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其の四十七 かくれんぼの公園
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花と並び、照り返しの強いアスファルトの上を歩く。
くっきりとした境界線の影が、現在の日光の強さを表していた。たまには雨も降ってくれていいものだが、ここ暫くの間、山の上の方では雷雲が発生しても、下まで降りてくることはなかった。
カラカラに乾燥した畦道の土が、時折吹く熱風に舞い上がり、遠慮なく顔に打ち付けてくる。目に入った砂埃を手で擦って取ろうとしたが、なかなか取れなくて、痛かった。
あまりにフラフラと歩いていたのだろう、花が俺の手を握ると、引っ張り始めた。ガツガツくる女子は好みじゃないが、こういった積極性はいいと思う。とりあえず可愛いかった。
何度か目を擦っている内に、ようやく涙と共に砂が流れていった。
「取れた?」
繋いだ手の中は、汗でぬるぬるしている。花以外の奴とだったら相手がどんな絶世の美女だろうが即座に手を振り払っただろうが、花の汗すら愛おしいと思う俺だ。
ということで、軽く嘘をついた。
「んー? まだ残ってる感じがするかも」
「じゃあ公園まで案内してあげるよ、任せて!」
何だか今日の花は、随分と頼もしい。
「じゃあ頼んだ」
「うん、頼まれた!」
ぱっと花が咲く様に笑った花は、その言葉通り、俺の手をぐいぐいと引っ張り始めた。汗で手が滑ると、手を繋いだまま俺の腕を脇に挟んで肘を引き締め始める。当然のことながら、ソフトな感触がこれでもかと肌に触れ、幾度も擦れた。
ああ、これぞ正にアオハル――。
俺の幸福感は、山の中間にある公園に到着するまで続いたのだった。
◇
舗装されている道を来たとはいえ、ひたすら上り坂だ。花はさすがというべきか、ケロッとしている。体力の差が如実に現れた瞬間だった。
この公園は、訪れた者が何故こんな場所に作られたんだろうと思わず訝しむ程、突如山道の途中に忽然と現れる。
広さだけは十分にあり、やろうと思えばサッカー位は出来そうだ。ただし、育ちに育った木がそこかしこからにょきにょきと生えている為、どちらかと言えばドリブル練習に向いていそうだった。
一応子供用の遊具もあるが、まともなのはブランコと鉄棒だけで、あとはこれ産廃なんじゃないかと誤解されそうな配置で、ホイールのないタイヤが数個、ただ地面に置かれている。
七年前の記憶はかなり朧げだったが、これはどう考えても比較的最近設置されのだろうと思われるものがあった。テーブル付きのベンチと、山の森との境界線に配置された木製の柵だ。
恐らくは、太一の失踪を機に建てられたのだろう。『この柵を乗り越えてはいけません』と書かれた立て札には、熊の影の絵が描いてあった。
なんとも言えない気分になった。ただの注意書きとして見る人間には、この辺も熊が出るのか、という程度にしか思わないのだろう。だが、実際に家族を熊に襲われた人間にとって、この立て札の内容は余りに直接的で無遠慮だった。
暫し呆然と立ち尽くしていたが、ふと見ると横に花がいない。慌てて辺りを見回すと、ベンチに座って足をプラプラさせているじゃないか。
「お腹空いたー!」
まるで子供の様なその言い方は、花は俺にはこんな態度も見せるのかと新鮮に思ったと同時に、モヤに閉ざされた暗い思考の中に迷い込みそうだった俺を、一瞬にして救い出した。
「――うん、食べようか」
「待ってました!」
「ぷっ! 何だよそれ」
「だってお腹空いてたんだもーん」
はは、と満点の笑顔になった花を見て、俺の顔にも笑みが浮かんだ。この公園にひとりで来なくて、本当によかった。心から思った。
