イケメンハーフなダンピールに求婚されました〜ハロウィンの追いかけっこ〜

ミドリ

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外来種

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 ソラは私を腕の中に庇いながら、静かな表情で狼達を交互に見る。焦っている風には見えない。距離はまだ十分にあるが、先程のあの突撃のスピードを見る限りこんな距離は一瞬だろうに、本当に大丈夫なんだろうか。

「ソラ、挟み撃ちにされちゃったよ! どうする!?」
「上に逃げるにも、さすがに追いつかれそうだもんなあ」

 ソラは歩道脇のビルをちらっと見上げた。ソラは跳躍は出来ても飛べる訳ではない。ある程度勢いがなければ、真上に素早く逃げるのは無理なのかもしれなかった。

 でも、こんな可愛い子でしかも海外から追われて逃げてきた可哀想な子を、たとえソラが吸血鬼だって、この私が見捨てられる訳がない。とにかく文句なしに可愛いから、もう絶対無理だ。

 ジリ、と狼達は獲物を狙う様に少しずつ距離を詰めていく。お姉さん狼は、さっきは多分ソラの首を狙っていたんじゃないか。ということは、殺しにきているということだ。そして、私のことは「ハルちゃん」と呼んだ。そしてソラに私を置いていく様に言っていた。

 つまり。

 私はお姉さんの方だと思われる狼に言った。

「この子に手を出しちゃ駄目!」
「ハル?」

 私はちらっとだけソラを見上げ、また目線をお姉さん狼に戻した。どうもこのお姉さん狼は、私のことは殺したくないみたいだ。ということは、私がソラを庇えば許してくれるんじゃないかなんて淡い期待を持ったのだ。

 すると、今にも飛びかかろうかという体勢だったお姉さん狼が、少しその勢いを収めた。おお、凄くないか、私のこの鋭い読み。

「ハルちゃん駄目よお! その子は外来種よ、危ないんだからあ!」
「外来種」

 すぐに襲うのは止めた様だが、何か言ってることがおかしくはないか。私はソラをそおっと上目遣いで見ると、ソラも私を見た。キョトンとしている。

「ハル、外来種ってなに?」

 日本語を喋ってはいても、普段日本に住んでいる訳ではなかった彼からしてみれば、こういった単語は聞き慣れない部類のものなのかもしれない。しかし、何と伝えるべきか。だって、結構失礼な言い方じゃないか。

 私が言い淀んでいると、お姉さん狼が私の代わりに説明してしまった。

「外からやって来てこの辺に悪影響を及ぼす生き物のことよお! つまりあんたは害虫! 排除なんだって! 可愛いからペットにしたかったけどお!」

 ペット? この人、いや人じゃないや狼だけど、男の子をペットにするって言ってなかったか今? ――ソラを家で飼う。ちょっと響きにゾクゾクしてしまったではないか。家に帰るとにこにこお迎え。……悪くない。

 すると、ソラは絶対零度の冷たい目でお姉さん狼を見て吐き捨てた。

「やだよ、あんたみたいな雌臭い奴」

 ソラの声色の冷たさに、私の中の妄想が急激に萎んでいった。いかんいかん、これじゃただの変態だ。口に出す前でよかった。

 と、ソラが私ににっこりとして言った。

「あ、でもハルにならいいからな」
「へ?」
「どうせ帰る場所もないし、このままハルと暮らして、俺と夫婦になればいいんだ。あ、いい考え」
「ふ、夫婦!?」

 ソラはちょっと熱っぽい目で私の目を覗き込む。いやいや、こんなことを話している場合じゃないだろうに。

「だって、俺達は契約した仲じゃないか。しかも相性抜群だし。身体の調子滅茶苦茶いいもんな」
「相性? ちょっと待ってソラ、話が全然見えないんだけど」

 お姉さん狼は、親切にも待ってくれている。私が話しているから……とかだろうか?

「吸血鬼だって、誰の血でもいい訳じゃないんだ。相性が悪いと拒絶反応を起こしたりするのに、ハルの血は俺に力をくれた。しかも俺、血を飲んだの初めてなんだぜ」
「はあ」

 ちょっと、いや大分よく分からない。

「ということは、俺達の相性は抜群。しかも契約は本来はこれからずっと一緒にいますって意味だし」
「はあ……ええ!?」

 ソラは、照れくさそうな笑顔で尋ねる。いや、なに照れてんの。

「ハル、俺の前に血の交換した奴はいないよな?」
「へ? い、いないと思うけど……」
「じゃあハルは俺のだ! そして俺はハルのだ!」

 ソラはそう言うと、私をガバッと抱いた。私はどうしたかというと、絶賛固まっている最中だった。ちょっとこれは、きちんと頭の整理をしなければいけない事態ではないか? なんか私、結婚することになってないか?

「契約をすると、もっとお互いのことが欲しくなる。ほら、ハルも俺のことが欲しくないか?」
「ちょっとソラ、それってどういう……」

 私が更に尋ねようとしたその時、おじさんの方の狼がお姉さん狼に向かって言った。

「ミキ! 聞いたか!? この外来種、契約を済ませたって言ってるぞ!」

 すると、お姉さん狼がその声に答える。

「んー、拙いわねえ。若様にバレたら、私達八つ裂きよお」
「冗談じゃないぞ! おい! さっさと契約の解除をさせるぞ!」
「ねえー。ハルちゃんに遠慮してる場合じゃなかったわねえ。でも強制解除ってキツいわよお」
「……また目にするのは可哀想ではあるがな、仕方のないことだ!」

 遠慮? また目にする? もう今日は意味が全然分からないことだらけだ。ソラも、狼達も。

 私が狼達を交互に見てどうしようと焦っていると、ソラが熱い目をして私に懇願する様に尋ねた。

「ハル、もう少し血を分けてくれないか? そうしたら、多分もっと強い力を使えると思うから」
「えっ……」
「優しくするから」

 ソラの命を狙われているというのに、不覚にも私の心臓はまたもやバックバクいい始める。ソラの表情があまりにも艶っぽくて。

「わ、分かった」

 とにかく、ソラを殺させる訳にはいかないのは確かだ。私が頷くと、その瞬間ソラの目が紅く爛々と輝いた。

 私を抱き寄せ、首に口を当てる。

「ひゃっ」

 くすぐったさと暖かさに思わず声を出すと、ソラが笑ったのが分かった。なんか私、さっきからこの子に翻弄されてないか? ……なのに嫌だと思えない私のこのチョロさよ。だって可愛いし。なんかちょっと家に帰ったらソラがいるとか、いいし。いや結婚はちょっとあのそのまだ心の準備がその。

 チク、と一瞬痛みが走ったが、その後は一気に快楽が私を襲ってきた。身体中がゾクゾクして、思わずソラに抱きつきもたれかかってしまう。

「な、なにこれ……」
「やばいねこれ」

 少しして口を離したソラは、大分興奮した表情を浮かべている。

「ありがとハル、最高に美味しかった」

 口の端に付いていた血を舐め取ったソラは艶然と笑い、私にちゅ、とキスをした後また私を両手に抱えた。

 今、キスしなかったか? 当たり前の様に、すっごい自然な感じでサラッとしていったよな?

 私が驚いて声を発する前に、お姉さん狼が先に抗議の声を上げた。

「ちょっとちょっと! 外来種がハルちゃんに何キスしちゃってんのよお! やばい! これは見なかったことにしないとお!」
「あ、あの! やばいってどういう意味で……!」

 私が問いかけたその時。

 真上から、おじさん狼が私達に迫ってきていたのが目に飛び込んできた。
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