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其の四十八 誘惑
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あれだけ運動するのに少食な花は、案の定二個目のおにぎりで音を上げた。
「始めにからあげから食うからだよ」
「だって、食べたかったんだもん」
半分齧られた半透明の煮玉子のきれいな黄身を、花は目を細めつつ見つめ、首を振った。
「もっと固い黄身かと思ってた」
「半熟って書いてあるだろ」
「そうだけどさ」
腹が膨れたのかと思っていたら、どうやら味の問題だったらしい。普段、好き嫌いなどない、花の意外な一面を発見した。まあ、確かになかなか家庭で煮玉子など食す機会はない。ラーメン屋に行けばあるだろうが、花は基本自炊だ。花の性格ではひとりでラーメン屋に入るのも難しいだろうから、きっと今まで煮玉子など食べたことがなかったのだろう。
「ねえ、そっちのひと口頂戴」
俺が齧っていたカツサンドを物欲しげに見るので、何だこの小動物滅茶苦茶可愛いんだけど、と心の中で悶えた。表情は一切変えず、花の口の前に残り僅かのカツサンドを掴んだ手を伸ばす。花は大きな口を開けると、ひと口で全てを口に含んだ。俺の指と一緒に。
「こら、花」
「んふふふ」
どうやら、これはわざとらしい。俺の親指を口に含んだまま、口の中で咀嚼する。その唇の形が何だか卑猥に感じ、思わずどきりとした。この場所でこういうことをすると、ヤキモチを焼いた太一の幽霊が出てきそうだと手を引こうとした途端。
花の手が、俺の手首を掴んで引き戻した。ごくりと嚥下する音がしたかと思うと、そのまま舌で俺の指を舐め始める。
思わず背中がぞわりとした。怖い意味ではなく、あちらの意味で。
「は、花?」
花は、俺の指を口に含んだまま舐め続けている。上目遣いの表情に、ついこの場で考えては不謹慎なことを考えてしまった。どうしたらいい。それに一体、花はどうしたんだろう。昨日から、タガが外れた様に触れてくるのには、何か理由があるのだろうか。
「ほ、ほら、離して。煮玉子、食ってやるから」
俺の言葉に、花はようやくゆっくりと口を開いた。ちろりと覗く舌先があまりにも扇情的で、今この場で襲いかかったらどうなるんだろう、と馬鹿なことを考える。いくら人っ子ひとりいないからといって、この場所は駄目なことは分かっているというのに。いや、駄目だと分かっているからこそ、そそられるのか。
花の手が、煮玉子を掴んだまま俺の前に差し出される。目は薄く微笑んでいるが、明らかに何かを期待している様に見えた。……まさか、同じことをやれというのか。
「え、ちょっと待って花」
「あれ、遠い?」
花は笑顔のままそう言うと、おにぎりを持ったまま俺の隣まで来た。かと思ったら、ズルズルと俺の上に跨ってしまったではないか。
先程の想像の所為で少し固くなっていたそこに、花が気付いてしまった。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
言われるがまま、口を開ける。すると、ひと口には大きいおにぎりが口の中に詰め込まれた。これはちょっと多過ぎる。口から米がぽろりと溢れると、花がそれを指で受け止め、実に楽しそうに俺が呑み込むのを待った。これはもう、やれということだろう。
何とか口の中の物を呑み込むと、花が米が付いた指を俺の口の前まで持ってくる。
「あーんして」
いつの間に、花と俺の立場は逆転したのだろうか。俺は言われるがままに口を開けた。するりと花の指が口の中に入ってくると、花は俺の固くなった部分にもう片方の手を添わせる。
「は、花!?」
「ほら、もぐもぐ」
有無を言わせない圧を醸し出され、俺は素直に従った。口に含んだ花の指は華奢で、滑らかだ。俺のものとは、全然違う。すると、花が指を引いた。口の中から急になくなると、こっ恥ずかしかったのに淋しくなるのだから不思議なものだ。
「……ねえ?」
花が、明らかに誘う様な目で俺を見つめた。嘘だろう。いくらなんでも、ここじゃ無理だ。
「た、太一に悪いから、ここじゃ無理だ」
「大丈夫だよ。怒らないから安心して」
「な、なんでそんなこと……」
花が、俺のジーンズのボタンを取ってしまった。どうしたんだろう。いくらなんでも、積極的過ぎる。これじゃまるで、別人の様だ。俺の背中を、汗が伝う。
「あの日何があったか、してくれたら話してあげる」
「あの日……」
「だって、知りたいんでしょ?」
花が煽りながら、俺に顔を近付けてきた。一瞬、赤色が視界に映った気がしたが、どこにも赤色なんてない。
「……どうする?」
花は、俺の顔のすぐ近くで待った。
