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其の四十四 気付かなかった違い
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肌に触れる空気がいやに冷たく感じ、自分がいつの間にか寝てしまっていたことに気が付いた。
瞼が重く、なかなか開かない。無理矢理こじ開ける様に押し上げると、俺が寝ている二段ベッドの下段に腰掛けている影を見つけた。華奢な背中、肩までのボブカットがサラサラと揺れている。風呂から上がって大分経つのだろうか。その背中をぼんやりと見つめながら思っていると、花がゆっくりと振り返った。
「あ、起きた」
可愛らしい声で囁く様に言われた途端、俺の脳が覚醒していく。
小学三年生の時代から、一気に現在へとタイムスリップした感覚だった。花が自分の近くに恋人としていてくれる、その事実が、俺を現実へと連れ戻したのだ。
「ごめん、寝てた」
「寝顔、可愛かった」
ふふ、と小さく笑う花はいつもよりも妖艶で、それだけでちょっと疼いてしまう。少し縮こまった俺を見て、暗闇の中で唯一ナツメ球の光を反射させている目が、楽しそうな笑みで細まった。
ギシ、と音を立てて、花がマットレスの上に乗ってくる。すると、花が俺の上に跨って座ってきたじゃないか。しかも少し硬くなった部分の上に座るものだから、刺激に思わずビクッと反応してしまった。その勢いで、花が天井に頭をゴン! とぶつける。
「あっごめん!」
「……痛いなあ」
「だ、だってさ!」
花は、唇を尖らせて前屈みになると、俺の胸の上に寝そべった。ブラジャーを付けていない胸は柔らか過ぎて、家族が皆起きていると分かっているのに、こんなにも身体が反応してしまう。これじゃまるで猿だ。さすがに自分が情けなくなって、これまた情けない声を出した。
「花、ご、ごめん……ちょっとやばいから、一旦降りて」
花が身動きする度に、どうしたって当たるのだ。
「ずっと待ってたのに、冷たいなあ」
そうか、花はおやすみのキスをする為に、ずっと起きて待っててくれたのだ。悪いことをしたなと反省するが、でもどうやったってこの家で感情のまま花に襲いかかる訳にはいかない。
「ごめん、本当ごめんてば」
「ふーんだ」
それでも、花は横にずれてくれた。助かった。代わりに、俺の二の腕に頭を乗せ、胸の上に手を乗せてくる。いやに積極的じゃないか。これはどうも、相当長い時間待たせてしまったらしい。
「……落ち着いた?」
囁き声が、耳に触れる。ゾワワ、と反応してしまうのは、これはもう勘弁して欲しかった。好きな子が、同じ布団の上でやたらと煽ってくるのだ。同じ屋根の下に親がいるという事実が、更にそれを助長させる。駄目だと思う程に欲求は深くなる。欲というのは、そういうものなのだと初めて知った。
とにかく、話題を変えよう。今おやすみのキスの話なんてしたら、もう自分を抑えられる自信はなかった。
「あー……花?」
「なあに」
吐息の様な返事に、ゾクゾクしてしまう。駄目だ駄目だ、今は切り替えるんだ。
心の中で、大きく深呼吸をした。
「俺、太一とかくれんぼをしていた場所に行きたいんだ」
じっと、花の返事を待つ。これまで花は、俺が思い出そうと努力することにすら反対していた。太一に成りすます程の精神的ショックを受けた出来事だ、中途半端に思い出してまた同じ思いに囚われることを、花は恐れているのだろう。そう考えていた。
「でも、ひとりだと不安でさ……出来れば、花も一緒に行ってほしいんだ」
追体験をすることで、どうなってしまうかは正直自分でも分からない。だけど、あの時と今では、決定的に違うことがある。俺と花は、今や互いを必要とし、互いを認め愛しあっている。心から愛する人が横にいる限り、もう自分を見失ったりはしないだろう。
その為に、花にも一緒に来てもらいたかったのだ。
すると、意外な答えが返ってきた。
「うん、いいよ」
あっさりとした返答に、思わずポカンと口を開ける。
「え……いいの?」
「うん、嬉しい」
花はにこっと笑うと、片手を俺の頬に当て、俺の顔を花の方に向かせた。
「嬉しい……のか?」
「うん。ねえ、約束のキス、しようよ」
「え? あ、うん」
いつになく積極的な花の顔が一気に近付いてきたかと思うと、俺の口を塞いだ。次いで、ぬる、と花の舌が俺の中に入り込んでくる。
「うわっつめた!」
思わず飛び上がる程、花の舌は冷たかったのだ。花は肘を立てて上半身を起こすと、俺の頬を両手で押さえてちろりと舌を出したまま笑う。
「冷えちゃった。……長い間、待たせるから」
「あ……ごめん」
女性の方が、体温調節が下手だと聞くので、エアコンがよく効いた部屋で待っている内に底冷えしてしまったのだろう。
再び俺の上にゆっくりと跨ってきたと思うと、俺の口のすぐ上で、煽る様に囁いた。
「ねえ、温めてよ」
するり、と片手を俺の下半身へと伸ばす。あまりの積極性に、俺はタジタジになっていた。だけど身体は正直だ。
「声、出さないようにするからさ」
花が言った直後、俺の理性は吹っ飛んだ。
