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契約
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私達が広い階段を登って行くと、屋上にある広い公園スペースに出た。一気に風が通り過ぎ、薄着だった私はブルっと身体を震せる。
「ハル、寒い?」
「あー、うん、ちょっとね」
「ごめん、急ぐから」
ソラは済まなそうに謝ると、私の手を少し引っ張って私の肩を抱くように歩き出した。私のばくばく言い過ぎな心臓の音が聞こえてしまいそうな位、かなり密着している。
きっと寒いと言ったからだろうが、年下だろうが男の子とこんなに接触していいものなのだろうか。しかもやっぱり滅茶苦茶可愛いし。これ、家につれて帰ったら襲っちゃうかもしれない。未経験者が男をどう襲うんだって言われたら返事は出来ないけど。
一体誰への確認かも分からないことを、私は少しソワソワしながら考えた。
ソラに連れられて、屋上の柵の前まで進む。転落防止目的だろう、かなり背の高い柵だ。
「どこだったっけなあ」
ソラが柵の向こうを覗く様にしてキョロキョロしている。
「何色? どんな鞄?」
「黒い登山用のリュック。慌ててたからなあ」
ソラはそう言うと、指を差しながら「あっちから来て、ここに逃げて」とぶつぶつ言っている。公園の中は人はまばらで、ハロウィン対策からかたまたま休みなのか、スポーツ施設の電気も消えていた。柵の向こう、眼下には溢れる若者と車。都会の喧騒から少し上空にあるここだけ、現実から切り離された異空間の様に思えた。
ちょっと幻想的で、光をそのとんでもなく可愛い顔に反射させているソラは、まるで妖精の様だった。あ、この写真もいいな。そして引き伸ばしてベッドの横に貼りたい。
「――あ! あったあった!」
ソラが嬉しそうに指した先は、柵の向こうの植木の陰だった。
「え?」
何故柵の向こう側にあるのか。すると、ソラは何でもない様に私に手を差し伸べたではないか。手を差し伸べられただけでドッキドキの私は、間違いなく変態だ。ごめんねソラ、お姉さんは変態です。
「ハル、高い所大丈夫?」
「ええ!?」
「あ、駄目? じゃあ俺がさっと取ってくるからそこで待ってて」
「えええ!?」
先程から驚くことしか出来ない私を見て、ソラが可愛い顔を笑みで一杯にした。もうまじで可愛い、閉じ込めたい。あ、やっぱり変態な発想になってきた。
「ちょっとハル、驚き過ぎで可愛いんだけど」
「え? か、かわ!? え、ちょっと待って」
年下可愛い系男子の可愛い発言はあまりにも違和感満載で、私のリアクションは明らかにおかしいものになった。心の中ももう大分おかしいから、内外ともにおかしい人だ。
「――ねえ、さっき会ったばっかりなのに、俺おかしいかもしれない」
「ええ!?」
ソラが、私を腕の中に納めたまま顔を近付けてくる。ちょっと待て、相手は子供といえど男の子だ。そしてソラもおかしい? 二人揃っておかしいのは問題があるんじゃ。
「何か、ずっとハルを知ってた気がする」
ソラがそう囁きながら私の顔にその整いすぎた顔をどんどん近付けてきて、もうあと数センチで唇同士が触れ合いそうな距離になったその時。
オオオオオオーン……という、犬の遠吠えが鳴り響いた。ピタ、とソラの動きが止まる。鋭くさっと辺りを見回す瞳が、紅く光った。
私はそれまで全く身動きが取れず、心臓が痛い位心臓がばくばくいっている。
「しまった、来ちゃった」
