我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第九章 特訓開始

57.おっさん、龍に乗る

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 前回の時は首は光を避けていた。だが今は亮太が首を操縦をしているので、光に突っ込ませることが出来るのでは? そう思ってのコウへの指示だった。

 固い鱗でも元は煙の様な物だ。もし光を当てることで少しでも柔らかくなるなら、その方が確実に早くやっつけられる。

 亮太が八岐大蛇の首の上で待機していると、結界の外から柔らかな光が差し込んできた。結界は半球だからだろう、光が屈折して入ってきており、やや下を向いている。

 亮太は角を前の方にぐっと押すと首は抵抗して反ろうとするが、亮太に体重をかけられ無理矢理光がある方向へと移動させられつつあった。

「亮太ー上手なのー」

 一回り明らかに大きくなっている蛟龍の姿のみずちが手放しに亮太を褒める。ここまで開けっ広げに好意を持たれると照れくさいを通り越して只々ただただ幸せに感じた。

 やはり誰かに無条件に好かれるというのはいいものだ。母さんが亡くなって以来、忘れていた感覚だった。

 首の鼻先が光の粒子に触れると、首が全身を小刻みに震わせ始めた。やはりこれは効くのだ。

 亮太は高さを確認した。そこそこ高く、亮太二人分以上の高さがある。落ちても死にはしなそうだが、骨の一本程度は折れそうな程度には高い。

 万が一光に当たって乗っていられる程の固さがなくなっても拙い。亮太は嫌がる首を操縦すると、もう少し下の方にある光りの筋へと移動した。光が当たる先から、ぷすぷすと煙がそれこそ蒸発しているかの様に消えていっていた。

 首の全身が、といっても頭と消えかけた首の一部だけだが、光の中にすっぽりと入った。途端、首が暴れだす。グオオオオオ! と耳をつんざく様な叫び声が亮太を襲い、亮太は思わず目を閉じた。なんて音量だ。足からも振動がビリビリと伝わってくる。

 声が鳴り響き続ける。亮太は薄っすらと目を開けると光の中から出ない様方向を調整していくが、今度ばかりは抵抗が半端ない。首がガクガクと頭を振り始め、片手で角を掴んでいる亮太は前回に引き続きまた足を滑べさせそうになった。

「うおおっあっぶねえ!」

 咄嗟に草薙剣を脳天にぶっ刺すと、先程までカチカチだった鱗は薄れて煙の様になっておりずぶずぶと剣先が中に沈んでいった。やった、やはり効果抜群だった。

「亮太! 頑張って下さい!」

 蓮が珍しく応援してきた。ちらっと見ると、顔に余裕がない。もう早くアキラの元に駆け寄りたくて仕方ないのだろう。こういう蓮の態度は非常に珍しく、それだけにアキラの容態が気になった。

「急ぐ!」

 亮太を振り落とそうとする首の角と脳天に突き刺さる草薙剣をしっかりと握り、目を凝らした。光の中、段々と頭部が透け初めている。核の様な特に黒い部分が中心に見えた。恐らくこれだ。これを壊せばこいつも消える。

 だが問題は地上との距離だ。もう亮太二人分はないが、まだそこそこ距離がある。

 亮太は決断した。落ちて骨を折っては次に影響する。それだけは避けなければならなかった。

「動けええええ!!」

 亮太は暴れる首の角をぐっと前方に力任せに押す。光から外れるが仕方ない。亮太一人分位の高さなら、下が石畳でもまあ大丈夫だろう。

 亮太は目で距離を測る。あと少し。身体中に力を入れて振り落とされない様に。

「ここだ!」

 亮太は角から左手を離すと両手で柄を握り締め、一気に草薙剣を首の脳天に押し込んだ。ズズズ、と嫌な感覚が手に伝わってきた。頭の中の核に、もう届く。亮太は全体重をかけた。

「入れええええ!!」

 すると、剣先が核に届いた。やった! 亮太が思わず笑みを浮かべると、薄い黒煙となってきた首が急にくるんと前方に回転をし、草薙剣がポンと抜け亮太は剣と共に結界上空へと投げ出された!

 身体が宙で一回転し、頭から地面に落ちていく。拙い拙い拙いこの高さは死ぬ! 思わず「うわああああ!」と叫び声が出、目を瞑った。まだ死にたくねえ!

