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待ち人来たらず、珍客来る
【8】
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「決しておにぎりが美味しくなかったわけじゃないんです。ただお母さんのおにぎりを思い出して、その……恋しくなったたけで。私、この春から一人暮らしを始めたんです! ずっとコンビニのお弁当やスーパーの惣菜ばかりで、こう温かくて、手作りのものを食べていなくて! ここのおにぎりを食べたら、お母さんのおにぎりが懐かしくなって、そうしたら次々に思い出が蘇ってきて寂しくて、心細くて、それで……」
「気持ちは分かったから、まずは落ち着け」
捲くし立てるように話したからか、男性は莉亜の剣幕に押されたようだった。その言葉で頭が冷めると、顔が真っ赤になる。羞恥で涙が引っ込むと、座り直したのだった。
「つまり、俺のおむすびが原因だったわけじゃないんだな」
「はい! これまで食べたおにぎりの中で一番美味しかったですっ!」
力説するように言えば、何故か男性は安心したように肩の力を抜いた。このおにぎりに問題があるように思ったのだろうか。
泣き疲れて味噌汁に口を付ければ、昆布の出汁に加えて、合わせ味噌と思しき複数の味噌の風味に舌鼓を打つ。わかめと長ネギという定番の組み合わせも、出汁と味噌のアクセントとして旨味を十分に引き立たせていた。
おにぎりも味噌汁にも特に問題はなく、男性が心配する要素は無いような気がしたのだった。
「……人という生き物は実に不可思議だ。料理を食しただけで涙を流せるのか」
「それはまあ……。すごく美味しいものやとても懐かしいものに出会えたのなら、泣くこともあるかと思います。心を動かされるわけですから」
「心を動かされるか……」
男性は意味ありげに呟くと、柔らかな笑みを浮かべる。推しの顔で微笑まれたからか、莉亜の胸が一段と大きく高鳴ったのだった。
「俺のおむすびが気に入ったというのなら、またいつでも来るといい。と言っても、俺に出来るのはおむすびを食わせることと、話し相手になるくらいだが……。後でここに来る方法を授けてやる」
「ありがとうございます。神様」
「疲れた時は美味い物をたらふく食らうに限るからな。こっちとしても客は多いに越したことはない。待ち人来たらず、珍客来ると思っていたが……。人間と関わることで、人の世にいるアイツを見つける手掛かりになるかもしれないからな」
「アイツ?」
「こっちの話だ。それより早く食べてしまえ。冷めてしまうぞ」
男性が意図的に話を逸らそうとしていることに気付くが、神とは言え初対面の相手の心情に深く踏み込むわけにもいかず、莉亜は残りのおにぎりと味噌汁をいただく。莉亜が食べている間、男性はおにぎりを大きめに握ると、竹皮で包んでいるようだった。どこかに届けるのか、これから取りに来る分だろうか。
莉亜が完食する頃には、お腹だけではなく心もすっかり満たされていた。今まで耐えていたものを吐き出せたからかもしれない。
膝の上でくつろぐハルも心地よく、このまま居座ってしまいそうになるが、莉亜が食べ終わったのを見計らって男性が声を掛けてきたのだった。
「腹は満たされたか。そろそろ人の世界に通じる入り口まで案内しよう。次からはそこからここに来るといい、人間」
「さっきから人間と言っていますが、私には伊勢山莉亜という名前があります。それと帰る前に一つ探したいものがあって、その、御守りなんですが……」
「よもぎ~。おなかがすいたぞ~」
ハルに盗られた御守りを探したいと言い掛けた時、店の入り口が開けられる。そこにはボロボロの和傘を頭に被った着物姿の小学生くらいの少年三人が連なるように入って来たのだった。
「気持ちは分かったから、まずは落ち着け」
捲くし立てるように話したからか、男性は莉亜の剣幕に押されたようだった。その言葉で頭が冷めると、顔が真っ赤になる。羞恥で涙が引っ込むと、座り直したのだった。
「つまり、俺のおむすびが原因だったわけじゃないんだな」
「はい! これまで食べたおにぎりの中で一番美味しかったですっ!」
力説するように言えば、何故か男性は安心したように肩の力を抜いた。このおにぎりに問題があるように思ったのだろうか。
泣き疲れて味噌汁に口を付ければ、昆布の出汁に加えて、合わせ味噌と思しき複数の味噌の風味に舌鼓を打つ。わかめと長ネギという定番の組み合わせも、出汁と味噌のアクセントとして旨味を十分に引き立たせていた。
おにぎりも味噌汁にも特に問題はなく、男性が心配する要素は無いような気がしたのだった。
「……人という生き物は実に不可思議だ。料理を食しただけで涙を流せるのか」
「それはまあ……。すごく美味しいものやとても懐かしいものに出会えたのなら、泣くこともあるかと思います。心を動かされるわけですから」
「心を動かされるか……」
男性は意味ありげに呟くと、柔らかな笑みを浮かべる。推しの顔で微笑まれたからか、莉亜の胸が一段と大きく高鳴ったのだった。
「俺のおむすびが気に入ったというのなら、またいつでも来るといい。と言っても、俺に出来るのはおむすびを食わせることと、話し相手になるくらいだが……。後でここに来る方法を授けてやる」
「ありがとうございます。神様」
「疲れた時は美味い物をたらふく食らうに限るからな。こっちとしても客は多いに越したことはない。待ち人来たらず、珍客来ると思っていたが……。人間と関わることで、人の世にいるアイツを見つける手掛かりになるかもしれないからな」
「アイツ?」
「こっちの話だ。それより早く食べてしまえ。冷めてしまうぞ」
男性が意図的に話を逸らそうとしていることに気付くが、神とは言え初対面の相手の心情に深く踏み込むわけにもいかず、莉亜は残りのおにぎりと味噌汁をいただく。莉亜が食べている間、男性はおにぎりを大きめに握ると、竹皮で包んでいるようだった。どこかに届けるのか、これから取りに来る分だろうか。
莉亜が完食する頃には、お腹だけではなく心もすっかり満たされていた。今まで耐えていたものを吐き出せたからかもしれない。
膝の上でくつろぐハルも心地よく、このまま居座ってしまいそうになるが、莉亜が食べ終わったのを見計らって男性が声を掛けてきたのだった。
「腹は満たされたか。そろそろ人の世界に通じる入り口まで案内しよう。次からはそこからここに来るといい、人間」
「さっきから人間と言っていますが、私には伊勢山莉亜という名前があります。それと帰る前に一つ探したいものがあって、その、御守りなんですが……」
「よもぎ~。おなかがすいたぞ~」
ハルに盗られた御守りを探したいと言い掛けた時、店の入り口が開けられる。そこにはボロボロの和傘を頭に被った着物姿の小学生くらいの少年三人が連なるように入って来たのだった。
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