45 / 48
45 春彦の成敗
しおりを挟む
春彦の怒鳴り声はそこそこ大きかった為、周りの人が何だ何だと遠巻きにして見始める。
そんな中、春彦はスーッと息を大きく吸うと、駅周辺に響き渡る音量で叫んだ。
「お前な! ストーカーに甘い顔してどうするんだ、この馬鹿ーっ!」
か、か、か……と、春彦の声が辺りにハウリングしたように聞こえる。
周囲の人間の私たちを見る目が、「彼氏さんも苦労するなあ」という若干憐れみを含んだものに変わったのが、これまで気配であれこれ探ることに慣れていた私には即座に分かった。
ここに私の味方はいない。それだけは確かなようだ。
「だ、だよね?」
えへ、と笑うと、春彦が深く長い溜息を吐く。
「お前さ、あいつからの文章読んで、怖いと思わないの? お前にあげた伊達眼鏡をお守りとして持ってるんだぞ? またいつか会えたらその時は小春ちゃんに好かれるような人間になっていたいとか、お前これ全然諦めてないやつじゃないか!」
「春彦、よく一瞬読んだだけでこの長ったらしい文章を覚えられたね」
ブチ、と春彦の何かが切れる音が聞こえた気がした。あ、しまった。
ぐしゃ、とアイスの紙が握り締められた拳が、ブルブルと震えている。
これは拙い。非常に拙い。慌てて取り繕うべく、へらへらと言い訳を始めた。
「ほ、ほら! でも、私もその後は何も返事してないでしょ! さすがにさ、これに返事はできないよねえ! あはは!」
「――もういい。お前には任せておけない」
「はい? ……おわっ!」
いきなり手首を掴まれて、春彦の腕の中に引き寄せられる。
「へっ!?」
春彦が、私の背中を覆うように抱きついてきた。相変わらず取り上げたままの人のスマホのカメラを勝手に立ち上げ、インカメラに切り替える。
汗をかいた春彦の腕が私の肌に直接触れて、そのあまりの熱さに思考が吹っ飛びそうになった。
「ははははは春彦おおおっ⁉」
「笑え、小春」
画面越しに交わる視線で、春彦が心底怒っていることが分かる。そんな顔で笑えと言われても、笑える訳がないじゃないの。
なので、そのままそう伝えることにした。
「そ、そんないきなり笑えって言われても無理だから!」
すると春彦が、前から回した手で私の脇腹をくすぐり始める。
「ちょ、ちょっと!」
「笑え」
私がくすぐられるのが大の苦手だと、春彦はよく知っているのだ。特に脇腹と二の腕の内側が苦手なことも。
「う……うひゃひゃひゃひゃっ!」
色気など欠片もない笑い声を上げる私を羽交い締めにした春彦が、連続で自撮り写真を撮りまくった。
私は笑っているのに、画面に映る春彦が滅茶苦茶ガンを飛ばしているのが対照的で違和感満載だ。
いいのが撮れたのか、暫くすると春彦は私を解放し、今度は人のスマホの写真を勝手に確認し始める。
笑いすぎて息も絶え絶えの私は、辛うじて最後の抵抗を見せることしかできなかった。
「ひ、ひい……っ、は、春彦、人の写真を勝手に……っ」
「黙っとけ」
「はい……」
やばい、まだ本気で怒ってるぞ。滅多に切れることがない春彦だけに、余計怖い。心なしか口調も荒々しいのが、龍に啖呵を切った時の春彦を思い起こさせた。
あれは決まってたなあ。
それにしても、変な写真はない筈だけど、本当に勝手に見るのはやめてほしい。いくら仲のいい幼馴染みだって、プライバシーは存在する筈だ。プライバシー侵害、反対!
