我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

文字の大きさ
60 / 100
第十章 大喧嘩

60.いやだからその起こし方もやめてくれってば

しおりを挟む
 この年になると、そこまで長時間は寝続けられない。


 久々に普通の夜の時間に寝た亮太が目を覚ますと、部屋の中はまだ暗かった。カーテンの隙間からは朝日が薄っすらと差し込んでいる。

 亮太の胸の前にはコウが気持ちよさそうに寝息を立てていた。まつ毛が長く、少し開いた口は子供みたいで何だか可愛いなあとつい寝顔を見続けていると、コウが薄っすらと目を開けた。

「コウ、具合はどうだ?」

 昨夜はベロベロだった。もし二日酔いでもなっていたら、今日は絵を描くことが出来なくなる。

「水でも飲むか?」

 我ながら過保護だと思うが、でも絵は描きたい。すると。

「……まだ寝る」

 コウはそう言うと亮太の腕に頭を乗せて目を瞑った。すー、と寝息が聞こえてくる。寝ちまった。亮太の腕枕で。

 腕枕自体はしょっちゅう狗神にしているので違和感はないが、何というかその。


 亮太はジタバタしたい要求を必死で抑え込むのだった。



 コウは二日酔いにはならなかった。

 動けなくなって結局二度寝してしまった亮太の顎の下を、腕枕されたままでくすぐって起こすという「お前は新婚さんか」と言いたくなる起こし方で亮太を起こしてきた。

 ゾゾッとしながら半身を起こした亮太がコウに抗議する。

「だからその、コウ、そういう起こし方はな」
「この方がすぐ起きるんだ」

 居候が常に居るのでなかなかあちらの処理が出来ていない状況でゾクッとくる起こし方は是非とも止めて欲しかったが、同じ部屋にアキラが居るのにそういう直接的な表現ではコウに伝えにくい。同じ男なら分かってくれるかなとも思っていたが、どうもコウはそういうところは鈍いのか、分かってくれないのだ。

 亮太は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。全く。

「シャワー浴びてくる」
「分かった」

 亮太は服を持って風呂場に直行することにした。シャワーの水がお湯になるのを待たずに頭から被った。危ねえ危ねえ。

 後で店でモデルになってもらう時にならアキラがいないので、少し注意しておこう。女子中学生にあまり見られたくないものというのはおっさんにだってあるのだ。それを見られて軽蔑されたくはない。

 やはり同居というのは色々と難しいものなのだな、と悩む亮太であった。

 さくっとシャワーを終えてタオルを首に掛けつつ頭を拭いていると、アキラとコウが小声で何か話していた。あまりアキラが誰かと近くに寄って話すのを見たことがないので、新鮮だった。

 亮太が近付くと、明らかに分かりやすく会話を終了した。こうも露骨にされるといい気分はしないが、アキラもコウも神の現身だ。二人の間でしか交わせない会話というのもあるのかもしれなかった。

 亮太は急にタバコを吸いたくなり、勾玉を掛けていなかったことに気付いて台所に取りに戻って首に掛けた。

 急に襲われた欲求に、亮太は愕然としていた。まだ、全然駄目だった。苛々するとやはり吸いたくなる。

 そして不意に疑問を覚えた。


 一体何に苛々してるんだ?