「亮太!」
「亮太――!!」

 ボワン! と身体が跳ね、また宙に投げ出された。あれ? 死んでない。

 亮太が目を開けると、みずちの翼が真下に見えた。みずちの翼に助けられたのだ。亮太は咄嗟に草薙剣を自分の身体に密着させ身体を丸めた。もう一度、先程よりも軽くみずちの翼の上に落ちた。ポワンポワンと跳ね、揺れが収まるとふう、と大きく息を吐く。

「亮太大丈夫?」
「コウのお陰で怪我一つないよ」
「わーい」

 みずちが翼を傾け亮太を地面に降ろしてくれた。亮太がよっこいしょと立ち上がると、蓮が怒った顔で駆け寄ってきた。

「亮太! なんて無茶をするんですか!」

 肩を両手でがっと掴まれた。イケメンの怒り顔は本気で怖い。ああやっぱり怒られた。亮太は思わず頭を掻いて誤魔化し笑いをする。心臓はまだバクバクいっているが、それが蓮にばれたら絶対更に怒られる気がした。

「わりい、ちょっと失敗した。まさかあそこであんな回転されるとは思わなくて、さすがに死んだかと」
「自重して下さい!」
「悪いって、そう怒るな……よ?」

 蓮のサラサラの栗色の頭が亮太の肩の上に乗った。亮太の肩を掴む手には力が籠もって、そこそこ痛い。禰宜姿の白い背中が、小さく震えていた。

 亮太の眉が情けなく垂れる。このくそ真面目で冗談の通じない家事を完璧にこなす蓮を、亮太が泣かせてしまったのだ。

 こんなこと、蓮に知られたらそれこそ頭ごなしに怒られるだろう。

 亮太は嬉しかったのだ。亮太が危険な目に遭って、この鉄面皮の意地っ張りな奴に泣く程心配してもらえたことが、心から。喉が詰まる。ああ、また涙腺が崩壊寸前になってやがる。亮太は唇をきつく噛み締め涙が溢れない様精一杯努力した。

 亮太は蓮の頭をよしよしと撫で、犬の姿の時にしている様に顎の下に抱き寄せて撫で続けた。

「次から、気を付ける」
「……絶対ですよ」

 恨みがましい声色で蓮が囁いた。蓮の髪の毛は、狗神の毛と触り心地が似ていた。こしがあってサラサラだ。

「亮太ー草薙剣頂戴なのー」
「あ、そうだった」

 まだ右手に持ったままだった。亮太はもう一度蓮の頭をぽんぽんと軽く撫でると、口を開けて待つみずちの元に向かった。肩がほんのり濡れていた。亮太は黙ったままみずちの口の中に刃先を入れ込む。少し光の中に沈んだところで手を離すと、剣は自然にすうっと中に吸い込まれていき、やがて見えなくなった。相変わらず不思議な現象だが、恐らくこればかりはいくら説明されても亮太には一生理解出来ないに違いない。

「僕亮太の役に立った?」
「おお、物凄く役に立ったぞ。お前がいなかったら俺は死んでたかもなー」
「わーい僕やったねー」
「ははは、偉い偉い」

 亮太の顔と同じ位の大きさの頭になった龍の姿のみずちの頬をそっと撫でると、温かくてすべすべだった。亮太の目の前でみずちが水色の光を放ちながら元の小さな白蛇へと戻っていく。

「僕も鶏肉食べるのー」
「食べる時はこっそりとだぞ」
「はーい」

 焼き鳥屋に蛇を連れ込んでいるのがばれたら、間違いなく出禁になる。亮太はひょいとみずちを拾い上げると取り急ぎ亮太の長袖の胸ポケットに入れた。

 みずちが納まったのを見て、蓮が結界を解いた。小さく亮太に頷いてみせると、社の軒下に避難しているコウとアキラの元に走って行った。コウはもう八咫鏡をしまっている様で光は見えなく、暗いのでよく見えない。亮太も駆け足で近寄ると、賽銭箱の横に着替え終わりチー鱈を大事そうに食べているアキラの姿が見えた。ちゃんと立っている。

「アキラ、大丈夫か?」

 アキラが無言で指をグッと立てた。いつものアキラだった。隣で荷物を抱えるコウが亮太に笑いかけた。

「チー鱈は今二袋目だ」
「チー鱈様様だな」

 アキラは頷きながら黙々と次のチー鱈を口に含んだ。亮太はほっとした表情の蓮を見る。

「レン、ここで待ってるから裏でさっと着替えてこい。そのまま焼き鳥屋に行くぞ」
「はい、すぐに」

 亮太の言葉を聞いて、アキラがさっと蓮に背を向けた。するとコウもアキラに倣って境内の方を向く。そんなに遠慮しなくても、と思ったが、そういえば禰宜の格好の時は下帯だ。それを履き替えるということはつまり真っ裸になるということだ。さすがに亮太もそれは見たくはない。

 二人に倣って境内の方を向いた。

「コウ」
「ん?」

 コウの隣に進み、ポケットからみずちを取り出しコウに渡した。ホッカイロ入りポーチの方がみずちにはいいだろう。

「コウが俺を助けてくれた」
「よく見えなかったんだが、何があったんだ?」

 結界の所為で外からは亮太が空中に放り出されたのは分からなかったらしい。まあ、コウなら怒らないかな? そう思って亮太はありのままを伝えることにした。

「実は宙に投げ出されて落ちたところでコウが翼で受け止めてくれてさ」
「――は?」

 コウの端正な顔が一気に怒りに染まった。
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