「……お前殆ど食い物の写真ばっかじゃねえか」
えっちゃんとの買い食い戦歴のことを言っているんだろう。
「ちょっと、関係ないところまで見ないでよ!」
「まあ色気ないくらいが安心でいいけど」
ブツブツと口の中で何かを言っている。以前よりも独り言が増えたように思えるので、賽の河原では奪衣婆以外の話し相手がいなかったようだし、独り言が癖になったのかもしれない。
寂しい奴だなと思ったけど、これ以上切れさせると怖いよりも面倒そうだったので、やめた。
「――よし! これでいい!」
ようやく春彦に笑顔が戻り、スマホが返却された。まさかえっちゃんの所は見てないよね? と思いつつ、画面を確認してみる。
真っ赤な顔で大口を開けて笑っている私と、そんなことされたか記憶が定かじゃないけど、思い切りカメラを睨みつけた春彦が私のこめかみに唇を当てている一枚が龍宛に送られていた。
写真の次には、ダメ押しのメッセージ。
『小春に手を出したら地の果てまで追いかけてぶっ殺すって言ったのを忘れずに』
時差があるのに、すぐに既読が付いていた。暫くして、スコンと音いう音と共に龍からの返信が来る。
『はい』
次の瞬間。
龍の名前があった場所には『メンバーがいません』と表示されたのだった。
そんな中、春彦はスーッと息を大きく吸うと、駅周辺に響き渡る音量で叫んだ。
「お前な! ストーカーに甘い顔してどうするんだ、この馬鹿ーっ!」
か、か、か……と、春彦の声が辺りにハウリングしたように聞こえる。
周囲の人間の私たちを見る目が、「彼氏さんも苦労するなあ」という若干憐れみを含んだものに変わったのが、これまで気配であれこれ探ることに慣れていた私には即座に分かった。
ここに私の味方はいない。それだけは確かなようだ。
「だ、だよね?」
えへ、と笑うと、春彦が深く長い溜息を吐く。
「お前さ、あいつからの文章読んで、怖いと思わないの? お前にあげた伊達眼鏡をお守りとして持ってるんだぞ? またいつか会えたらその時は小春ちゃんに好かれるような人間になっていたいとか、お前これ全然諦めてないやつじゃないか!」
「春彦、よく一瞬読んだだけでこの長ったらしい文章を覚えられたね」
ブチ、と春彦の何かが切れる音が聞こえた気がした。あ、しまった。
ぐしゃ、とアイスの紙が握り締められた拳が、ブルブルと震えている。
これは拙い。非常に拙い。慌てて取り繕うべく、へらへらと言い訳を始めた。
「ほ、ほら! でも、私もその後は何も返事してないでしょ! さすがにさ、これに返事はできないよねえ! あはは!」
「――もういい。お前には任せておけない」
「はい? ……おわっ!」
いきなり手首を掴まれて、春彦の腕の中に引き寄せられる。
「へっ!?」
春彦が、私の背中を覆うように抱きついてきた。相変わらず取り上げたままの人のスマホのカメラを勝手に立ち上げ、インカメラに切り替える。
汗をかいた春彦の腕が私の肌に直接触れて、そのあまりの熱さに思考が吹っ飛びそうになった。
「ははははは春彦おおおっ⁉」
「笑え、小春」
画面越しに交わる視線で、春彦が心底怒っていることが分かる。そんな顔で笑えと言われても、笑える訳がないじゃないの。
なので、そのままそう伝えることにした。
「そ、そんないきなり笑えって言われても無理だから!」
すると春彦が、前から回した手で私の脇腹をくすぐり始める。
「ちょ、ちょっと!」
「笑え」
私がくすぐられるのが大の苦手だと、春彦はよく知っているのだ。特に脇腹と二の腕の内側が苦手なことも。
「う……うひゃひゃひゃひゃっ!」
色気など欠片もない笑い声を上げる私を羽交い締めにした春彦が、連続で自撮り写真を撮りまくった。
私は笑っているのに、画面に映る春彦が滅茶苦茶ガンを飛ばしているのが対照的で違和感満載だ。
いいのが撮れたのか、暫くすると春彦は私を解放し、今度は人のスマホの写真を勝手に確認し始める。
笑いすぎて息も絶え絶えの私は、辛うじて最後の抵抗を見せることしかできなかった。
「ひ、ひい……っ、は、春彦、人の写真を勝手に……っ」
「黙っとけ」
「はい……」
やばい、まだ本気で怒ってるぞ。滅多に切れることがない春彦だけに、余計怖い。心なしか口調も荒々しいのが、龍に啖呵を切った時の春彦を思い起こさせた。
あれは決まってたなあ。
それにしても、変な写真はない筈だけど、本当に勝手に見るのはやめてほしい。いくら仲のいい幼馴染みだって、プライバシーは存在する筈だ。プライバシー侵害、反対!
「……お前殆ど食い物の写真ばっかじゃねえか」
えっちゃんとの買い食い戦歴のことを言っているんだろう。
「ちょっと、関係ないところまで見ないでよ!」
「まあ色気ないくらいが安心でいいけど」
ブツブツと口の中で何かを言っている。以前よりも独り言が増えたように思えるので、賽の河原では奪衣婆以外の話し相手がいなかったようだし、独り言が癖になったのかもしれない。
寂しい奴だなと思ったけど、これ以上切れさせると怖いよりも面倒そうだったので、やめた。
「――よし! これでいい!」
ようやく春彦に笑顔が戻り、スマホが返却された。まさかえっちゃんの所は見てないよね? と思いつつ、画面を確認してみる。
真っ赤な顔で大口を開けて笑っている私と、そんなことされたか記憶が定かじゃないけど、思い切りカメラを睨みつけた春彦が私のこめかみに唇を当てている一枚が龍宛に送られていた。
写真の次には、ダメ押しのメッセージ。
『小春に手を出したら地の果てまで追いかけてぶっ殺すって言ったのを忘れずに』
時差があるのに、すぐに既読が付いていた。暫くして、スコンと音いう音と共に龍からの返信が来る。
『はい』
次の瞬間。
龍の名前があった場所には『メンバーがいません』と表示されたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
31
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる