魔法使いの召使い

ミドリ

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バラ園未解決事件・解決編

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 偉大なる青の魔法使いレナードの押しかけ弟子クルトは、このところ原因不明の体調不良に悩まされていた。

 レナードに師事して半年。魔力の発現当初は、制御してくれる『月の欠片』と呼ばれる魔石がないと何ひとつ満足にできなかった。

 でも、少しずつ魔力も制御することが可能になり、これなら近い内に害しかない大酒飲みの父を排除出来るのではと思える様になってきたところだった。

 そんな中、時折朝起きると身体がぐったりと重く、まるで徹夜で働いた様な日が増えた。

 これはおかしい。不安に思い師匠に調べてもらっても、「寝不足だ」と美神の如く麗しい師匠は言うだけ。その日はクルトが何を言ってももう一切聞いてもらえず、有無を言わさず休まされた。

 だが、師匠の言うことは本当らしく、寝台に横たわった瞬間に眠りが訪れる。この城に仕える召使いのリーナが昼食時に起こしに来るまで死んだ様に寝て、午後はようやく動ける様になった。

「成長期だものね。沢山食べてね」

 そう言ってクルトにお代わりを渡してくれるリーナは、今日も優しい。クルトの向かいで美味いとも不味いともひと言も発さずしかめ面で食べる師匠を見て、何でこんな偏屈師匠にもニコニコ出来るのかと感心した。

 以前、ここの仕事はきつくないのかとリーナに尋ねたことがある。その時リーナは言った。「レナード様は、ああ見えてとても優しいのよ」と。クルトには、何故リーナが師匠をそこまで褒めるのか分からなかった。

 確かに、言うことは厳しいが理不尽なことは言われない。実家にいる時は満足な食事もちゃんとした寝床もなかったクルトに、にこりともしないまま全てを当然の様に与えてくれたのも師匠だ。

 分かってはいる。だけどクルトは面白くない。

 何でも望むものを与えられる師匠。何でも持っている師匠。何でも手に入れられる師匠。

 その反面、自分はどうだ。ろくな親もいない。衣食住は全て師匠頼み。そしてリーナは自分の方を向いてくれない。彼女の同じくらいだった目線がいつの間にか上目遣いになっても、いつまで経っても年下扱いだ。

 面白くないなと思っていると、師匠が低い声で静かに告げた。

「クルト、調べ物があるから午後の修行はなしだ」
「あ、はい!」

 時折こういうことはあるので、クルトは気にしなかった。

「後でおやつを届けてあげるから、休んでなさいな」

 心配そうな姉貴ヅラをしたリーナが言う。面白くない。だけどリーナに心配されるのは好きだから、笑顔が出る。

「うん! ありがとうリーナ!」

 クルトは残りの料理も全て平らげると、リーナの手伝いをすべく皿を持って洗い場へと向かった。



 以前、突然枯れてしまったバラ園の青いバラ。原因は結局分からなかった。

 だけど枯れたと思っていたバラは根までは枯れておらず、リーナとクルトが献身的に面倒を見たお陰で、再び青い蕾を付けるに至った。

「明日には咲くかしらね?」

 リーナは楽しそうだ。

「今度こそ咲くといいね」

 リーナが笑顔になるなら、本当はその色がちょっと気に食わなくてもクルトは笑って応援した。

 そろそろ晩御飯の支度をするというリーナの為、用具の片付けを買って出る。今日はどんな料理だろう。彼女の作る料理はどれも美味しくて止まらないのだ。

 そんなことを考えながら、自室に戻った。いつの間にか手が土まみれになっている。洗わないとリーナに怒られちゃうなと笑いながら指の腹を見ると、指紋の間に青が広がっていた。

「何だこれ?」

 いつ付いたのかと思いつつ、手を洗い服を着替えリーナの元へ行くと、籠に詰められた食事が用意されていた。

「レナード様、今日は研究室に篭るからいらないって仰ったんだけど」
「じゃあ俺が届けてくるよ!」

 返事を待たずに籠を引っ掴み、師匠の元へ向かう。

 前まではよかった。見ていたのはリーナだけだったから。

 だけど、最近の師匠の目も変わった。彼女を見る目つきが、明らかに優しくなった。そして――熱を帯びた。

 同居だから、こんなことをしても意味がないと分かっている。だけど、二人にさせる機会はなるべく奪いたかった。

 師匠がいる研究室前に到着する。大騒ぎして開けると怒るので、クルトは静かに扉を開けた。

 本来何もない筈の空間に映し出されていたものがある。

(え……?)

 クルトの姿だった。炎の魔法を使い、バケツの水を沸騰させては辺りにばら撒いている。

(あんなこと、した覚えはないぞ!?)

 月が見える。一体何に熱湯を撒いているのか。目を凝らす。すると、青い色が飛び込んできた。

 映像の中のクルトは、楽しそうに笑っている。

(何だよこれ……!)

 師匠が自分を嵌めようとしているのか。だけどその割には、彼は辛そうに頭を抱えている。

 ふと、先程指に付着していた青い色を思い出した。

 慌てて籠を床に置き、バラ園まで走る。嘘だ、嘘だ、何かの間違いだ――!

 心の中で否定しながら、先程まで青い蕾が咲いていた場所へ辿り着くと。

 青い蕾は全て地面に落とされ、踏み潰されていた。
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