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第十章 大喧嘩
59.乳は乳だ、それ以上でも以下でもねえ
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亮太は参っていた。
見た目は両手に花かもしれない。だが亮太はおっさんでありイケメンに興味は一切ない。雨の上がったひんやりとした夜の空気の中、亮太は両手に酔っ払ったイケメン達を連れて帰宅している最中だった。
「レン、しっかりしろ」
「……眠いです」
蓮は半分寝かけている。初めて酒を飲むのを見たが、いきなり日本酒はそりゃ酔うだろう。反対の腕には飛んでいきそうなご機嫌な奴がいる。
「コウ、こら踊るな」
「亮太も一緒に」
「踊らねえよ」
亮太は数歩先を歩くアキラに助けを求めた。
「アキラ、頼む助けてくれ」
「断る。お酒臭い」
振り返りもせず冷たい答えが返ってきた。蓮を支えてくっつくいい機会だろうに、やはりその辺は子供なのだろう。迷いもせず匂いを避ける方を取った。
「あ! お前あんまり先に行くなよ、迷子になるぞ」
「こっちでしょ? 私だって分かる」
「そっちじゃねえ! そっちは神社の方だ!」
「あれ?」
「ああもう!」
誰一人しゃんとしてない。亮太は今日一番頑張った筈なのだが、何故こうなるのか。思わず大きな溜息が出た。
すると、結局は亮太が持つことになったポーチの中から蛟の小さな声がした。
「亮太、頑張れー」
「コウ、お前だけだよ……」
「うふふ、僕亮太大好きだもん」
「嬉しいこと言うなあ」
蛟に励まされ、亮太は少しやる気が出た。とりあえずとにかく帰ろう。亮太は気合いを入れ直すと、ふらふらの二人を引っ張るのに専念することにしたのだった。
◇
何とか無事帰宅すると、亮太は家に入った途端犬の姿に戻って丸くなってしまった狗神から洋服を剥がして畳み、陽気だが眠そうなコウは上着だけ脱がせて水を一杯飲ませると布団に寝かせた。とんとんと布団をリズムよく叩いている内に、コウはすーっと気持ちの良さそうな寝息を立てて寝てしまった。
床で寝ている狗神をとりあえずコウの足元に蹴られない様に運んで寝かせ、ポーチの中から蛟を出すとコウの頭の上にそっと置いた。こちらも眠そうだ。
ふう、と息を吐き自分の布団を改めて見下ろすと、狭い。振り返って壁掛けの時計を見ると、まだ十時前だ。
アキラは風呂の支度をしているが、湧くまで暇らしく台所に突っ立って残りのチー鱈を食べていた。まだ食べるのか。
亮太は部屋の電気を豆電球にすると、部屋と台所の間にある建て付けの悪い硝子戸をなるべく音を立てない様に閉め、冷蔵庫に残っていたビールを取り出した。すっかり酔いが覚めてしまった。
「……ねえ亮太」
「ん? どうした」
「ちょっと、聞きたいんだけど」
チー鱈を口に咥えながらも真面目な表情でアキラが話しかけてきた。珍しいこともあるものだ。
「何だ改まって」
「その、男の人ってやっぱり胸がちゃんとあった方がいいの?」
「ブフォッ!!」
口に含んでいたビールが口から溢れ、鼻に逆流してきた。ツンとして涙が出てきた。ゴホゴホと咳をして気管から出すと、蛇口で顔と手を洗ってから改めてアキラを見た。アキラは冗談で聞いてきている訳ではないらしかった。表情一つ変えず亮太の返事を待っている。
「ど、どうした急に」
「前に、人のことぺったんこって言って、それから俺はボン・キュ・ボンが好みだとか言ってたでしょ」
そういえばそんなことを言った記憶があった。確かアキラの背中の封印を見せてもらう時だっただろうか。
「お、おお、言ったけど」
「だから、男の人は皆胸があった方がいいのかなと思って」
アキラはそう言うと少ししか膨れていない自分の胸をじっと見下ろした。成程、蓮との将来が少し明るく見えてきたところで今度はそういった部分が気になり出したのだろう。可愛らしいといえば可愛らしい悩みだった。
「あー、あのな。人には好みってもんがあるから、皆が皆乳がでかいのが好きな訳じゃないと思う」
中学生に何を語っているんだろうかと疑問を覚えながらも、亮太は続けた。
「だから気にすんな」
「でも、谷間がどうとかよくテレビとか雑誌でも」
アキラはチー鱈をもぐもぐし続けながら俯いて自分の胸を見ている。
「アキラはまだ子供だろうが。これからだよこれから」
「でも、大人になってもぺったんこだとやっぱり亮太はなし?」
まあ、出来れば手にすっぽりと入る位は欲しいは欲しいが、それこそこれは好みの問題だ。
「えーと、そのだな。俺の経験から言わせてもらうと、乳は乳だ。それ以上でも以下でもねえ。巷に溢れてる谷間ってやつはありゃあほぼ作られたもんだ」
「作られたもの?」
亮太は頷いてみせた。
「そう。寄せて上げてるんだよ。テレビでもよくやってるだろ?」
「うん、やってる」
「皆沢山ある様に見せてるだけで、殆どはブラで寄せてだな、それでも寄らない場合はパットとかを詰めまくってだな、でもブラを取れば消えるし。まあでかいやつはでかいのを持ってるけど、あんまりでかいと肩が凝るらしいし」
「亮太、やけに詳しいんだけど」
しまった。中学生に語る様な内容じゃなかった。
「あ、あはは」
笑って誤魔化そう。亮太はビールをぐびっと飲んだ。
「じゃあ、胸の大きさは重要じゃないってこと?」
話は続行らしい。亮太はもう嫌だったが、アキラの顔があまりにも真剣なので答えざるを得なかった。厳しいが、仕方ない。
「……まあ、胸の大きさだけで好きになったり付き合ったりする訳じゃねえし」
つい言い訳がましくなる。
「じゃあ、ぺったんこでも好きになる?」
「まあ、胸はあればいいけど、なくても性格とか顔とか、俺はどっちかっていうと普段の生活リズムが合うとか、趣味が合うとか、会話が楽しいとか、一緒に飯食って酒飲んで笑ってられて気を遣わない相手だったら、まあ多少乳は少なくとも」
「大丈夫だと」
やけにしつこい。
「大丈夫だけど、一応言っておくと子供は対象外だぞ」
「自惚れなくていいよ」
「お前なあ……」
だがアキラは何かを納得したらしい。風呂場をさっと覗いてお湯を止めると、スッキリした顔になって言った。
「よく分かった。ありがとう」
「お、おお。まあ、お前はまだまだこれからだから、あんまり気にするなよ。な? それにレンにも好みってもんがあるだろうし、聞いてやろうか?」
「サイテー」
「……すみません」
深入りし過ぎたらしい。亮太はぐびっと缶に残っていた残りのビールを飲み干し、もう一本冷蔵庫から取り出すと流しの下の戸に寄りかかりプルタブを開けた。
「亮太、飲み過ぎ」
「いいんだよ、これはコウに取っておいた分だから」
そのコウは寝てしまった。アキラも風呂に入ったら寝るだろう。少し寂しくなった。寝れるか分からないが、これを飲んだら横になってしまおう。
「それでおしまいにしておきなよ」
「はいはい」
もうこれ以上はないから飲みようがない。アキラは息を一つ吐くと風呂場へと消えていった。亮太は今度はちびちびと飲み始めた。夕方まで寝、普段明け方近くまで起きてる所為もあって正直まだ眠くない。
硝子戸の奥にいるであろうコウと狗神を思う。今日は二人に怒られてしまった。狗神に怒られて、嬉しかった。だがコウに怒られて、亮太は戸惑ってしまった。コウは怒っているのかと思うと突然亮太のことをいい男だと言ったり、でも結婚相手を探している位なので別に普通に女性が好きだろうし、あれか、良いところの坊っちゃんだから人との距離感が少し普通と違うのかもしれない。蛟はコウと仲良くしろしろと言うし、何だかなあというのが正直なところだった。
ちびちび飲んでいた筈だったが、あっという間に空になってしまった。亮太は缶を洗って伏せておくと、台所の窓際に立て掛けてある歯ブラシでささっと歯磨きを済まし、気持ちよさそうに寝ているコウを起こさない様に布団に潜り込んだが、布団の上に狗神が寝ていて足の置き場がない。
あまり男にくっつくのも如何なものかと思ったが、風邪は引きたくない。亮太は横向きになり自分に腕枕をすると、コウに少し身体を寄せて目を閉じた。
見た目は両手に花かもしれない。だが亮太はおっさんでありイケメンに興味は一切ない。雨の上がったひんやりとした夜の空気の中、亮太は両手に酔っ払ったイケメン達を連れて帰宅している最中だった。
「レン、しっかりしろ」
「……眠いです」
蓮は半分寝かけている。初めて酒を飲むのを見たが、いきなり日本酒はそりゃ酔うだろう。反対の腕には飛んでいきそうなご機嫌な奴がいる。
「コウ、こら踊るな」
「亮太も一緒に」
「踊らねえよ」
亮太は数歩先を歩くアキラに助けを求めた。
「アキラ、頼む助けてくれ」
「断る。お酒臭い」
振り返りもせず冷たい答えが返ってきた。蓮を支えてくっつくいい機会だろうに、やはりその辺は子供なのだろう。迷いもせず匂いを避ける方を取った。
「あ! お前あんまり先に行くなよ、迷子になるぞ」
「こっちでしょ? 私だって分かる」
「そっちじゃねえ! そっちは神社の方だ!」
「あれ?」
「ああもう!」
誰一人しゃんとしてない。亮太は今日一番頑張った筈なのだが、何故こうなるのか。思わず大きな溜息が出た。
すると、結局は亮太が持つことになったポーチの中から蛟の小さな声がした。
「亮太、頑張れー」
「コウ、お前だけだよ……」
「うふふ、僕亮太大好きだもん」
「嬉しいこと言うなあ」
蛟に励まされ、亮太は少しやる気が出た。とりあえずとにかく帰ろう。亮太は気合いを入れ直すと、ふらふらの二人を引っ張るのに専念することにしたのだった。
◇
何とか無事帰宅すると、亮太は家に入った途端犬の姿に戻って丸くなってしまった狗神から洋服を剥がして畳み、陽気だが眠そうなコウは上着だけ脱がせて水を一杯飲ませると布団に寝かせた。とんとんと布団をリズムよく叩いている内に、コウはすーっと気持ちの良さそうな寝息を立てて寝てしまった。
床で寝ている狗神をとりあえずコウの足元に蹴られない様に運んで寝かせ、ポーチの中から蛟を出すとコウの頭の上にそっと置いた。こちらも眠そうだ。
ふう、と息を吐き自分の布団を改めて見下ろすと、狭い。振り返って壁掛けの時計を見ると、まだ十時前だ。
アキラは風呂の支度をしているが、湧くまで暇らしく台所に突っ立って残りのチー鱈を食べていた。まだ食べるのか。
亮太は部屋の電気を豆電球にすると、部屋と台所の間にある建て付けの悪い硝子戸をなるべく音を立てない様に閉め、冷蔵庫に残っていたビールを取り出した。すっかり酔いが覚めてしまった。
「……ねえ亮太」
「ん? どうした」
「ちょっと、聞きたいんだけど」
チー鱈を口に咥えながらも真面目な表情でアキラが話しかけてきた。珍しいこともあるものだ。
「何だ改まって」
「その、男の人ってやっぱり胸がちゃんとあった方がいいの?」
「ブフォッ!!」
口に含んでいたビールが口から溢れ、鼻に逆流してきた。ツンとして涙が出てきた。ゴホゴホと咳をして気管から出すと、蛇口で顔と手を洗ってから改めてアキラを見た。アキラは冗談で聞いてきている訳ではないらしかった。表情一つ変えず亮太の返事を待っている。
「ど、どうした急に」
「前に、人のことぺったんこって言って、それから俺はボン・キュ・ボンが好みだとか言ってたでしょ」
そういえばそんなことを言った記憶があった。確かアキラの背中の封印を見せてもらう時だっただろうか。
「お、おお、言ったけど」
「だから、男の人は皆胸があった方がいいのかなと思って」
アキラはそう言うと少ししか膨れていない自分の胸をじっと見下ろした。成程、蓮との将来が少し明るく見えてきたところで今度はそういった部分が気になり出したのだろう。可愛らしいといえば可愛らしい悩みだった。
「あー、あのな。人には好みってもんがあるから、皆が皆乳がでかいのが好きな訳じゃないと思う」
中学生に何を語っているんだろうかと疑問を覚えながらも、亮太は続けた。
「だから気にすんな」
「でも、谷間がどうとかよくテレビとか雑誌でも」
アキラはチー鱈をもぐもぐし続けながら俯いて自分の胸を見ている。
「アキラはまだ子供だろうが。これからだよこれから」
「でも、大人になってもぺったんこだとやっぱり亮太はなし?」
まあ、出来れば手にすっぽりと入る位は欲しいは欲しいが、それこそこれは好みの問題だ。
「えーと、そのだな。俺の経験から言わせてもらうと、乳は乳だ。それ以上でも以下でもねえ。巷に溢れてる谷間ってやつはありゃあほぼ作られたもんだ」
「作られたもの?」
亮太は頷いてみせた。
「そう。寄せて上げてるんだよ。テレビでもよくやってるだろ?」
「うん、やってる」
「皆沢山ある様に見せてるだけで、殆どはブラで寄せてだな、それでも寄らない場合はパットとかを詰めまくってだな、でもブラを取れば消えるし。まあでかいやつはでかいのを持ってるけど、あんまりでかいと肩が凝るらしいし」
「亮太、やけに詳しいんだけど」
しまった。中学生に語る様な内容じゃなかった。
「あ、あはは」
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「じゃあ、胸の大きさは重要じゃないってこと?」
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「大丈夫だと」
やけにしつこい。
「大丈夫だけど、一応言っておくと子供は対象外だぞ」
「自惚れなくていいよ」
「お前なあ……」
だがアキラは何かを納得したらしい。風呂場をさっと覗いてお湯を止めると、スッキリした顔になって言った。
「よく分かった。ありがとう」
「お、おお。まあ、お前はまだまだこれからだから、あんまり気にするなよ。な? それにレンにも好みってもんがあるだろうし、聞いてやろうか?」
「サイテー」
「……すみません」
深入りし過ぎたらしい。亮太はぐびっと缶に残っていた残りのビールを飲み干し、もう一本冷蔵庫から取り出すと流しの下の戸に寄りかかりプルタブを開けた。
「亮太、飲み過ぎ」
「いいんだよ、これはコウに取っておいた分だから」
そのコウは寝てしまった。アキラも風呂に入ったら寝るだろう。少し寂しくなった。寝れるか分からないが、これを飲んだら横になってしまおう。
「それでおしまいにしておきなよ」
「はいはい」
もうこれ以上はないから飲みようがない。アキラは息を一つ吐くと風呂場へと消えていった。亮太は今度はちびちびと飲み始めた。夕方まで寝、普段明け方近くまで起きてる所為もあって正直まだ眠くない。
硝子戸の奥にいるであろうコウと狗神を思う。今日は二人に怒られてしまった。狗神に怒られて、嬉しかった。だがコウに怒られて、亮太は戸惑ってしまった。コウは怒っているのかと思うと突然亮太のことをいい男だと言ったり、でも結婚相手を探している位なので別に普通に女性が好きだろうし、あれか、良いところの坊っちゃんだから人との距離感が少し普通と違うのかもしれない。蛟はコウと仲良くしろしろと言うし、何だかなあというのが正直なところだった。
ちびちび飲んでいた筈だったが、あっという間に空になってしまった。亮太は缶を洗って伏せておくと、台所の窓際に立て掛けてある歯ブラシでささっと歯磨きを済まし、気持ちよさそうに寝ているコウを起こさない様に布団に潜り込んだが、布団の上に狗神が寝ていて足の置き場がない。
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