「え? 今の鳴き声?」
「そう。――数が多いから、ハルは……あ、そうだ」
「え?」
「ハルならいいや」
「ええ?」
ソラが何を言いたいのかも分からないし、犬に追いかけられている理由も分からない。がっちりと捕まえられたソラの腕の中、私は訳が分からずただ左右を見渡すことしか出来なかった。そして可愛いソラの腕の中、もう昇天間際なんですが。
「俺と契約すれば、俺の力をちょっと分けてあげられるから怖くなくなるかも」
「け、契約?」
「そう、俺と血の交換をする。さっきハルのはもらっちゃったから、後はハルが俺の血を舐めたら契約は無事終了」
「へ!?」
私がただ目を白黒させていると、ソラはふふ、と可愛らしく微笑んだ。やばい、鼻血出そう。でも鼻血も甘いとか言って飲まれるのは嫌だ。我慢しよう。
「父さんと母さんがやってたんだ。時間経つと薄れちゃうみたいでちょこちょこやってたのを見てたから、大丈夫」
「ちょっと待って、大丈夫って何が」
「待ってて」
ソラがそう言った瞬間、ソラの犬歯がある場所から鋭い牙がニュッと飛び出した。これ、出し入れ可能なのか。私が驚いて見ていると、ソラがそれで自分の下唇を刺してしまった。
「ちょっと!?」
牙が引っ込み、ソラの可愛らしい下唇に二つ赤い血の球が浮き出た。
「飲んで」
ソラが顔を再び近付ける。
「ええええ!? ――んん!」
私のあんぐり開いた口の中に、ソラの下唇が入り込んできた。口の中に、鉄の味が広がる。
「ハル、口の中も甘い……!」
興奮したソラの声が私の口の上でする。私も興奮してますよ、当然のことながら。
「ハル、飲んで、早く」
急かすソラの声に、さっき会ったばかりの吸血鬼の男の子とキスしてしまっている事実に混乱していた私は、言われるがままに口の中に溜まった血混じりの自分の唾を呑み込んだ。ごくん、と喉が鳴って初めて、ソラは私から口を離す。
ソラの目は、真っ赤になっていた。傷があった筈の唇には、傷ひとつ残っていなかった。
薄っすらと艷然に微笑むソラの姿に、私は全ての音を失って見惚れる。もうこれ、惚れたでいいのかもしれない。チョロさ選手権第一位だよ、ハルちゃん。
「――どう? 何か違わない?」
「どうって……」
「初めてだからかな? 俺がダンピールで力が弱いのかなあ?」
「いや、ちょっとよく分かんないけど」
とりあえず、今キスをした相手に私は釘付けになっていることだけは確かだった。何だこれ。冷静な顔を保ちながらも、私は内心焦りまくっていた。ハル二十四歳、初めてのキスだ。すっごい柔らかかった。なにこれ。
「足りなかったのかなあ? 足す?」
ソラは物欲しそうな目で私を見ている。私の心臓はバクバクいっていた。ちょっと待って、口から心臓が飛び出そう。いや、まあもう一回したいっていうならそのまあ考えなくもなくも、うん。
「ハル……」
ソラの顔がまた近付いてきているのに、私は全く身動きが取れず、しかもそれを待ち望んでいるかの様に自分も近付いていく。……身体がおかしいかもしれない。いや、おかしいのは脳みそだった。
ウオオオオオオンッ!!
今度は、かなり近い距離で犬の鳴き声がした。
ビクッとして、ソラの動きが止まる。ソラが、いたずらっ子の様な笑みを浮かべた。
「ちぇっ、邪魔されちゃったな」
そしてサッと私を抱きかかえると、にやりと笑って言った。
「俺の首にしっかりしがみついてて」
「う、うん。でも荷物はどうするの!?」
「勿論取りに行くよ」
ソラはそう言って、屈んだと思うと一気に地面を蹴った。グワッ! と私達の身体が飛び上がる!
