イケメンハーフなダンピールに求婚されました〜ハロウィンの追いかけっこ〜

ミドリ

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宮下公園

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 ソラは、私の手をぐいぐい引っ張りながら人混みの間をすり抜けていく。街にも慣れている感じがしたので、もしかしたら、元々結構な都会にいたのかもしれない。

 そういえば、家族はどうしたという問いにまだ答えてもらっていない。単身日本に乗り込んできたと思われること、日本語が流暢なことから推測するに、多分ハーフなんじゃないか。日本にいる親戚を訪ねてきたとかだろうか。

「あっ」

 パンプスで渋谷の人混みの中を走るのは、なかなかに辛い。踵が靴から脱げ転びそうになると、ソラが即座に振り向き正面からいとも簡単そうに私を抱き止めた。細い身体からは想像も出来ない力で、少女漫画みたいなこの体勢に私の心臓は飛び上がった。勘弁してくれ、耐性ゼロなんだから。

「大丈夫?」

 微笑んで私を見つめるソラの茶色い瞳を覗くと、その虹彩のあまりの綺麗さに私はつい目を伏せた。可愛すぎて、直視し辛い。やばい、鼻血出そうだし。

「あ、ありがと」
「その靴、走り辛そうだな」
「はは、まあ走る為の靴じゃないからね……えっ!?」

 私が靴を履き直した直後、ソラは何食わぬ顔で私をヒョイと抱き抱えてしまった。いや待って待って、可愛い細い男子が軽々と女子を抱えるって、どんだけ少女漫画の王道を行くんだこの子は! 可愛いだけじゃないって最強だろう!

「ソラ!? 重いし!」
「大丈夫」
「いや、そういう問題だけでもなく!」

 私が訴えると、ソラは少し鋭い目つきで辺りに目を配りつつ、小声で言った。唇も可愛くて、ちょっともうどうにかなってしまいそうだった。押し倒されたら、このお硬いと有名な私だって落ちちゃうかもしれない。……いや待て、気をしっかり保て。相手は子供だ、ハルよ。

「なんか嫌な匂いするんだよ。ちゃっちゃと荷物を取りに戻って、ハルんちに行こうぜ」
「嫌な匂い?」
「……俺を追いかけ回した奴らの匂いだよ」

 その瞬間、またソラの瞳が紅く光った気がした。

 ――この子、まさかとは思うけどやっぱり……?

「ハルは俺の首に捕まってて。ハルがいるから近付いてきてないのかもしれないけど、早く街から遠ざかった方がよさそう」
「わ、分かった」

 私は、言われた通りソラの首にしがみついた。触ってみると分かった。結構しっかり筋肉がついている。健康的な十代男子が持ってそうな筋肉だ。ムキムキは好きじゃないけど、さらっとした筋肉はいい。さらっとした筋肉ってなんだか分からないが。

 ソラは私を更にギュッと引き寄せ安定させると、再び軽やかに人混みの間をすり抜けていく。可愛い属性に加え、力持ち。それに俊敏さもあって、神の加護っていうのはまあ不平等に割り振られているもんだと半ば呆れ返った。少しは分けてくれよ。

 人々は私達を見て驚くものの、街全体がハロウィンの馬鹿騒ぎな状況だからか、すぐに興味を失うようだった。

 ソラの首に抱きつき、彼の細い肩越しに消え去っていくスクランブル交差点をぼんやりと眺めた。この子は一体何に追われているのか。どうして怪我をしていたのか。先程私の血を舐め、手首に噛み付いたソラ。は、私には比較的馴染み深いものだったから、その行動に驚きこそすれ、自分の神経を疑いはしかなかった。

