも渡り育て上げられた絡み合った蔦の様な関係だ。正すにしても、まずは一本ずつ蔦を引き剥がしていかねばならないのだろう。その結果がどうであれ、恐らく羽田はこの会社を去ることになる。麗子が状況を把握した以上、暴れたりといったことはないであろうとは思われるが、だからといってすぐに全てが決まる訳にはいくまい。
羽田は社内での評判は悪かったが、ユメを連れてくる前までは普通の男だったと祐介が言っていた。それまでに培った仕事の縁は山の様にあるだろう。全てを今日断ってはいおしまい、という訳にはいかないのかもしれない。確かに彼は、何かが狂うまではこの会社の歯車の一部だったのだから。
「お疲れ様です!」
にこやかに祐介が残っている社員達に挨拶をしたので、リアムも同様に挨拶をして祐介と共に外へと向かった。
「祐介」
「ん?」
祐介は機嫌がいい様だ。祐介とリアムの習慣となりつつあった羽田への警戒もこれで終わる。ようやくこの生活から解放されるという理由からであろうか。
「人を愛すことは、かようにも人を狂わせるものなのか」
リアムは愛に狂ったことはない。悲しいことに、一度たりともなかった。だから分からない。他者を害してでも、利用してでも手に入れたいと願うその熱量が。
願ったところで、初めから手に入れられないと分かっているのに、どうして期待を持てようか。リアムは祐介を見上げた。いつもの、慈しむ様な優しい笑顔だ。祐介はいつもリアムに甘い。甘くされているのは、他の人間へ接する時との態度の差でようやく分かった。いつも甘いから、祐介は誰にでも優しい人間だとばかり思っていた。
「私は、そこまでの気持ちを持ったことがない」
リアムがそう言うと、祐介の目が一瞬揺らいだ気がした。どうしたのだろうか。
「僕は……」
祐介の笑顔が消え、真剣な顔つきに変わった。こういう時の祐介の顔は、恋心など縁がなかったリアムを何とも言えない甘酸っぱい気持ちにさせる。
「僕は、持ってるよ。だから、取る方法は羽田さんとは違うけど、どうしても手に入れたいって気持ちは分かる」
「祐介が……?」
いつの間にそんな相手が出来たのだろうか。リアムの心が、ずきりと痛んだ。
祐介は頷く。
「全部狂えたら楽だと思う。僕だって、後先考えずに自分の欲求だけ前面に押し出していいなら、やりたいよ」
「そうか……」
リアムは視線を前に戻した。そして、努めて明るい声を出した。
「なんだ、祐介も随分と水臭いな!」
「……え?」
涙が滲みそうになったが、これは絶対に見せられない。だから耐えるのだ、リアム。おっさんのリアムの涙など、祐介にとっては何の意味もないのだから。
「好いた女子が出来ていたのなら、言ってくれればよかったではないか!」
「え、ちょっと」
ああ、喉が痛い。嗚咽が出そうなのを必死で止めているから、痛くて痛くて仕方ない。リアムは唇を噛み締めた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる