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同じ釜の飯を食うて、水魚の交わる間柄となる
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金魚の店で答えを見つけてから数日経った日の夜、ようやく用意が整った莉亜は初更にも関わらず、蓬の元に向かっていた。いつもと違って、背中には大きなリュックサックを背負い、両手にはクーラーバッグを下げているからか、自然と歩みは遅くなってしまう。公園の山を登る時に至っては、途中で何度も足を止めて休憩を取らなければならなかった。
(最後に会ってから数日が経っちゃったけど、蓬さんはまだお店にいるよね……?)
セイのおにぎり作りに必要な材料の取り寄せに思ったより時間が掛かってしまった。材料が揃っても自宅でおにぎり作りの練習をしていたので、ここに来る時間も取れなかった。料理に慣れていないせいか、慌てると分量を間違えてセイの味から遠のいてしまう。どうにかセイのおにぎりに近いものを安定して作れるようになると、取る物も取り敢えず、蓬の元に来たのだった。
いつものように桜の木から神域に入ると、いつもより遅い時間に来たにもかかわらず出迎えてくれた牛鬼の番人が、大荷物姿の莉亜を心配そうに気遣ってくれたのだった。
「どうしたっすか? こんな時間に、そんな大荷物で……」
「ごめん。急いでいるから、また後で! これ、いつものっ!」
訝しそうな牛鬼にコンビニエンスストアで購入した季節限定のおにぎりを押し付けるように渡すと、左右によろけながら花忍の道を急ぐ。
早くしなければ蓬が消えてしまうかもしれないと気持ちばかり逸っていたからか、莉亜の足元はすっかりおろそかになっていたらしい。つま先を小石に引っ掛けると危うく転倒しそうになったのだった。
(うわっ……!?)
いつもと違って荷物が重いからか受け身が取れず、もう少しで地面に身体がつくかという時、後ろから誰かに肘を引っ張られたのだった。
「そう慌てずとも、店主はすぐに消えたりしない。……おれがついているからな」
忘れもしない透き通るように澄んだ低い声が近くから聞こえてくる。振り返ると、古風なデザインをした黒い学生服姿の青年が莉亜の腕を掴んでいたのだった。
「貴方は……」
会った場所こそ違うものの、見間違えようがなかった。蓬によく似た声や話し方だけではなく、身長や輪郭までそっくりな姿。顔や服装こそは違うものの、蓬と並んだら似通った雰囲気から双子と思ってしまいそうな男子学生。
蓬のただ一人の良友にして親友。そして蓬が営むおにぎり処のきっかけとなった蓬の待ち人。
莉亜に二人の思い出の味をご馳走して、友を救って欲しいと頼んできた青年。
自然と青年の名前を口にしていた。
「セイ……さん……」
「ようやく見つけたのだな。おれの……おれたちの友を救う方法を」
青年――セイは莉亜の目を真っ直ぐに見つめると、清々しいまでの笑みを浮かべる。これが答えだと言わんばかりに。
「これが正解かどうかは分かりません。蓬さんの話を聞いて、調べて、考えて。これしか思いつかなくて……」
「自信を持て。お前が正しいと思ったのなら、道理や法に適わなくても、きっと店主の心に届くだろう。ここは神の領域。人智を越える奇跡が起きても不思議ではない」
荷物を持つというセイに半分任せると、店に着くまでの間、花忍が咲く道を並んで歩く。身長差があるにも関わらず、置いていかれることなく隣を歩けるのは、きっとセイが莉亜の歩幅に合わせてくれているのだろう。それとも莉亜に話す時間をくれるつもりなのか。
聞きたいことは山ほどあった。どれから尋ねようか迷っていると、先にセイが口を開く。
「お前は料理がどうやって後世に伝わるか知っているか?」
「ええっと……。作り方を記したレシピ帳……料理本によって、でしょうか?」
「それなら味付けはどうだ? 例えば、同じ塩むすび一つとっても作り手によって味が違う。ともすれば姿形さえも。だがそれらに正解は無い。全てが正しく、誤りはない。それがどうしてか考えたことはあるか?」
「それは……」
言われてみれば、料理に正誤は存在しない。勿論、食べる者や作り手の好みによる正しい味や、調味料の入れ間違いによる成功と失敗というのはある。それでも正解と呼ばれるものは存在しない。一応、レシピ本には模範回答としての味は載っているものの、それが必ずしも正解だと断言していない。結局のところ、個人の好み、家庭の味、地域性などで正誤は変わってしまうものだから。作り手の数だけ、多様な味が存在するとしか言えないだろう。
「考えたこと、なかったです」
「作り方は人に聞くなり、書物を読むなりすれば自ずと知れる。だが味付けについてはどうだ。同じ料理にしても全く異なる。人や書物によって調理過程は同じでも、材料は違ってくる。当然材料が違えば、味付けも変わってくる。不可思議だと思わないか。元は一つの料理がどこかで枝分かれして、それぞれの枝の先で花を咲かせ、枝葉を伸ばす。そしてそれは途切れることなく今日まで続いている。その料理を初めて口にしたものが、その味付けを正解だと思い、次の代に伝えていく。そうして料理は後の世に伝わっていくのだ……。万が一、元となる幹が枯れて、原型となった料理が失われてしまったとしても」
時代や人、物の移り変わりによって、オリジナルとなる料理は途絶え、過去の遺物として歴史書の中に埋没する。その代わり、オリジナルから派生した料理は脈々と残り続ける。
言い換えれば、全ての料理には原型となる料理が宿っているので、姿形が違うだけでオリジナルとなる料理が失われたわけではないということになる。
(最後に会ってから数日が経っちゃったけど、蓬さんはまだお店にいるよね……?)