あの日のことを、知りたいんだ――。
自分にそう言い訳をし、俺は花をベンチの上に押し倒した。
「始めにからあげから食うからだよ」
「だって、食べたかったんだもん」
半分齧られた半透明の煮玉子のきれいな黄身を、花は目を細めつつ見つめ、首を振った。
「もっと固い黄身かと思ってた」
「半熟って書いてあるだろ」
「そうだけどさ」
腹が膨れたのかと思っていたら、どうやら味の問題だったらしい。普段、好き嫌いなどない、花の意外な一面を発見した。まあ、確かになかなか家庭で煮玉子など食す機会はない。ラーメン屋に行けばあるだろうが、花は基本自炊だ。花の性格ではひとりでラーメン屋に入るのも難しいだろうから、きっと今まで煮玉子など食べたことがなかったのだろう。
「ねえ、そっちのひと口頂戴」
俺が齧っていたカツサンドを物欲しげに見るので、何だこの小動物滅茶苦茶可愛いんだけど、と心の中で悶えた。表情は一切変えず、花の口の前に残り僅かのカツサンドを掴んだ手を伸ばす。花は大きな口を開けると、ひと口で全てを口に含んだ。俺の指と一緒に。
「こら、花」
「んふふふ」
どうやら、これはわざとらしい。俺の親指を口に含んだまま、口の中で咀嚼する。その唇の形が何だか卑猥に感じ、思わずどきりとした。この場所でこういうことをすると、ヤキモチを焼いた太一の幽霊が出てきそうだと手を引こうとした途端。
花の手が、俺の手首を掴んで引き戻した。ごくりと嚥下する音がしたかと思うと、そのまま舌で俺の指を舐め始める。
思わず背中がぞわりとした。怖い意味ではなく、あちらの意味で。
「は、花?」
花は、俺の指を口に含んだまま舐め続けている。上目遣いの表情に、ついこの場で考えては不謹慎なことを考えてしまった。どうしたらいい。それに一体、花はどうしたんだろう。昨日から、タガが外れた様に触れてくるのには、何か理由があるのだろうか。
「ほ、ほら、離して。煮玉子、食ってやるから」
俺の言葉に、花はようやくゆっくりと口を開いた。ちろりと覗く舌先があまりにも扇情的で、今この場で襲いかかったらどうなるんだろう、と馬鹿なことを考える。いくら人っ子ひとりいないからといって、この場所は駄目なことは分かっているというのに。いや、駄目だと分かっているからこそ、そそられるのか。
花の手が、煮玉子を掴んだまま俺の前に差し出される。目は薄く微笑んでいるが、明らかに何かを期待している様に見えた。……まさか、同じことをやれというのか。
「え、ちょっと待って花」
「あれ、遠い?」
花は笑顔のままそう言うと、おにぎりを持ったまま俺の隣まで来た。かと思ったら、ズルズルと俺の上に跨ってしまったではないか。
先程の想像の所為で少し固くなっていたそこに、花が気付いてしまった。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
言われるがまま、口を開ける。すると、ひと口には大きいおにぎりが口の中に詰め込まれた。これはちょっと多過ぎる。口から米がぽろりと溢れると、花がそれを指で受け止め、実に楽しそうに俺が呑み込むのを待った。これはもう、やれということだろう。
何とか口の中の物を呑み込むと、花が米が付いた指を俺の口の前まで持ってくる。
「あーんして」
いつの間に、花と俺の立場は逆転したのだろうか。俺は言われるがままに口を開けた。するりと花の指が口の中に入ってくると、花は俺の固くなった部分にもう片方の手を添わせる。
「は、花!?」
「ほら、もぐもぐ」
有無を言わせない圧を醸し出され、俺は素直に従った。口に含んだ花の指は華奢で、滑らかだ。俺のものとは、全然違う。すると、花が指を引いた。口の中から急になくなると、こっ恥ずかしかったのに淋しくなるのだから不思議なものだ。
「……ねえ?」
花が、明らかに誘う様な目で俺を見つめた。嘘だろう。いくらなんでも、ここじゃ無理だ。
「た、太一に悪いから、ここじゃ無理だ」
「大丈夫だよ。怒らないから安心して」
「な、なんでそんなこと……」
花が、俺のジーンズのボタンを取ってしまった。どうしたんだろう。いくらなんでも、積極的過ぎる。これじゃまるで、別人の様だ。俺の背中を、汗が伝う。
「あの日何があったか、してくれたら話してあげる」
「あの日……」
「だって、知りたいんでしょ?」
花が煽りながら、俺に顔を近付けてきた。一瞬、赤色が視界に映った気がしたが、どこにも赤色なんてない。
「……どうする?」
花は、俺の顔のすぐ近くで待った。
あの日のことを、知りたいんだ――。
自分にそう言い訳をし、俺は花をベンチの上に押し倒した。
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