我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第十二章 いざ退治

80.おっさん、再び龍に乗る

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 蓮がちらりとみずちを見る。

「プロポーズで成獣になった理由は、みずちに聞かねば私も分かりません」
「じゃあ後で聞くか」
「そうして下さい。私も興味があります」
「よし」

 とにかくみずちは成獣となった。きっと、あれこれコントロールが出来る様になっているに違いない。とりあえずコウと手を繋いだだけで变化しないでいてもらえると今後助かるので、それも後で確認してみようと亮太は思った。

 ずっと八岐大蛇を見つめていたみずちが、亮太を振り返った。

「亮太、僕、亮太を乗せて飛べるかもなの」
「へ?」

 喋り方も前までの舌っ足らずな喋り方ではなく、少しだけしっかりとした口調に変わっていた。

「あっちの上に乗ると亮太、振り落とされちゃったでしょ? だから僕に乗ってなの」
「成程、それもありか」

 少なくともみずちが亮太を振り落とすことはないに違いない。

「僕が亮太を守るから、亮太は戦って」

 そう言って、みずちは亮太が乗りやすい様に頭を下げてきた。みずちの頭には、前はなかった真っ直ぐピンと伸びた一本の角が生えていた。真っ白よりは少しクリーム色に近い柔らかい色をしている。触れてみると、温かい滑らかな石の様だった。

「コウ、角生えてるぞ! 格好いいなあ」
「うふふ」
「亮太、それが成獣の証です」
「そうか、それでレンはコウが成獣だって分かったのか」
「そうです」
「わーい大人になったの」
「コウ、角を掴んでも大丈夫か?」
「平気なのー」
「よし」

 亮太はまずは角を掴むと、みずちの頭を踏まない様にみずちのふわふわと宙になびく耳の後ろ辺りに跨ってみた。だが、これだと剣がみずちに当たってしまいそうだ。

「立ってもいいか?」

 角は亮太の腰位までの長さがある。立った上で角を掴んでバランスは取れそうだった。

「大丈夫なの」
「土足で悪いなあ」
「気にしないでなのー」

 亮太は立ち上がった。みずちの頭の上はそこまで広くはなく畳み半畳程度の広さしかないが、まあ何とかなるだろう。少なくとも八岐大蛇の頭の上よりはましだ。

 亮太はしっかりと膝を曲げてバランスを取って立った。丁度アキラの温めが終わったのか、結界内に八咫鏡の光も差し込み始める。

「よし、行くか!」
「おう! なのー」

 可愛らしい返事が来て、亮太は思わず吹き出してしまった。いつの間にか力が入っていた肩の力が抜けた。結果オーライだ。
 
「リキさん、援護頼む」
「任せて! 吹っ飛ばしてやるわ!」
「牙はかなり鋭いから触らない様にな」
「分かったわ」

 少し冷えてきていた結界内部がポカポカしてきた。みずちが亮太を乗せてふわりと浮いた。

「コウ、龍の時も寒さには弱いのか?」
「うーん? そういえば大丈夫かもー」

 成程。そしてふと良いことを思いついた。

「そうしたら、コウに乗って空の散歩とかも行けるのかな?」
「空のお散歩?」
「コウのご主人様のコウも一緒に、なんてな」

 恋人と空中散歩なんて出来たら素晴らしいじゃないか。しかも今日はプロポーズが成功した記念すべき日だ。

「その、プロポーズの記念日だし」
「あ、僕聞いてたの!」

 やっぱりか。

「僕ね、嬉しかったの。だから思い出したの。そうしたら大きくなったー」
「思い出した? 何を?」

 うふふ、とみずちが笑う。

「高天原の一番の神様とのお約束」
「高天原の一番の神様? えーと、もしや天照大神アマテラスオオミカミ?」
「亮太さすがなのー」

 段々と首の高さへと登って行く。

「何を約束したんだ?」
「それは内緒なの、うふふ」

 何か言えない様な約束なのだろうか。神と神使の間での約束だ、かなり重要そうである。一介のおっさんには計り知れない何かがあるのかもしれない。

「でも、僕は間違ってなかったの」
「間違ってなかった?」
「うん! それが僕は嬉しいの」
「? そうか、嬉しいのか」

 よく分からなかったが内緒なら仕方がない。みずちが嬉しくなるのなら良いことなのだろう。そして可愛いみずちが喜んでいるなら亮太も嬉しい。

「よかったな」
「うん!」

 首と高さが並んだ。今までで一番実体に近く大きい八岐大蛇の首が、口から不気味な黒い煙を吐きながらゆっくりとこちらを振り向いた。

 その目は赤く光っていた。今までになかったことだ。

「大分硬そうだな」

 亮太は右手の草薙剣の柄をしっかりと握り直した。

「大丈夫なの、亮太」
「はは、みずちが言うとそう思えてくるな」

 手の中はじんわりと汗が滲んでくる。相手はこちらを様子見しているのか、互いにその場で睨み合った。

 みずちがはっきりとした声で言った。

「僕は亮太が好き。大好き。だから大丈夫なの」

 だから大丈夫の根拠は分からない。だが、この言葉は確実に亮太を鼓舞した。

「ありがとうコウ。俺もコウが大好きだ」
「うふふふふー。亮太、準備出来たら声かけてなの」
「ああ」

 亮太は一旦目を閉じてから深呼吸し、再び目を開け首を見た。そっと息を吐く。

「首の左側スレスレに突っ込めるか?」
「分かったの! せーの!」

 みずちが急発進し、一気に首の左側に近付く。亮太はその勢いに任せ、後ろから前へと平行に剣を振るった。

 ガッ! と刃が鱗に当たり跳ね返った感覚があった。固い。

 物凄いスピードですれ違ったみずちは結界ギリギリで左に折れると、元にいた位置へとくるりと戻りぴたりと止まった。ここまで一瞬だった。

 先程刃が当たった所は、少しだけ黒く煙になっている。あの勢いであの程度。全く切れていないに等しい。

 亮太は結界の外のコウに向かって叫んだ。

「コウ! 結界内の光を増やしてくれ!」

 八咫鏡からは直線のみの光だけではなく、じんわりと湧き出る泉の様な光も出せたのはこの目で確認した。だったら単純にこの中の光の割合を増やせば首全体の強度が落ちるのではないか、そう考えた。

 結界の壁の一部分が光り始めた。見ると、結界に直接八咫鏡を当てている様だ。そうすることで途中で屈折することなくじんわりとした光が直接結界内へと注ぎ込んでいる。さすがはコウ、機転が利く、好きだなあと自然と顔が緩む。

「亮太、もう一回行く?」

 その声で現実に引き戻された。いかん、どうもメロメロ路線につい引き込まれてしまう様だ。今は戦いの最中、しかも相手は強い。気を引き締めねば、そう思い、そういえば始めは怖かった八岐大蛇に対し今は全く恐怖心を抱いていない自分に気が付いた。

 いつもギリギリで勝っていたのに何故だろうか?

 考え、すぐに理解した。今は一緒に戦ってくれる仲間がいるからだ。

 亮太は一人が怖い。父は離婚してから会うこともなく、顔も知らない。母さんも死んだ。恋人もおらず、体力勝負の飲食業で持ち家もなく、貯金もなく、好きだった絵を描くこともせず、ただ怠惰に生きていた。

 そんな亮太を頼り、好意を持ち、時に叱り、時に楽しい時を共に過ごす仲間が出来た。

 大丈夫だと背中を押してくれる人が今はいる。泣いてしまう時は抱き締めてくれる人がいる。


 その仲間達が皆亮太と一緒に戦ってくれている。だからもう怖くなかった。

「もう一回行こう。光が結界の中にいっぱいになるまで、出来るだけ弱らせよう。右でも左でも上でも下でもどこでもいい。コウが行きやすい所に飛んでくれればいい」
「分かったのー」

 すると、下からリキが亮太を呼んだ。

「亮太さん! 物干し竿を尖らせてみたから、どこかで隙を見て上からぶっ刺して動きを止めるわ!」
「と、尖らせた?」

 何を言ってるんだと思って下を覗くと、確かに物干し竿の先端が捻れて槍の穂先の様に尖っている様に見える。

「手で捻り切ってみたの!」

 意気揚々とリキが教えてくれた。ステンレスを捻じ切る。まじか。

 亮太は、アキラの首を絞めたリキはあれでもかなり手加減をしていた事実に気が付いた。手加減していなければアキラの細い首などぽっきり折れていただろう。

「わ、分かった! そしたらなるべく首を低い位置まで連れてきたら、コウの背中を登ってきてくれ!」
「うん、龍の姿のみずちちゃんなら私も平気よ!」
「じゃあ行くぞ!」
「はいなのー!」

 その声を合図に、みずちは再び八岐大蛇に接近した。
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