リュックに入れていたコンビニの袋を取り出し、花と向かい合って遅めの朝食を開始すると、花は実に嬉しそうにイロモノのおにぎりに手を伸ばしたのだった。
くっきりとした境界線の影が、現在の日光の強さを表していた。たまには雨も降ってくれていいものだが、ここ暫くの間、山の上の方では雷雲が発生しても、下まで降りてくることはなかった。
カラカラに乾燥した畦道の土が、時折吹く熱風に舞い上がり、遠慮なく顔に打ち付けてくる。目に入った砂埃を手で擦って取ろうとしたが、なかなか取れなくて、痛かった。
あまりにフラフラと歩いていたのだろう、花が俺の手を握ると、引っ張り始めた。ガツガツくる女子は好みじゃないが、こういった積極性はいいと思う。とりあえず可愛いかった。
何度か目を擦っている内に、ようやく涙と共に砂が流れていった。
「取れた?」
繋いだ手の中は、汗でぬるぬるしている。花以外の奴とだったら相手がどんな絶世の美女だろうが即座に手を振り払っただろうが、花の汗すら愛おしいと思う俺だ。
ということで、軽く嘘をついた。
「んー? まだ残ってる感じがするかも」
「じゃあ公園まで案内してあげるよ、任せて!」
何だか今日の花は、随分と頼もしい。
「じゃあ頼んだ」
「うん、頼まれた!」
ぱっと花が咲く様に笑った花は、その言葉通り、俺の手をぐいぐいと引っ張り始めた。汗で手が滑ると、手を繋いだまま俺の腕を脇に挟んで肘を引き締め始める。当然のことながら、ソフトな感触がこれでもかと肌に触れ、幾度も擦れた。
ああ、これぞ正にアオハル――。
俺の幸福感は、山の中間にある公園に到着するまで続いたのだった。
◇
舗装されている道を来たとはいえ、ひたすら上り坂だ。花はさすがというべきか、ケロッとしている。体力の差が如実に現れた瞬間だった。
この公園は、訪れた者が何故こんな場所に作られたんだろうと思わず訝しむ程、突如山道の途中に忽然と現れる。
広さだけは十分にあり、やろうと思えばサッカー位は出来そうだ。ただし、育ちに育った木がそこかしこからにょきにょきと生えている為、どちらかと言えばドリブル練習に向いていそうだった。
一応子供用の遊具もあるが、まともなのはブランコと鉄棒だけで、あとはこれ産廃なんじゃないかと誤解されそうな配置で、ホイールのないタイヤが数個、ただ地面に置かれている。
七年前の記憶はかなり朧げだったが、これはどう考えても比較的最近設置されのだろうと思われるものがあった。テーブル付きのベンチと、山の森との境界線に配置された木製の柵だ。
恐らくは、太一の失踪を機に建てられたのだろう。『この柵を乗り越えてはいけません』と書かれた立て札には、熊の影の絵が描いてあった。
なんとも言えない気分になった。ただの注意書きとして見る人間には、この辺も熊が出るのか、という程度にしか思わないのだろう。だが、実際に家族を熊に襲われた人間にとって、この立て札の内容は余りに直接的で無遠慮だった。
暫し呆然と立ち尽くしていたが、ふと見ると横に花がいない。慌てて辺りを見回すと、ベンチに座って足をプラプラさせているじゃないか。
「お腹空いたー!」
まるで子供の様なその言い方は、花は俺にはこんな態度も見せるのかと新鮮に思ったと同時に、モヤに閉ざされた暗い思考の中に迷い込みそうだった俺を、一瞬にして救い出した。
「――うん、食べようか」
「待ってました!」
「ぷっ! 何だよそれ」
「だってお腹空いてたんだもーん」
はは、と満点の笑顔になった花を見て、俺の顔にも笑みが浮かんだ。この公園にひとりで来なくて、本当によかった。心から思った。
リュックに入れていたコンビニの袋を取り出し、花と向かい合って遅めの朝食を開始すると、花は実に嬉しそうにイロモノのおにぎりに手を伸ばしたのだった。
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