私は言葉を失い、信じられなくてただ眼下を見下ろすしか出来なかった。物凄い高いと思っていた柵が、何故足元にあるのか。
トン、とソラが柵の上に着地したと思うと、タン、と柵の外側の植え込みに向かって飛び降りる。
「――!!」
何も言えずに私が声を呑み込んでいると、また軽く着地したソラが、サッとリュックを拾って肩に掛けた。
ソラが、ちらりと先程までいた公園側を見る。
「来ちゃった」
「えっ」
私の目に飛び込んできたのは、物凄い勢いでこちらに向かって駆けてくる黒い大きな塊だった。
「何あれ!?」
「とりあえず逃げよう」
ソラはそう言うと、タンッと軽く跳躍した。
――空の方へ。
「ハル、寒い?」
「あー、うん、ちょっとね」
「ごめん、急ぐから」
ソラは済まなそうに謝ると、私の手を少し引っ張って私の肩を抱くように歩き出した。私のばくばく言い過ぎな心臓の音が聞こえてしまいそうな位、かなり密着している。
きっと寒いと言ったからだろうが、年下だろうが男の子とこんなに接触していいものなのだろうか。しかもやっぱり滅茶苦茶可愛いし。これ、家につれて帰ったら襲っちゃうかもしれない。未経験者が男をどう襲うんだって言われたら返事は出来ないけど。
一体誰への確認かも分からないことを、私は少しソワソワしながら考えた。
ソラに連れられて、屋上の柵の前まで進む。転落防止目的だろう、かなり背の高い柵だ。
「どこだったっけなあ」
ソラが柵の向こうを覗く様にしてキョロキョロしている。
「何色? どんな鞄?」
「黒い登山用のリュック。慌ててたからなあ」
ソラはそう言うと、指を差しながら「あっちから来て、ここに逃げて」とぶつぶつ言っている。公園の中は人はまばらで、ハロウィン対策からかたまたま休みなのか、スポーツ施設の電気も消えていた。柵の向こう、眼下には溢れる若者と車。都会の喧騒から少し上空にあるここだけ、現実から切り離された異空間の様に思えた。
ちょっと幻想的で、光をそのとんでもなく可愛い顔に反射させているソラは、まるで妖精の様だった。あ、この写真もいいな。そして引き伸ばしてベッドの横に貼りたい。
「――あ! あったあった!」
ソラが嬉しそうに指した先は、柵の向こうの植木の陰だった。
「え?」
何故柵の向こう側にあるのか。すると、ソラは何でもない様に私に手を差し伸べたではないか。手を差し伸べられただけでドッキドキの私は、間違いなく変態だ。ごめんねソラ、お姉さんは変態です。
「ハル、高い所大丈夫?」
「ええ!?」
「あ、駄目? じゃあ俺がさっと取ってくるからそこで待ってて」
「えええ!?」
先程から驚くことしか出来ない私を見て、ソラが可愛い顔を笑みで一杯にした。もうまじで可愛い、閉じ込めたい。あ、やっぱり変態な発想になってきた。
「ちょっとハル、驚き過ぎで可愛いんだけど」
「え? か、かわ!? え、ちょっと待って」
年下可愛い系男子の可愛い発言はあまりにも違和感満載で、私のリアクションは明らかにおかしいものになった。心の中ももう大分おかしいから、内外ともにおかしい人だ。
「――ねえ、さっき会ったばっかりなのに、俺おかしいかもしれない」
「ええ!?」
ソラが、私を腕の中に納めたまま顔を近付けてくる。ちょっと待て、相手は子供といえど男の子だ。そしてソラもおかしい? 二人揃っておかしいのは問題があるんじゃ。
「何か、ずっとハルを知ってた気がする」
ソラがそう囁きながら私の顔にその整いすぎた顔をどんどん近付けてきて、もうあと数センチで唇同士が触れ合いそうな距離になったその時。
オオオオオオーン……という、犬の遠吠えが鳴り響いた。ピタ、とソラの動きが止まる。鋭くさっと辺りを見回す瞳が、紅く光った。
私はそれまで全く身動きが取れず、心臓が痛い位心臓がばくばくいっている。
「しまった、来ちゃった」
「え? 今の鳴き声?」
「そう。――数が多いから、ハルは……あ、そうだ」
「え?」
「ハルならいいや」
「ええ?」
ソラが何を言いたいのかも分からないし、犬に追いかけられている理由も分からない。がっちりと捕まえられたソラの腕の中、私は訳が分からずただ左右を見渡すことしか出来なかった。そして可愛いソラの腕の中、もう昇天間際なんですが。
「俺と契約すれば、俺の力をちょっと分けてあげられるから怖くなくなるかも」
「け、契約?」
「そう、俺と血の交換をする。さっきハルのはもらっちゃったから、後はハルが俺の血を舐めたら契約は無事終了」
「へ!?」
私がただ目を白黒させていると、ソラはふふ、と可愛らしく微笑んだ。やばい、鼻血出そう。でも鼻血も甘いとか言って飲まれるのは嫌だ。我慢しよう。
「父さんと母さんがやってたんだ。時間経つと薄れちゃうみたいでちょこちょこやってたのを見てたから、大丈夫」
「ちょっと待って、大丈夫って何が」
「待ってて」
ソラがそう言った瞬間、ソラの犬歯がある場所から鋭い牙がニュッと飛び出した。これ、出し入れ可能なのか。私が驚いて見ていると、ソラがそれで自分の下唇を刺してしまった。
「ちょっと!?」
牙が引っ込み、ソラの可愛らしい下唇に二つ赤い血の球が浮き出た。
「飲んで」
ソラが顔を再び近付ける。
「ええええ!? ――んん!」
私のあんぐり開いた口の中に、ソラの下唇が入り込んできた。口の中に、鉄の味が広がる。
「ハル、口の中も甘い……!」
興奮したソラの声が私の口の上でする。私も興奮してますよ、当然のことながら。
「ハル、飲んで、早く」
急かすソラの声に、さっき会ったばかりの吸血鬼の男の子とキスしてしまっている事実に混乱していた私は、言われるがままに口の中に溜まった血混じりの自分の唾を呑み込んだ。ごくん、と喉が鳴って初めて、ソラは私から口を離す。
ソラの目は、真っ赤になっていた。傷があった筈の唇には、傷ひとつ残っていなかった。
薄っすらと艷然に微笑むソラの姿に、私は全ての音を失って見惚れる。もうこれ、惚れたでいいのかもしれない。チョロさ選手権第一位だよ、ハルちゃん。
「――どう? 何か違わない?」
「どうって……」
「初めてだからかな? 俺がダンピールで力が弱いのかなあ?」
「いや、ちょっとよく分かんないけど」
とりあえず、今キスをした相手に私は釘付けになっていることだけは確かだった。何だこれ。冷静な顔を保ちながらも、私は内心焦りまくっていた。ハル二十四歳、初めてのキスだ。すっごい柔らかかった。なにこれ。
「足りなかったのかなあ? 足す?」
ソラは物欲しそうな目で私を見ている。私の心臓はバクバクいっていた。ちょっと待って、口から心臓が飛び出そう。いや、まあもう一回したいっていうならそのまあ考えなくもなくも、うん。
「ハル……」
ソラの顔がまた近付いてきているのに、私は全く身動きが取れず、しかもそれを待ち望んでいるかの様に自分も近付いていく。……身体がおかしいかもしれない。いや、おかしいのは脳みそだった。
ウオオオオオオンッ!!
今度は、かなり近い距離で犬の鳴き声がした。
ビクッとして、ソラの動きが止まる。ソラが、いたずらっ子の様な笑みを浮かべた。
「ちぇっ、邪魔されちゃったな」
そしてサッと私を抱きかかえると、にやりと笑って言った。
「俺の首にしっかりしがみついてて」
「う、うん。でも荷物はどうするの!?」
「勿論取りに行くよ」
ソラはそう言って、屈んだと思うと一気に地面を蹴った。グワッ! と私達の身体が飛び上がる!
私は言葉を失い、信じられなくてただ眼下を見下ろすしか出来なかった。物凄い高いと思っていた柵が、何故足元にあるのか。
トン、とソラが柵の上に着地したと思うと、タン、と柵の外側の植え込みに向かって飛び降りる。
「――!!」
何も言えずに私が声を呑み込んでいると、また軽く着地したソラが、サッとリュックを拾って肩に掛けた。
ソラが、ちらりと先程までいた公園側を見る。
「来ちゃった」
「えっ」
私の目に飛び込んできたのは、物凄い勢いでこちらに向かって駆けてくる黒い大きな塊だった。
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