 何故なら、怪異は私の周りに時折現れるものだから。

「ソラ、あそこじゃない?」

 宮下公園のビルの入り口が見えてきたので、私は声を掛ける。ソラは人が少ない階段付近まで行くと、私をそっと降ろした。色んな角度から見上げ、暫くして納得した様に頷く。

「そうそう、ここだ!」

 笑顔で振り返るソラは、滅茶苦茶可愛かった。腹部の破れた服と血が生々しいが、大体の人が似たりよったりの格好をしている中、ソラが一番輝いている様に見えた。もうソラが一番でいい。ユーアーナンバーワンだよ、ソラ。ちょっとこの格好、後で写真撮りたい。そして後でほくそ笑みつつ眺めるのだ。

「登れる? また抱いていこうか?」
「ぶっ……! だ、大丈夫!」
「そう? 遠慮するなよ」

 どう見ても年下の可愛い男の子にこうも女の子扱いされると、照れくさい。ていうかもう鼻血出る。今すぐ街から離れたいという目的で早く行きたいだけだろうが、日本語を喋っていても行動は違うというか。私は海外には行ったことはないが、これが所謂いわゆるレディーファーストなのかもしれない。そもそも男性に不慣れな私にとっては、行き過ぎたサービスだ。

「じゃあ、引っ張って行ってあげる」

 ソラは可愛らしく笑うと、再び私の手を取った。正面の階段を二人で登っていく。

「ソラ、さっきの話の続きしてもいい?」
「さっき? 何だっけ?」

 ソラは分からないのか、可愛らしく首を傾げる。それを見て、私の庇護欲は否応なく掻き立てられた。天涯孤独の身の所為か、可愛い物を見るとつい愛でたくなるのだ。店の女の子達も、私にとっては可愛いと純粋に思える大事な存在だった。バイトのコウジもそう。可愛いものは、私の中の寂しさを埋める気がするからかもしれない。決して可愛いものに萌えるからではない。いや、嘘つきました。正直に言います、萌えるんです。

「ええと、家族の話」
「ああ……。俺さ、アメリカから来たんだけどさ、多分家族は生きてたらアメリカにいると思う」
「え……?」

 随分と物騒な話だが、追われているのと何か関係があるんだろうか。

「俺達家族はさ、なんも悪いことしてないのに、吸血鬼ってバレちゃって何かよく分かんない組織に捕まりそうになってさ」

 やっぱり吸血鬼だったか。私が頷くと、ソラが驚愕の表情になる。

「……今、普通の顔して何気に爆弾発言落としたつもりだったんだけど」
「日本語うまいよね」
「そこ?」
「……私、結構そういうのに縁があって」

 私が言葉を若干濁しつつ言うと、ソラが一瞬考える様に上を見、そしてああ、と笑いかけた。そしてもう今すぐにでもこの笑顔の写真を撮って最大限に引き伸ばして天井に貼って、眺めながらうふうふ言って寝たい。

「そっか、ハルの血、甘いからな!」
「それ、さっきも言ってたけど何?」
「え? ハル、言われたことない?」
「ないけど……」

 私が答えると、ソラは意外そうな表情になった。

「俺さ、ダンピールだからこういうのあんまり敏感じゃない方なんだけど、でもハルの匂いは近付いたらすっごいしたぞ」
「ダンピールって何?」
「吸血鬼と人間のハーフ。母ちゃんが日本人の人間なんだよ」
「へえー」
「へえーって……ハル、今までよく無事だったな? 俺が言うのもあれだけど」

 二階部分にくると、店舗に挟まれた通路を真っ直ぐに進む。その先に、また上へと続く階段があるのだ。

「……時折、変なのに会うことはあるんだけど」
「まあ寄ってくるよな、当然」

 うんうんとソラが頷く。自分ものに含まれている自覚はないのか、気にしている様子はない。まあ可愛いからいいけど。

「周りを彷徨いてるなあ、と思っている内に、いなくなっちゃうんだよね」
「いなくなる?」
「うん。……それはお母さんが死んでからだけどね」

 私の言葉に、ソラは暫し無言になった。

「……ハルは、家族は?」
「いない。ひとりきり」
「……じゃあ、俺達似たようなもんだな」

 はは、と小さく笑うソラは、その笑顔の儚さに反し、きゅっときつく私の手を握り締めたのだった。
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