ドラゴンに殺られそうになって(電車にはねられそうになって)気が付いたらOLになっていた(気が付いたら魔術師になっていた)件

ミドリ

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第四章 アルティメット編開始

第683話 魔術師リアムのアルティメット編・最後の砦攻略、結果

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 その日、羽田と橋本が四階へと呼ばれた後は、結局終業時間になっても戻ってこなかった。

 終業を告げる鐘の音が鳴ったが、リアムは落ち着かない。ちらちらと入り口の方を何度も見てしまっていた。でも戻っては来ない。なので、リアムは祐介に尋ねた。

「もう帰った方がいいものだろうか?」

 すると、向かい側の自席でさっさと帰り支度を始めている祐介がにっこりと笑って言った。

「いいでしょ。今日は待っててもしょうがないと思うよ」

 確かに、あそこの関係は何年にも渡り育て上げられた絡み合った蔦の様な関係だ。正すにしても、まずは一本ずつ蔦を引き剥がしていかねばならないのだろう。その結果がどうであれ、恐らく羽田はこの会社を去ることになる。麗子が状況を把握した以上、暴れたりといったことはないであろうとは思われるが、だからといってすぐに全てが決まる訳にはいくまい。

 羽田は社内での評判は悪かったが、ユメを連れてくる前までは普通の男だったと祐介が言っていた。それまでに培った仕事の縁は山の様にあるだろう。全てを今日ってはいおしまい、という訳にはいかないのかもしれない。確かに彼は、何かが狂うまではこの会社の歯車の一部だったのだから。

「お疲れ様です!」

 にこやかに祐介が残っている社員達に挨拶をしたので、リアムも同様に挨拶をして祐介と共に外へと向かった。

「祐介」
「ん?」

 祐介は機嫌がいい様だ。祐介とリアムの習慣となりつつあった羽田への警戒もこれで終わる。ようやくこの生活から解放されるという理由からであろうか。

「人を愛すことは、かようにも人を狂わせるものなのか」

 リアムは愛に狂ったことはない。悲しいことに、一度たりともなかった。だから分からない。他者を害してでも、利用してでも手に入れたいと願うその熱量が。

 願ったところで、初めから手に入れられないと分かっているのに、どうして期待を持てようか。リアムは祐介を見上げた。いつもの、慈しむ様な優しい笑顔だ。祐介はいつもリアムに甘い。甘くされているのは、他の人間へ接する時との態度の差でようやく分かった。いつも甘いから、祐介は誰にでも優しい人間だとばかり思っていた。

「私は、そこまでの気持ちを持ったことがない」

 リアムがそう言うと、祐介の目が一瞬揺らいだ気がした。どうしたのだろうか。

「僕は……」

 祐介の笑顔が消え、真剣な顔つきに変わった。こういう時の祐介の顔は、恋心など縁がなかったリアムを何とも言えない甘酸っぱい気持ちにさせる。

「僕は、持ってるよ。だから、取る方法は羽田さんとは違うけど、どうしても手に入れたいって気持ちは分かる」
「祐介が……?」

 いつの間にそんな相手が出来たのだろうか。リアムの心が、ずきりと痛んだ。

 祐介は頷く。

「全部狂えたら楽だと思う。僕だって、後先考えずに自分の欲求だけ前面に押し出していいなら、やりたいよ」
「そうか……」

 リアムは視線を前に戻した。そして、努めて明るい声を出した。

「なんだ、祐介も随分と水臭いな!」
「……え?」

 涙が滲みそうになったが、これは絶対に見せられない。だから耐えるのだ、リアム。おっさんのリアムの涙など、祐介にとっては何の意味もないのだから。

「好いた女子おなごが出来ていたのなら、言ってくれればよかったではないか!」
「え、ちょっと」

 ああ、喉が痛い。嗚咽が出そうなのを必死で止めているから、痛くて痛くて仕方ない。リアムは唇を噛み締めた。
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