俺と花は、互いを喰らい尽くすかの様な激しいキスを交わす。それは否応なく俺を興奮させ、もう頭は真っ白になった。
「宗二……!」
だから、花が吐息と共に呼んだ俺の名が、いつもの花の呼び方と違うことに気付かなかったのだ。
瞼が重く、なかなか開かない。無理矢理こじ開ける様に押し上げると、俺が寝ている二段ベッドの下段に腰掛けている影を見つけた。華奢な背中、肩までのボブカットがサラサラと揺れている。風呂から上がって大分経つのだろうか。その背中をぼんやりと見つめながら思っていると、花がゆっくりと振り返った。
「あ、起きた」
可愛らしい声で囁く様に言われた途端、俺の脳が覚醒していく。
小学三年生の時代から、一気に現在へとタイムスリップした感覚だった。花が自分の近くに恋人としていてくれる、その事実が、俺を現実へと連れ戻したのだ。
「ごめん、寝てた」
「寝顔、可愛かった」
ふふ、と小さく笑う花はいつもよりも妖艶で、それだけでちょっと疼いてしまう。少し縮こまった俺を見て、暗闇の中で唯一ナツメ球の光を反射させている目が、楽しそうな笑みで細まった。
ギシ、と音を立てて、花がマットレスの上に乗ってくる。すると、花が俺の上に跨って座ってきたじゃないか。しかも少し硬くなった部分の上に座るものだから、刺激に思わずビクッと反応してしまった。その勢いで、花が天井に頭をゴン! とぶつける。
「あっごめん!」
「……痛いなあ」
「だ、だってさ!」
花は、唇を尖らせて前屈みになると、俺の胸の上に寝そべった。ブラジャーを付けていない胸は柔らか過ぎて、家族が皆起きていると分かっているのに、こんなにも身体が反応してしまう。これじゃまるで猿だ。さすがに自分が情けなくなって、これまた情けない声を出した。
「花、ご、ごめん……ちょっとやばいから、一旦降りて」
花が身動きする度に、どうしたって当たるのだ。
「ずっと待ってたのに、冷たいなあ」
そうか、花はおやすみのキスをする為に、ずっと起きて待っててくれたのだ。悪いことをしたなと反省するが、でもどうやったってこの家で感情のまま花に襲いかかる訳にはいかない。
「ごめん、本当ごめんてば」
「ふーんだ」
それでも、花は横にずれてくれた。助かった。代わりに、俺の二の腕に頭を乗せ、胸の上に手を乗せてくる。いやに積極的じゃないか。これはどうも、相当長い時間待たせてしまったらしい。
「……落ち着いた?」
囁き声が、耳に触れる。ゾワワ、と反応してしまうのは、これはもう勘弁して欲しかった。好きな子が、同じ布団の上でやたらと煽ってくるのだ。同じ屋根の下に親がいるという事実が、更にそれを助長させる。駄目だと思う程に欲求は深くなる。欲というのは、そういうものなのだと初めて知った。
とにかく、話題を変えよう。今おやすみのキスの話なんてしたら、もう自分を抑えられる自信はなかった。
「あー……花?」
「なあに」
吐息の様な返事に、ゾクゾクしてしまう。駄目だ駄目だ、今は切り替えるんだ。
心の中で、大きく深呼吸をした。
「俺、太一とかくれんぼをしていた場所に行きたいんだ」
じっと、花の返事を待つ。これまで花は、俺が思い出そうと努力することにすら反対していた。太一に成りすます程の精神的ショックを受けた出来事だ、中途半端に思い出してまた同じ思いに囚われることを、花は恐れているのだろう。そう考えていた。
「でも、ひとりだと不安でさ……出来れば、花も一緒に行ってほしいんだ」
追体験をすることで、どうなってしまうかは正直自分でも分からない。だけど、あの時と今では、決定的に違うことがある。俺と花は、今や互いを必要とし、互いを認め愛しあっている。心から愛する人が横にいる限り、もう自分を見失ったりはしないだろう。
その為に、花にも一緒に来てもらいたかったのだ。
すると、意外な答えが返ってきた。
「うん、いいよ」
あっさりとした返答に、思わずポカンと口を開ける。
「え……いいの?」
「うん、嬉しい」
花はにこっと笑うと、片手を俺の頬に当て、俺の顔を花の方に向かせた。
「嬉しい……のか?」
「うん。ねえ、約束のキス、しようよ」
「え? あ、うん」
いつになく積極的な花の顔が一気に近付いてきたかと思うと、俺の口を塞いだ。次いで、ぬる、と花の舌が俺の中に入り込んでくる。
「うわっつめた!」
思わず飛び上がる程、花の舌は冷たかったのだ。花は肘を立てて上半身を起こすと、俺の頬を両手で押さえてちろりと舌を出したまま笑う。
「冷えちゃった。……長い間、待たせるから」
「あ……ごめん」
女性の方が、体温調節が下手だと聞くので、エアコンがよく効いた部屋で待っている内に底冷えしてしまったのだろう。
再び俺の上にゆっくりと跨ってきたと思うと、俺の口のすぐ上で、煽る様に囁いた。
「ねえ、温めてよ」
するり、と片手を俺の下半身へと伸ばす。あまりの積極性に、俺はタジタジになっていた。だけど身体は正直だ。
「声、出さないようにするからさ」
花が言った直後、俺の理性は吹っ飛んだ。
俺と花は、互いを喰らい尽くすかの様な激しいキスを交わす。それは否応なく俺を興奮させ、もう頭は真っ白になった。
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