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其の四十五 違和感
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汗だくになった後、渋る花を説得し、二段ベッドの上段に行かせることに成功したのは大分経ってからだった。
「じゃあ、上に寝たらキスしてよ」
「おう……う、うん」
外でないと、花はこんなにも積極的になれるらしい。回数を増やしていくにつれ、花にくっついて離れなかった羞恥心も剥げていったのだろうか。
花が梯子を登り横になったところで、下段のベッドのへりに足を掛け、腕から上を覗かせる。花は横向きになり、俺の動きをじっと観察している様に見えた。
「花、おやすみ」
花に顔を近付け優しいキスをすると、花は幸せそうに微笑みそれを受け入れた。
「……大好き」
「俺もだよ」
こんなに甘くていいのだろうか。甘過ぎて、ブドウの飴みたいな匂いが一瞬だけ鼻腔をくすぐった気がした。
「ん?」
すん、と鼻を鳴らして再度嗅いでみても、その匂いはしない。
「どうしたの?」
「ん……何でもない。花も早く寝ろよ」
「うん」
もう一度音を立ててキスをすると、俺は自分の布団に横になった。夢の中でも、匂いを感じることはある。だから、疲れ切った脳みそが、甘いという言葉を勘違いして俺にあの匂いを嗅がせたのだろう。きっとそうに違いない。
目を瞑ると、一瞬で睡魔に襲われる。こんなに疲れるなんておかしいな、そんなことを考えている間に、すぐさま意識は途絶えた。
◇
翌朝目を覚ますと、カーテン越しに見える日光は既に暑そうだ。枕元の目覚まし時計を見ると、もうすぐ八時半を回る頃だった。
のそのそと起き上がり、上段の様子を窺う。既に抜け殻になったそこは、乱雑にタオルケットが足元の方に丸まっていた。きちんとした花にしては珍しいこともあるものだ。トイレでも我慢してたのだろうか。
花のベッドを整えてやると、次いで自分のベッドも整えた。
欠伸をしつつ、コキコキと首を鳴らす。そこそこ寝た筈なのに、どうも疲れが取れていない。ここのところの熱帯夜の所為で、エアコンを点けずに寝ると、翌朝には汗疹が出来てしまう。しかも、大量に熱を発する代謝のいい高校生が二人も同じ部屋で寝た場合、室温の上昇は著しい。
更にベッドの上段はエアコンの風も届きにくく暑い為、花に気を遣ってエアコンの設定温度を低めにした。どうやらその所為で、だるくなってしまった様だった。
今日は花と、七年前にかくれんぼをした小山の中腹にある公園に行くことになる。かなり虫も多そうだから、暑そうだがジーンズを履くことにした。Tシャツの上に薄手のパーカーを羽織れば、ボコボコ刺されることもないだろう。
窓に近付くと、カラカラと開け外に身を乗り出す。腕に刺さる日光はすでに熱く、ジリジリと肌が痛んだ。目の前には雑草が生い茂り、裏山ではもう蝉が鳴き始めている。
もういい加減、蝉の鳴き声から太一を連想するのは止めたかったが、俺の脳みそには直通の回路が出来上がってしまっているのか、蝉の声と共に、太一と花と三人で過ごした最後の夏を思い浮かべてしまう。
瞼の裏に蘇るのは殆どが景色と空気で、木漏れ日から見える白く発光した様な太陽の光、直射日光に当たると低温やけどの様に痛む腕、息も出来ない程のむせ返るような湿気に、木陰に入った時の少しぞくりとする冷気が俺の脳内に瞬時に溢れ返るのだ。
聞こえてくるのは、蝉の大合唱の中に小さく響く、花のすすり泣く声と太一の怒る声。宗二、こいつは放っといて向こうで遊ぼうよ、なんて冷たいことを言うものだから、余計花が泣く。それを見て、太一はもっと苛つく。いつもその繰り返しだった。
「――起きてたんだ」
背後からかけられた声に、ビクッと反応して振り返る。外が明る過ぎた所為だろう。目がやられてしまい、部屋の中は暗く見えにくかったが、部屋のドアの前に立っているのは花だった。ガラス窓を閉じ、花の元へと急ぐ。
「うん、今さっき起きた。おはよう」
「うん、おはよう。――ねえ、いつ行く?」
花はとっくに準備も終わっているらしく、行く気満々の様だ。
「あ、急いで着替えて顔を洗うから、待ってて。花、ご飯は食べた?」
「ううん、まだ。誰も起きてなかったよ」
母さんも昨日はかなりぐったりしていた様子だったので、今日はあえて寝坊コースなのだろう。
「じゃあ、行きがけにコンビニに寄って食い物と飲み物を買っていくか」
「うん、いいんじゃない?」
にこ、と花は笑うと、後ろ手でパタンとドアを閉めた。薄い笑みを浮かべたまま俺のすぐ前までやって来たと思うと、俺の背中に腕を回し目を閉じた。
「おはようのキス、して」
「お……」
昨日からずっと積極的で、自分からばっかりだった俺はタジタジになっていた。
「ほら」
「わ、分かったよ」
顔を斜めにし、上向き加減の花の唇に触れる。すると、軽く開いた花の口から、昨日と同様舌がぬる、と出て来た。朝から飛ばし気味だとは思うが、来られたら乗ってしまいたくなるものだ。花の要求に応えるべく舌に吸い付くと、やはり身体が冷えているのか、花の口の中はひんやりとしていた。
ゆっくりと口を離し、花に向かって囁く。
