イケメンハーフなダンピールに求婚されました〜ハロウィンの追いかけっこ〜

ミドリ

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セクシーなお姉さん

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 私は今、ソラの腕に抱えられながら渋谷の空を飛んでいる。

 眼下には、溢れ返る人々の頭で黒くなっている場所と、車とビルから発せられる色とりどりの光の洪水。それはまるで大きな川の様で、私はその大きなうねりに少し恐怖を覚えた。

 ソラは細いのに、両手に私を抱えて肩には重そうな大きいリュックを掛け、目にはほんのり笑みを浮かべている。私はその横顔を見て、こんな状況だというのにドキドキしてしまっていた。さっき初めて会ったばかりの、この年下の可愛い系男子に。

 この子に、契約だか何とか理由は言っていたが、実質はキスをされてしまった。しかも、邪魔さえ入らなければ私は二回目を受け入れようとしていたのだ。……やばくないか? やばいだろう。どうなってんだ、私の貞操観念は。

 それにしても、随分高く飛んだものだ。先程までいた宮下公園ですら、遥か下に見える。

「ソ、ソラ! ソラって空が飛べるの!?」

 コウモリが空を飛ぶのは理解出来るが、吸血鬼の姿のままで空を飛べるなんて聞いたことがない。すると、私の質問にソラがあはは、とあどけない笑いを見せた。

「空は飛べないけど、思い切りジャンプしたんだ」
「ジャ、ジャンプでこんなに!?」
「吸血鬼の能力を使って、俺の周りの重力みたいなの調整出来るんだよ。なかなか便利だぞ」

 確かに便利そうだが、吸血鬼ってそんな仕組みだったのか。所謂いわゆる異能力というやつなのだろう。

「なあハル、もう寒くないだろ?」
「あ、そういえば」

 先程までガタガタ震えていたのに、全く寒くなくなっていた。なんでだろう。

「吸血鬼が空中で寒さには震えてたら格好悪いだろ? だから俺達は寒さには強いんだ!」
「はあ」

 よく分からない理論だ。それにそれが私になんで関係あるんだろうか。

「じゃあ暑さには?」
「暑いの嫌い……」

 急に可愛い不貞腐れ顔になった。口を尖らせているそこが、さっき私の口に。……やばい、顔がにやけそうだ。ていうか、キスされたからってチョロすぎやしないか、私。

 私達は、風を受けながら徐々に降りて行く。ソラが目指しているのは、上から見て光のない暗くなっている場所だったようで、降りた所は低めの建物の屋上部分だった。古い建物なのか丸い給水塔があり、縁には転落防止の錆びた金網が張り巡らされている。

「ソラ、一回降ろしてくれる?」
「えー」

 ソラは可愛く口を尖らせながらも、渋々といった体で私を降ろしてくれた。キョロキョロと確認すると、暗がりに下へ続いていると思われるドアを見つけた。

「あそこ、開いてるかな?」

 私が確認の為ドアに近付くと、ソラが後ろからついて来ながら言う。

「別にまた上を行けばいいじゃないか」
「あのねえ、こんな人の多い所でそんな姿を見られたら、大騒ぎになるから!」
「そうかな? 俺、結構自分ちの町では飛んでたけど騒ぎには一度もならなかったぜ」

 私はドアノブに手を触れ、ソラを振り返る。

「さっきは高い所からだったからよかったけど、こんな低い所から飛んだらすぐに見られるから。大人しく地上から行きましょ」
「ちえー。分かったよ。契約者のハルの言うことだからな、聞きまーす」

 ソラが満更でもなさそうな顔で笑ったので、契約者云々の詳しい話は道中ですることにして、私はドアノブを捻ろうとし。

「――え?」

 まだ力を込めていないそれが、勝手に回っていくのに気付いた。

「後ろに下がって」

 ソラが、私の反対の手を掴んで後ろへ引く。外開きのドアが、ギイイ、と軋む音を上げながらゆっくりとこちら側に開いた。え? 何だ? どういうこと?

 私は一瞬何が起こっているのか理解出来ず、ソラが引くままどんどん後ろに下がる。

「あら?」

 と、ドアの向こうから出て来たのは、この汚い屋上には不釣り合いこの上ない、ピンク色の上下のスーツを着たお姉さんだった。夜のお仕事の方なのか、なかなかに派手な化粧に豪華な髪型をしている。

「あれー、君達、こんな所で何してるのお?」

 お姉さんは、私達が女の子同士だと思ったのか、気安く話しかけてきた。

「あ、あの! ごめんなさい! ちょっと間違えて入ってきちゃって!」

 私が慌ててお姉さんに謝ると、お姉さんはつけまつ毛がたっぷり乗った目を細めながら、私とソラを交互に見比べる。

「あーそうなのお? でもおかしいなあ、一階は閉めておいた筈なのにい」
「あ、そのっあははっ! よ、よじ登って!」
「……ふうん?」

 お姉さんの笑顔が、不審げなものに変わっていく。しまった、余計なことを言ってしまっただろうか。ここは素早く撤退した方が絶対よさそうだった。

 私は、作り笑いをしてお姉さんに宣言する。

「あの! 今すぐ出て行きますんで!」

 すると、ソラが私の腕をぐいっと引っ張り、私を背後に匿った。すれ違いざまに見た表情は真剣そのもので、お姉さんとソラの表情の変化に、私は異質なものを感じ取る。

「あれー、坊やこんな所にいたのねえ」

 お姉さんが、ソラを全く愛想の籠もっていない目で見た。坊や? こんな所? 私の理解力が乏しいのだろうか、ちょっと意味が分からなさ過ぎて、私はただポカンとお姉さんを見ることしか出来ずにいた。二人は睨み合ったまま動かない。

「あ、あのー……?」

 すると、ソラがお姉さんから視線を逸らさないまま、言った。

「あいつは人間じゃない」
「え? だってどう見てもセクシーなお姉さんじゃ」

 私が驚いてソラにそう返すと、お姉さんがぷう、と可愛らしく頬を膨らませた。

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