神隠しの子

ミドリ

文字の大きさ
47 / 64

其の四十七 かくれんぼの公園

しおりを挟む
 花と並び、照り返しの強いアスファルトの上を歩く。

 くっきりとした境界線の影が、現在の日光の強さを表していた。たまには雨も降ってくれていいものだが、ここ暫くの間、山の上の方では雷雲が発生しても、下まで降りてくることはなかった。

 カラカラに乾燥した畦道の土が、時折吹く熱風に舞い上がり、遠慮なく顔に打ち付けてくる。目に入った砂埃を手で擦って取ろうとしたが、なかなか取れなくて、痛かった。

 あまりにフラフラと歩いていたのだろう、花が俺の手を握ると、引っ張り始めた。ガツガツくる女子は好みじゃないが、こういった積極性はいいと思う。とりあえず可愛いかった。

 何度か目を擦っている内に、ようやく涙と共に砂が流れていった。

「取れた?」

 繋いだ手の中は、汗でぬるぬるしている。花以外の奴とだったら相手がどんな絶世の美女だろうが即座に手を振り払っただろうが、花の汗すら愛おしいと思う俺だ。

 ということで、軽く嘘をついた。

「んー? まだ残ってる感じがするかも」
「じゃあ公園まで案内してあげるよ、任せて!」

 何だか今日の花は、随分と頼もしい。

「じゃあ頼んだ」
「うん、頼まれた!」

 ぱっと花が咲く様に笑った花は、その言葉通り、俺の手をぐいぐいと引っ張り始めた。汗で手が滑ると、手を繋いだまま俺の腕を脇に挟んで肘を引き締め始める。当然のことながら、ソフトな感触がこれでもかと肌に触れ、幾度も擦れた。

 ああ、これぞ正にアオハル――。

 俺の幸福感は、山の中間にある公園に到着するまで続いたのだった。



 舗装されている道を来たとはいえ、ひたすら上り坂だ。花はさすがというべきか、ケロッとしている。体力の差が如実に現れた瞬間だった。

 この公園は、訪れた者が何故こんな場所に作られたんだろうと思わず訝しむ程、突如山道の途中に忽然と現れる。

 広さだけは十分にあり、やろうと思えばサッカー位は出来そうだ。ただし、育ちに育った木がそこかしこからにょきにょきと生えている為、どちらかと言えばドリブル練習に向いていそうだった。

 一応子供用の遊具もあるが、まともなのはブランコと鉄棒だけで、あとはこれ産廃なんじゃないかと誤解されそうな配置で、ホイールのないタイヤが数個、ただ地面に置かれている。

 七年前の記憶はかなり朧げだったが、これはどう考えても比較的最近設置されのだろうと思われるものがあった。テーブル付きのベンチと、山の森との境界線に配置された木製の柵だ。

 恐らくは、太一の失踪を機に建てられたのだろう。『この柵を乗り越えてはいけません』と書かれた立て札には、熊の影の絵が描いてあった。

 なんとも言えない気分になった。ただの注意書きとして見る人間には、この辺も熊が出るのか、という程度にしか思わないのだろう。だが、実際に家族を熊に襲われた人間にとって、この立て札の内容は余りに直接的で無遠慮だった。

 暫し呆然と立ち尽くしていたが、ふと見ると横に花がいない。慌てて辺りを見回すと、ベンチに座って足をプラプラさせているじゃないか。

「お腹空いたー!」

 まるで子供の様なその言い方は、花は俺にはこんな態度も見せるのかと新鮮に思ったと同時に、モヤに閉ざされた暗い思考の中に迷い込みそうだった俺を、一瞬にして救い出した。

「――うん、食べようか」
「待ってました!」
「ぷっ! 何だよそれ」
「だってお腹空いてたんだもーん」

 はは、と満点の笑顔になった花を見て、俺の顔にも笑みが浮かんだ。この公園にひとりで来なくて、本当によかった。心から思った。

 リュックに入れていたコンビニの袋を取り出し、花と向かい合って遅めの朝食を開始すると、花は実に嬉しそうにイロモノのおにぎりに手を伸ばしたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...