「また冷えてる」
「じゃあ、あとで温めてよ」
艷然と笑う花に、俺の鼓動は早鐘を打つのだった。
「じゃあ、上に寝たらキスしてよ」
「おう……う、うん」
外でないと、花はこんなにも積極的になれるらしい。回数を増やしていくにつれ、花にくっついて離れなかった羞恥心も剥げていったのだろうか。
花が梯子を登り横になったところで、下段のベッドのへりに足を掛け、腕から上を覗かせる。花は横向きになり、俺の動きをじっと観察している様に見えた。
「花、おやすみ」
花に顔を近付け優しいキスをすると、花は幸せそうに微笑みそれを受け入れた。
「……大好き」
「俺もだよ」
こんなに甘くていいのだろうか。甘過ぎて、ブドウの飴みたいな匂いが一瞬だけ鼻腔をくすぐった気がした。
「ん?」
すん、と鼻を鳴らして再度嗅いでみても、その匂いはしない。
「どうしたの?」
「ん……何でもない。花も早く寝ろよ」
「うん」
もう一度音を立ててキスをすると、俺は自分の布団に横になった。夢の中でも、匂いを感じることはある。だから、疲れ切った脳みそが、甘いという言葉を勘違いして俺にあの匂いを嗅がせたのだろう。きっとそうに違いない。
目を瞑ると、一瞬で睡魔に襲われる。こんなに疲れるなんておかしいな、そんなことを考えている間に、すぐさま意識は途絶えた。
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翌朝目を覚ますと、カーテン越しに見える日光は既に暑そうだ。枕元の目覚まし時計を見ると、もうすぐ八時半を回る頃だった。
のそのそと起き上がり、上段の様子を窺う。既に抜け殻になったそこは、乱雑にタオルケットが足元の方に丸まっていた。きちんとした花にしては珍しいこともあるものだ。トイレでも我慢してたのだろうか。
花のベッドを整えてやると、次いで自分のベッドも整えた。
欠伸をしつつ、コキコキと首を鳴らす。そこそこ寝た筈なのに、どうも疲れが取れていない。ここのところの熱帯夜の所為で、エアコンを点けずに寝ると、翌朝には汗疹が出来てしまう。しかも、大量に熱を発する代謝のいい高校生が二人も同じ部屋で寝た場合、室温の上昇は著しい。
更にベッドの上段はエアコンの風も届きにくく暑い為、花に気を遣ってエアコンの設定温度を低めにした。どうやらその所為で、だるくなってしまった様だった。
今日は花と、七年前にかくれんぼをした小山の中腹にある公園に行くことになる。かなり虫も多そうだから、暑そうだがジーンズを履くことにした。Tシャツの上に薄手のパーカーを羽織れば、ボコボコ刺されることもないだろう。
窓に近付くと、カラカラと開け外に身を乗り出す。腕に刺さる日光はすでに熱く、ジリジリと肌が痛んだ。目の前には雑草が生い茂り、裏山ではもう蝉が鳴き始めている。
もういい加減、蝉の鳴き声から太一を連想するのは止めたかったが、俺の脳みそには直通の回路が出来上がってしまっているのか、蝉の声と共に、太一と花と三人で過ごした最後の夏を思い浮かべてしまう。
瞼の裏に蘇るのは殆どが景色と空気で、木漏れ日から見える白く発光した様な太陽の光、直射日光に当たると低温やけどの様に痛む腕、息も出来ない程のむせ返るような湿気に、木陰に入った時の少しぞくりとする冷気が俺の脳内に瞬時に溢れ返るのだ。
聞こえてくるのは、蝉の大合唱の中に小さく響く、花のすすり泣く声と太一の怒る声。宗二、こいつは放っといて向こうで遊ぼうよ、なんて冷たいことを言うものだから、余計花が泣く。それを見て、太一はもっと苛つく。いつもその繰り返しだった。
「――起きてたんだ」
背後からかけられた声に、ビクッと反応して振り返る。外が明る過ぎた所為だろう。目がやられてしまい、部屋の中は暗く見えにくかったが、部屋のドアの前に立っているのは花だった。ガラス窓を閉じ、花の元へと急ぐ。
「うん、今さっき起きた。おはよう」
「うん、おはよう。――ねえ、いつ行く?」
花はとっくに準備も終わっているらしく、行く気満々の様だ。
「あ、急いで着替えて顔を洗うから、待ってて。花、ご飯は食べた?」
「ううん、まだ。誰も起きてなかったよ」
母さんも昨日はかなりぐったりしていた様子だったので、今日はあえて寝坊コースなのだろう。
「じゃあ、行きがけにコンビニに寄って食い物と飲み物を買っていくか」
「うん、いいんじゃない?」
にこ、と花は笑うと、後ろ手でパタンとドアを閉めた。薄い笑みを浮かべたまま俺のすぐ前までやって来たと思うと、俺の背中に腕を回し目を閉じた。
「おはようのキス、して」
「お……」
昨日からずっと積極的で、自分からばっかりだった俺はタジタジになっていた。
「ほら」
「わ、分かったよ」
顔を斜めにし、上向き加減の花の唇に触れる。すると、軽く開いた花の口から、昨日と同様舌がぬる、と出て来た。朝から飛ばし気味だとは思うが、来られたら乗ってしまいたくなるものだ。花の要求に応えるべく舌に吸い付くと、やはり身体が冷えているのか、花の口の中はひんやりとしていた。
ゆっくりと口を離し、花に向かって囁く。
「また冷えてる」
「じゃあ、あとで温めてよ」
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