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第十二章 いざ退治
74.逃げたくなる気持ちはよく分かる
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亮太とコウは、駅を降りるとタクシーを拾い椿の寺へと向かった。
「あそこ廃寺ですよ、大丈夫?」
人の良さそうなタクシーの運転手が教えてくれた。
「そこの持ち主と掃除をしに行くんですよ」
亮太も愛想良く答えた。これから何度も行くことになる寺だ。もしかしたら同じ運転手に当たる可能性もある。どこで誰と繋がっているかなど分からない。それ位世間は広く狭いのだと、ここ最近亮太は思う様になった。
コウの表情は暗い。今回からリキが付いているから大丈夫だと伝えても、どうしても不安になるらしい。まあこれの原因は前回の亮太の無茶な行動にある為、とにかく今回からしっかりと気を付けているところを見せていくしかなかった。
亮太はコウの手を上からぎゅっと握り笑みを見せた。コウがぽてん、と亮太の肩に頭を乗せた。
十分以上走っただろうか、タクシーは細い横道に入って行った。道の両脇は林になっており、落ち葉がこんもりとしていて道全体が薄らと暗い。少し行くとタクシーはこじんまりとした山門の前で止まった。
亮太は精算を済ますとコウの手を握り直し山門の奥をそっと覗き見る。
「ちなみにお寺さんでも問題ないのか?」
「問題?」
「ほら、コウ達って一応神道だろ?」
するとようやくコウに笑顔が見えた。亮太は荷物を肩に背負うとコウの手を引いて山門を潜った。
「そんなことか。大丈夫、問題ない。日本は古くから八百万の神で溢れかえってるから」
確かに大らかではある。諸外国の様に一神教でもなければ互いの宗教にも大して拘りはない。ある人も中にはいるのだろうが、そもそも神社と寺がこんなにも同時に存在している時点で大らかといえよう。
「まあそうか」
「亮太、七福神て外の国から来た神様なんだぞ」
「え? そうなのか?」
それは知らなかった。
「仏教だって海外出身だし、それも受け入れて私達みたいな国産の神も受け入れてくれるんだ」
そう言って笑うコウは美しかった。うん、堪らない。
亮太は周りをきょろ、と見回して誰も見ていないのを確認すると、コウにさっとキスをした。
ふふ、と嬉しそうに照れるコウを見て、亮太はもう一度しっかりと自分に言い聞かせた。無茶はしないと。
「あ、来た来た! 待ってたぞー!」
お堂の中から椿がひょっこりと顔を覗かせてこちらに手を振ってきた。次いで蓮とアキラが外に出てきた。蓮は禰宜の服装でたすき掛けをして雑巾を手に持っている。アキラは普段着だが雄々しくモップの先を上にして構えていた。一体何があったのだろうか。
「亮太、コウ様! 早く!」
アキラが切羽詰まった声を出した。何だ何だ、珍しい。亮太とコウが駆け足で近付くと、アキラがはあはあと肩で息をしている。
「何だよ、どうした」
「ね、ね、ネズミ!」
「結構沢山いてさーあははは」
椿がカラカラと笑う。まあ基本はオープンスペースで入りたい放題だ、お寺育ちの椿は元々慣れている様子だが、アキラは溜まったものではないだろう。
亮太とコウがお堂の中に入るが、リキがいない。
「リキさんは?」
「あそこ」
椿が親指でくい、と御本尊だろう、ちょっと大きめの仏像を指した。亮太が上を見上げると、何と仏像の頭にしがみついているではないか。
なんて罰当たりな。
「わ、私ネズミは駄目なのー!」
「リキ、仏像壊すなよー」
「だ、だってえええ」
アキラが亮太とコウの背中を押し、斜めがけのポーチを二人の間から渡した。
「蛇は天敵」
納得した。蛟を蛟龍にしてネズミを追っ払って欲しかったが亮太とコウがいないから变化出来なかったのだ。コウがクス、と笑ってポーチを受け取ると、ジッパーを開けた。
「私のコウ、出番だそうだ」
「コウ様だー」
「俺もいるぞ」
「わーい亮太亮太」
スルリと出てきた蛟がコウの腕に巻き付く。亮太は蛟によく見える様に、蛟が絡みついた方のコウの手をギュッと握った。コウが反対の手も差し出してきたので、亮太は向かい合う様にコウの手を握り二人で大きな輪を作った。すると、蛟が笑った様に見えた。
「いっぱい仲良しなのー」
蛟の身体がふわりと円の中心に浮き、くるくると周り出す。大分見慣れた光景になってきたが、やはりそれでもこの色彩は亮太を魅了して止まない。その光の先にいるコウに水の光が反射して、亮太は次に描く絵の構図を思いついた。蓮とアキラも描きたいが。描きたいものが溢れてきて亮太は思わず笑顔になった。
「亮太もコウ様もにこにこ、大好きー」
蛟の身体がどんどん透けてどんどん伸びていく。でかい。前に見た時は亮太の背の倍位だったのが、まだ伸びていく。やがて蛟は亮太とコウの頭上を気持ちよさそうに泳ぎ始めた。
「ここは広いのー」
まあ亮太の家の風呂場よりは遥かに広い。それに天上も高さがあるので蛟が突っかかることはなかった。
ふと椿を見ると、口をぽかーんと開けて蛟を眺めている。まあそうなるだろう、気持ちは分かる。
「す……すっげー! ドラゴンじゃん!」
「蛟は蛟龍っていう水神様なんだよ」
サイズは前回見た時よりも大分大きくなり、亮太の三倍程度だろうか。大分頭も大きくなり、前は亮太と同じ位の大きさだったのが今では亮太の頭二個分程ある。
「大きくなったなあ」
「えへへー。ネズミさん追い出せばいいの?」
「出来るか?」
出来れば食べることなくただ追い出して欲しい。蛟の腹の中に入ってしまうと、さすがに亮太もううっとなりそうだった。
「頑張るー」
「それと、水浸しにはしないで出来るか?」
「うーん? うーんと、頑張る」
「じゃあ、どうすればいい?」
コウに抱きつくと水が立つ筈だが、同じ方法でいいものか。すると蛟が嬉しそうに言った。
「コウ様と亮太がぎゅー!」
「お安いご用だ」
コウがそう返答すると、亮太の胸に飛び込んできて亮太の背中に手を回した。堂々とハグ出来る幸せ。亮太も遠慮なくコウをぎゅっと抱き締めた。
すると。
ドワアアア! と二人の周りに水柱が立った。前に見た時よりも分厚そうで、向こう側ははっきりと見通せない。
「えーっとね、どうしようかな? ねえねえ、ネズミさん達はどこにいるの?」
蛟が水柱の外の誰かに聞いている。
「天井裏? 床下? えー」
とにかくあちこちにいるらしいが、水がドウドウいっていてあまりよく聞こえない。床は濡れてないのかと思って見てみると、床の少し上からいきなり水が出現して上へと向かい、ある程度の高さの所で消えている。謎だった。だが口の中も異空間に繋がってるので、もしかしたら空間を操るのは得意なのかもしれなかった。
「亮太、もっと仲良ししてー」
「もっとって……」
蛟のモチベーションは何故そこから来るのか。よく考えてみれば謎だった。
「私のコウ!」
コウが亮太にしがみつきながら水柱の上の円形の空間に声をかけた。
「はあいー」
ひょっこりと蛟が顔を覗かせた。
「しっかり見てろ!」
「はあーい」
コウが亮太の頬をがっと手で押さえると、亮太の唇を男前に奪った。
蛟にこんなの見せていいのか? まだ子供だぞ! そう思ったが、まあ水柱のお陰で他の人間には見えないし、と思ったら仏像の頭にしがみついているリキと目が合った。まじか。
水柱から細いホースの様な光が一つ、また一つと宙に飛んでいく。
「皆行けなのー!」
蛟が号令をかけると、水柱から生まれた光り輝く水の蛇が一斉に四方八方へと散って行く。
「へ、蛇いいいい!」
仏像の頭の上でリキが叫んだ。
蛇と化し消えた水柱の中心にいた亮太は、アキラの汚い物を見る様な視線に晒された。慌ててコウの頭を抱いて取り繕う。
「は、はは」
光り輝く蛇が蠢く。すると、あちこちからチュウチュウ言う声が聞こえ始めた。
「う、うひゃあああっ!」
足の間をすり抜けて行くネズミと蛇を前にして一歩も動けず、アキラが蒼白になって叫んだ。そういえば蓮が静かだと思って見てみると、完全に固まっていた。蓮も駄目なのか。
蛇の大群がネズミをお堂から追い出すまで、暫くの時がかかった。
蛇が蛟の元に戻り蒸発する様に全て消えた頃、神と神使と人間はただ呆然と立ち尽くしていた。
「あそこ廃寺ですよ、大丈夫?」
人の良さそうなタクシーの運転手が教えてくれた。
「そこの持ち主と掃除をしに行くんですよ」
亮太も愛想良く答えた。これから何度も行くことになる寺だ。もしかしたら同じ運転手に当たる可能性もある。どこで誰と繋がっているかなど分からない。それ位世間は広く狭いのだと、ここ最近亮太は思う様になった。
コウの表情は暗い。今回からリキが付いているから大丈夫だと伝えても、どうしても不安になるらしい。まあこれの原因は前回の亮太の無茶な行動にある為、とにかく今回からしっかりと気を付けているところを見せていくしかなかった。
亮太はコウの手を上からぎゅっと握り笑みを見せた。コウがぽてん、と亮太の肩に頭を乗せた。
十分以上走っただろうか、タクシーは細い横道に入って行った。道の両脇は林になっており、落ち葉がこんもりとしていて道全体が薄らと暗い。少し行くとタクシーはこじんまりとした山門の前で止まった。
亮太は精算を済ますとコウの手を握り直し山門の奥をそっと覗き見る。
「ちなみにお寺さんでも問題ないのか?」
「問題?」
「ほら、コウ達って一応神道だろ?」
するとようやくコウに笑顔が見えた。亮太は荷物を肩に背負うとコウの手を引いて山門を潜った。
「そんなことか。大丈夫、問題ない。日本は古くから八百万の神で溢れかえってるから」
確かに大らかではある。諸外国の様に一神教でもなければ互いの宗教にも大して拘りはない。ある人も中にはいるのだろうが、そもそも神社と寺がこんなにも同時に存在している時点で大らかといえよう。
「まあそうか」
「亮太、七福神て外の国から来た神様なんだぞ」
「え? そうなのか?」
それは知らなかった。
「仏教だって海外出身だし、それも受け入れて私達みたいな国産の神も受け入れてくれるんだ」
そう言って笑うコウは美しかった。うん、堪らない。
亮太は周りをきょろ、と見回して誰も見ていないのを確認すると、コウにさっとキスをした。
ふふ、と嬉しそうに照れるコウを見て、亮太はもう一度しっかりと自分に言い聞かせた。無茶はしないと。
「あ、来た来た! 待ってたぞー!」
お堂の中から椿がひょっこりと顔を覗かせてこちらに手を振ってきた。次いで蓮とアキラが外に出てきた。蓮は禰宜の服装でたすき掛けをして雑巾を手に持っている。アキラは普段着だが雄々しくモップの先を上にして構えていた。一体何があったのだろうか。
「亮太、コウ様! 早く!」
アキラが切羽詰まった声を出した。何だ何だ、珍しい。亮太とコウが駆け足で近付くと、アキラがはあはあと肩で息をしている。
「何だよ、どうした」
「ね、ね、ネズミ!」
「結構沢山いてさーあははは」
椿がカラカラと笑う。まあ基本はオープンスペースで入りたい放題だ、お寺育ちの椿は元々慣れている様子だが、アキラは溜まったものではないだろう。
亮太とコウがお堂の中に入るが、リキがいない。
「リキさんは?」
「あそこ」
椿が親指でくい、と御本尊だろう、ちょっと大きめの仏像を指した。亮太が上を見上げると、何と仏像の頭にしがみついているではないか。
なんて罰当たりな。
「わ、私ネズミは駄目なのー!」
「リキ、仏像壊すなよー」
「だ、だってえええ」
アキラが亮太とコウの背中を押し、斜めがけのポーチを二人の間から渡した。
「蛇は天敵」
納得した。蛟を蛟龍にしてネズミを追っ払って欲しかったが亮太とコウがいないから变化出来なかったのだ。コウがクス、と笑ってポーチを受け取ると、ジッパーを開けた。
「私のコウ、出番だそうだ」
「コウ様だー」
「俺もいるぞ」
「わーい亮太亮太」
スルリと出てきた蛟がコウの腕に巻き付く。亮太は蛟によく見える様に、蛟が絡みついた方のコウの手をギュッと握った。コウが反対の手も差し出してきたので、亮太は向かい合う様にコウの手を握り二人で大きな輪を作った。すると、蛟が笑った様に見えた。
「いっぱい仲良しなのー」
蛟の身体がふわりと円の中心に浮き、くるくると周り出す。大分見慣れた光景になってきたが、やはりそれでもこの色彩は亮太を魅了して止まない。その光の先にいるコウに水の光が反射して、亮太は次に描く絵の構図を思いついた。蓮とアキラも描きたいが。描きたいものが溢れてきて亮太は思わず笑顔になった。
「亮太もコウ様もにこにこ、大好きー」
蛟の身体がどんどん透けてどんどん伸びていく。でかい。前に見た時は亮太の背の倍位だったのが、まだ伸びていく。やがて蛟は亮太とコウの頭上を気持ちよさそうに泳ぎ始めた。
「ここは広いのー」
まあ亮太の家の風呂場よりは遥かに広い。それに天上も高さがあるので蛟が突っかかることはなかった。
ふと椿を見ると、口をぽかーんと開けて蛟を眺めている。まあそうなるだろう、気持ちは分かる。
「す……すっげー! ドラゴンじゃん!」
「蛟は蛟龍っていう水神様なんだよ」
サイズは前回見た時よりも大分大きくなり、亮太の三倍程度だろうか。大分頭も大きくなり、前は亮太と同じ位の大きさだったのが今では亮太の頭二個分程ある。
「大きくなったなあ」
「えへへー。ネズミさん追い出せばいいの?」
「出来るか?」
出来れば食べることなくただ追い出して欲しい。蛟の腹の中に入ってしまうと、さすがに亮太もううっとなりそうだった。
「頑張るー」
「それと、水浸しにはしないで出来るか?」
「うーん? うーんと、頑張る」
「じゃあ、どうすればいい?」
コウに抱きつくと水が立つ筈だが、同じ方法でいいものか。すると蛟が嬉しそうに言った。
「コウ様と亮太がぎゅー!」
「お安いご用だ」
コウがそう返答すると、亮太の胸に飛び込んできて亮太の背中に手を回した。堂々とハグ出来る幸せ。亮太も遠慮なくコウをぎゅっと抱き締めた。
すると。
ドワアアア! と二人の周りに水柱が立った。前に見た時よりも分厚そうで、向こう側ははっきりと見通せない。
「えーっとね、どうしようかな? ねえねえ、ネズミさん達はどこにいるの?」
蛟が水柱の外の誰かに聞いている。
「天井裏? 床下? えー」
とにかくあちこちにいるらしいが、水がドウドウいっていてあまりよく聞こえない。床は濡れてないのかと思って見てみると、床の少し上からいきなり水が出現して上へと向かい、ある程度の高さの所で消えている。謎だった。だが口の中も異空間に繋がってるので、もしかしたら空間を操るのは得意なのかもしれなかった。
「亮太、もっと仲良ししてー」
「もっとって……」
蛟のモチベーションは何故そこから来るのか。よく考えてみれば謎だった。
「私のコウ!」
コウが亮太にしがみつきながら水柱の上の円形の空間に声をかけた。
「はあいー」
ひょっこりと蛟が顔を覗かせた。
「しっかり見てろ!」
「はあーい」
コウが亮太の頬をがっと手で押さえると、亮太の唇を男前に奪った。
蛟にこんなの見せていいのか? まだ子供だぞ! そう思ったが、まあ水柱のお陰で他の人間には見えないし、と思ったら仏像の頭にしがみついているリキと目が合った。まじか。
水柱から細いホースの様な光が一つ、また一つと宙に飛んでいく。
「皆行けなのー!」
蛟が号令をかけると、水柱から生まれた光り輝く水の蛇が一斉に四方八方へと散って行く。
「へ、蛇いいいい!」
仏像の頭の上でリキが叫んだ。
蛇と化し消えた水柱の中心にいた亮太は、アキラの汚い物を見る様な視線に晒された。慌ててコウの頭を抱いて取り繕う。
「は、はは」
光り輝く蛇が蠢く。すると、あちこちからチュウチュウ言う声が聞こえ始めた。
「う、うひゃあああっ!」
足の間をすり抜けて行くネズミと蛇を前にして一歩も動けず、アキラが蒼白になって叫んだ。そういえば蓮が静かだと思って見てみると、完全に固まっていた。蓮も駄目なのか。
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