「亮太、私もシャワーを浴びてきたら店に行こう」

 コウが亮太にそう笑いかけてきた。

「あ、ああ」
「待ってて」

 コウが風呂場に消えていった。その後を亮太は目で追っていた。

 足元にとことこと歩いてきた狗神が亮太を見上げて尋ねる。

「亮太? どうされました?」
「あ、いや、別に」
「まだ昨日の疲れが残っているのでは」

 心配させてしまったらしい。亮太はしゃがむと狗神の頭をわしゃわしゃと撫でながら笑った。

「疲れる程のことはしてねえよ。ちょっとな、分からなくなっただけだ」

 撫でられるとつい手に頰を傾ける狗神が、片側の目を閉じながら聞き返してきた。

「分からなくなった? 何がです?」
「俺もよく分かんねえよ」

 何に苛々するのか、何にモヤモヤしているのか自分でもさっぱり分からなかった。だが、誰に対してなのかは分かっていた。

 コウだ。怒ったと思ったら急にご機嫌になって笑ったり、本当によく分からなくて、亮太は振り回されっぱなしなのだ。

 自分がどうしたいのかも分からないしコウにどうなって欲しいのかも分からない。ぐしゃぐしゃだった。

 アキラも狗神もみずちとも、出来ればずっとずっと繋がっていたい。勿論コウにも幸せになってもらいたい。

 だが亮太がそんなことを思っていい程の縁だろうか。結局はそこに思考がぐるりと一周して戻る。
 そういう時はどうするか。


 絵を描くのだ。



 昨夜に降り止んだ雨は今日はもう降ることはなく、窓から差し込む秋の日差しが今日もコウのほっそりとした横顔に陰影を刻む。

 いつも、どこの色を一番に入れようかと暫く悩む。この悩み自体も何年振りだか分からないが、もう感覚はすっかり戻っていた。

 筆が新品なので筆に慣れるまで少し時間はかかるだろうが、でも指はこの感覚を忘れてはいなかった。

 後でしっかりと落とさないと、飲食業に汚れた指はあってはならない。それは分かってはいたが、でも最初のひと塗りは決まっていたのだ。右手の薬指。キャンバスのコウの頬のラインに一筋、入れた。これが全体のベースとなる。

 薄い色を全体に伸ばせとか色々あるが、亮太のやり方はこれだった。真ん中の色合いとなる一筋を入れ、そこから明るい色、次いで濃い色を入れていく。迷ったらここに戻る、そうすると見失っていた色を思い出すのだ。

 アクリルの良いところは、油絵の具と違って色を重ね易いところだろう。違ったな、そう思ったら上書き出来る。亮太の様にどんどん足したくなるタイプにはこっちの方が向いているだろうと思う。

 キャンバスの裏に、コウの名前を題名として書き入れた。コウの苗字は吉永だそうなので、吉永光がフルネームだ。何とも有り難そうな字面である。ちなみにアキラは岩倉だった。どうして誰も苗字を言わないんだと思ったが、恐らく亮太が聞かなかったからだろう。

 今度は筆を使って肌の色を乗せていく。コウの肌は綺麗だから、自然と筆もなめらかに滑らせる。懐かしくも手に馴染んだこの感触に、亮太の耳の後ろから後頭部、そして背中にかけてゾクゾクしてきて、快感だった。

 コウの腕に絡むみずちがコウを見上げ、そして腕にスリ、と顔を付けていた。余程嬉しいのだろう。みずちにくっつかれたコウの顔を順に見る。顎に力が入っている。何かを我慢しているかの様な力の入れ方だ。

「コウ、どうした?」

 トイレでも我慢しているのだろうか。

「いや、つい笑ってしまいそうになって」
「? 何か可笑しいか?」
「そうじゃないんだけど」
「じゃあ何だよ」

 話しつつも亮太の手は止まらない。コウの首を描いていく。そうだ、背中を見せてもらいたかったんだった。それに、起こし方についてもまだ注意していなかった。

「内緒」
「何だよそれ……まあいいや、コウ、一つ、いや二つお願いがあるんだけど」
「何だ」

 嫌な方から済ませてしまおう。亮太は嫌いな物から先に食べてしまう派なのだ。

「起こし方。起こしてくれるのはいいんだけどよ、ああいう起こし方はちょっともう止めてくれ」

 するとコウがこちらを向いた。

「何で?」
「あ、ほら背中背中」
「あ、悪い」

 コウがまた背中を向けた。ああもう何でこんな説明をしないといけないんだ。亮太は恥ずかしくなってきた。

「お前も男なら分かんねえか? ああいうことをされるとつい反応しちまうんだよ」
「反応……?」
「うちにはアキラっていう女子中学生がいるだろ? 万が一硬くなってんのを見られてみろ。俺は恥ずかしくて死ぬし、アキラがごみを見る様な目で俺を見るのがありありと目に浮かぶんだよ」
「あ……」

 するとコウが黙り込んでしまった。よく見ると耳が赤い。何でこいつが照れてるんだ、恥ずかしいのは亮太の方なのに。要は今朝のコウのあれで反応してしまったと白状させられているのは亮太の方なのだから。

「な? だから普通の起こし方にしてくれ」
「……分かった」

 コウの目が窓の奥に向いてしまった。本当はこちらに戻したかったが、亮太も今だけはちょっと直視出来ない。だからそのままにしておいた。

「……もう一つは?」

 そうだ、それだ。絵を描いてるとつい自分の世界に入り込み過ぎて片っ端から忘れてしまう。

「そうそう、背中を見せて欲しいんだ」

 すると、コウの全身に力が入った様に見えた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...