イケメンハーフなダンピールに求婚されました〜ハロウィンの追いかけっこ〜

ミドリ

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ひとめ惚れ

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 空から急下降してきたおじさん狼を、ソラは私を軽々と抱き抱えたまま大きく飛びずさって避けた。

 ガン!! と地面を叩く音と共に、砕けたアスファルトが飛び散る。こちらにも弾丸の様な勢いで飛んできた破片は、私達の少し前の空中で停止し、やがてパラパラと地面に落ちた。

「ええ!?」
「便利でしょ、俺の能力」

 私が驚いていると、ソラはちょっと自慢げに言った。

「あ! 重力の!」
「そう。ハルの血、最高に効いてるよ」

 人の血を、ちょっとやばい薬物の効果みたいに言わんでもらいたい。だがそんなことを言っている場合ではなかった。危機は一向に去っていないのだから。

 もうもうと立ち登る砂煙の中にいるのは、真っ黒い毛の大きな狼だ。至近距離で見ると、かなり大きい。

 私の背筋がゾクリと反応した。母を食らった怪異と、色も大きさもあまりにもそっくりだったから。

「ハル? どうした?」
「お、お母さんを殺したヤツ……?」
「え!?」

 ソラが体勢を整えているおじさん狼を睨むと、おじさん狼は慌てた様に首を横に振った。

「ハルちゃん、何言ってるんだ! あれは僕じゃないよ! アイツはあの時に若様が粛清されたじゃないか!」
「ちょっとヨツヤさん!」

 ミキと呼ばれたお姉さん狼が、ヨツヤと呼んだおじさん狼の横に並ぶ。ヨツヤさんは、ミキさんを怯える様にチラチラと見ていた。

「す、すまんミキ」
「ハルちゃんはあんまり覚えてないのに、わざわざ思い出させる様な発言しないでよお!」
「だ、だってさあ! 僕じゃないのに!」
「うるさい!」
「ヒイイ!」

 何なんだ、この二人。いや、二匹か。そして何故私のことをこんなに詳しく知っているのか。いくら私が怪異に出会いやすい質だからって、まさかこんなにプライベートなことまで知られているとは。

 この二人の雰囲気はちょっと漫才を見ている感じではあるが、依然としてソラの命が狙われていることに変わりはない。ただ、これまでのやり取りで、狼達は少なくとも私を傷つけはしないのが分かった。その『若様』とかいう狼のお陰で。

 と、ソラが突然全速力で反対方向に走り出した。

「しっかり掴まって!」
「うん!」

 そうだ、先程は歩道で前後を塞がれていたが、おじさん狼が襲ってきたことで、挟み撃ちではなくなった。つまり、前方はがら空きだ!

「あ、こら! 待ちなさーい!」

 勿論そんなことを言われても待つ訳がなく、ソラは加速し切ったところで地面を蹴った。人間だったらあり得ない高さに跳躍した私達は、低めのビルの屋上に着地する。上から飛んだ時とは違い、大きなビルへの跳躍はさすがに無理がある様だった。

 ソラはそのまま今度は建物の上を走っては跳躍していく。まるであれの様だ、あの町中で忍者みたいに飛び跳ねたりする、パルクール。これだけ動けたらさぞや楽しいに違いないと思ったが、そういえば私の身体にもソラの力が分け与えられていると言っていた筈だ。

「ねえソラ、私もソラみたいに飛んだり跳ねたり出来るのかな!?」

 ちょっと面白そうだな、そう思ったが、ソラはあっさりと首を横に振った。

「ハルは人間だから、重力のコントロールは出来ないと思う」
「なんだ」

 私があからさまにがっかりすると、ソラが宙を舞いながらチュ、と私の口にキスをした。……ええと。ええとおおお!!

「寒さに強くなったり傷の治りが早かったりはすると思うから、そう残念がらないで」

 だけど、私はもうそれどころじゃなかった。

「ソ、ソラ!? あのね、君はまだ子供でしょ!? 大人をそうやってからかっちゃ、だ、駄目だよ!」
「からかう? 何を言ってんの、ハル」

 ソラはすっとぼけているのか本当に分からないのか、可愛らしく首を傾げている。なびく栗色の髪が、場違いな程爽やかだ。

「いや、だからね! アメリカではどうだか知らないけど、そう簡単に女の人にキスしちゃいけないんだよ!」
「俺だって別に誰彼構わずしないよ、失礼だな」

 失礼だなって、そりゃこっちの台詞だよソラくん。まあ随分と気軽に触れられてはいるが、私にだって節度と警戒心いうものは存在する。事実、神崎はそれで私に近づいては来なかった。今日までは。

 ソラは、下の歩道を追いかけてくる狼達にちらりと視線を送る。

「俺さ、ハルをひと目見て、好きになっちゃったみたい」
「ゴホッ!」
「ハル、大丈夫?」

 私がゴホゴホしていると、ソラが今度はおでこにキスをした。いやいやいやいや。可愛いが、そうじゃない。今さらっと告白されたけど、ソラが私みたいな地味子にひとめ惚れはあり得ないだろう。

「いやあ! 私みたいな地味な女にひとめ惚れってソラ、ちょっとそれは信じられないよ!」

 家に置いてもらいたいが故のあれなんじゃ? と思ったが、ソラの眼差しは真剣そのものだった。

「まず、匂いが堪らなくそそられた」
「そそ……」

 私は絶句した。そしてそんな獲物を狙う様な艷やかな目で見つめないでくれ。お姉ちゃん、いかれちゃうから。

「ハルの顔も、キリッとしてて好きだ」
「そ、そりゃどうも……」

 自分ではつり目で可愛げのない顔だと思っているが、そういえば海外の人はアジアンビューティーといえば細目の所謂アジア顔が好きと聞くから、ちょっと好みが日本人の一般的なものとは違うのかもしれない。

「あと、滅茶苦茶お人好しで親切で優しいし」
「そりゃおうちのないこんな可愛い子を置いていける訳ないでしょ」
「え? 可愛い? それ俺のこと?」

 私がぽろっと零した台詞に、ソラは嬉しそうな反応を見せた。トン、と再びビルの屋上の縁を蹴り、次のビルへと移る。時折、狼達の呼び合う鳴き声がし、それらは段々こちらに追いついている様に思えた。

「ねえハルってば」

 ソラがねだる。

「いや、まあ可愛い、よね」
「やった! ハルに褒められた!」

 ソラはそう言って笑顔で喜ぶと、またチュ、とキスをした。私の身体が、瞬時にカアッと熱くなる。ちょっといくらなんでもしすぎだろう。いくらソラが可愛いからって、これはその、……恥ずかしながらもうへへと思ってしまう私よ、一体どうした。

 私は心を鬼にして、ソラを叱ることにした。

「ソラ!」
「やっぱり俺達、相性抜群なんだよ! ハルだって俺のこと初めからいいなって思ってたってことだろ?」
「へ!? いいなっていうかそのあのえええっとおおお!」

 思ってた。ていうか、可愛いなあ、愛でたいなあと思っていたが、別にひとめ惚れではない……筈だ。多分。女の子だと思っていたし。

 というか、早速叱ることは失敗している。日頃のクールな私よ、どこへ行った。戻ってこい!

 ソラは、次のビルの上を走りながら渋谷の駅から遠ざかって行く。方向を伝えていないが大丈夫だろうか。いや駄目だろう。

「俺の父さんと母さん、お互いひとめ惚れだったんだって。だから俺もそういう人が現れるといいなって思いながらこれまで何人か付き合ってみたけど、なーんかぴんと来なくてさあ」

 さすが可愛い顔をしている子は、モテ具合が違うらしい。

「なんだけど、ハルに会った瞬間、もう俺フラフラと引き寄せられたもんな!」
「お腹空いてただけじゃなくて?」
「いや、ピンときたんだよ! この子は俺の相手だって!」

 ホントかよ。心の中で呟いたが、確かに初めからかなりぐいぐい来ていた。これまでのソラがどんな人だか分からないので比較しようもないが、……本当だったらどうしよう。

 私はにやつく頬を渾身の努力で抑え込んだ。とりあえず、方向を正す方が先決だ。

「ソラ、あの線路の向こう側に行かないといけないんだ」
「線路……凄いなーあれ!」

 何本も並ぶ線路に、時折轟音を立てて通り過ぎる電車の光。ソラはこくりと頷くと、助走をつけて上空へと舞い上がった。
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