セイのおにぎり作りに必要な材料の取り寄せに思ったより時間が掛かってしまった。材料が揃っても自宅でおにぎり作りの練習をしていたので、ここに来る時間も取れなかった。料理に慣れていないせいか、慌てると分量を間違えてセイの味から遠のいてしまう。どうにかセイのおにぎりに近いものを安定して作れるようになると、取る物も取り敢えず、蓬の元に来たのだった。
いつものように桜の木から神域に入ると、いつもより遅い時間に来たにもかかわらず出迎えてくれた牛鬼の番人が、大荷物姿の莉亜を心配そうに気遣ってくれたのだった。
「どうしたっすか? こんな時間に、そんな大荷物で……」
「ごめん。急いでいるから、また後で! これ、いつものっ!」
訝しそうな牛鬼にコンビニエンスストアで購入した季節限定のおにぎりを押し付けるように渡すと、左右によろけながら花忍の道を急ぐ。
早くしなければ蓬が消えてしまうかもしれないと気持ちばかり逸っていたからか、莉亜の足元はすっかりおろそかになっていたらしい。つま先を小石に引っ掛けると危うく転倒しそうになったのだった。
(うわっ……!?)
いつもと違って荷物が重いからか受け身が取れず、もう少しで地面に身体がつくかという時、後ろから誰かに肘を引っ張られたのだった。
「そう慌てずとも、店主はすぐに消えたりしない。……おれがついているからな」
忘れもしない透き通るように澄んだ低い声が近くから聞こえてくる。振り返ると、古風なデザインをした黒い学生服姿の青年が莉亜の腕を掴んでいたのだった。
「貴方は……」
会った場所こそ違うものの、見間違えようがなかった。蓬によく似た声や話し方だけではなく、身長や輪郭までそっくりな姿。顔や服装こそは違うものの、蓬と並んだら似通った雰囲気から双子と思ってしまいそうな男子学生。
蓬のただ一人の良友にして親友。そして蓬が営むおにぎり処のきっかけとなった蓬の待ち人。
莉亜に二人の思い出の味をご馳走して、友を救って欲しいと頼んできた青年。
自然と青年の名前を口にしていた。
「セイ……さん……」
「ようやく見つけたのだな。おれの……おれたちの友を救う方法を」
青年――セイは莉亜の目を真っ直ぐに見つめると、清々しいまでの笑みを浮かべる。これが答えだと言わんばかりに。
「これが正解かどうかは分かりません。蓬さんの話を聞いて、調べて、考えて。これしか思いつかなくて……」
「自信を持て。お前が正しいと思ったのなら、道理や法に適わなくても、きっと店主の心に届くだろう。ここは神の領域。人智を越える奇跡が起きても不思議ではない」
荷物を持つというセイに半分任せると、店に着くまでの間、花忍が咲く道を並んで歩く。身長差があるにも関わらず、置いていかれることなく隣を歩けるのは、きっとセイが莉亜の歩幅に合わせてくれているのだろう。それとも莉亜に話す時間をくれるつもりなのか。
聞きたいことは山ほどあった。どれから尋ねようか迷っていると、先にセイが口を開く。
「お前は料理がどうやって後世に伝わるか知っているか?」
「ええっと……。作り方を記したレシピ帳……料理本によって、でしょうか?」
「それなら味付けはどうだ? 例えば、同じ塩むすび一つとっても作り手によって味が違う。ともすれば姿形さえも。だがそれらに正解は無い。全てが正しく、誤りはない。それがどうしてか考えたことはあるか?」
「それは……」
言われてみれば、料理に正誤は存在しない。勿論、食べる者や作り手の好みによる正しい味や、調味料の入れ間違いによる成功と失敗というのはある。それでも正解と呼ばれるものは存在しない。一応、レシピ本には模範回答としての味は載っているものの、それが必ずしも正解だと断言していない。結局のところ、個人の好み、家庭の味、地域性などで正誤は変わってしまうものだから。作り手の数だけ、多様な味が存在するとしか言えないだろう。
「考えたこと、なかったです」
「作り方は人に聞くなり、書物を読むなりすれば自ずと知れる。だが味付けについてはどうだ。同じ料理にしても全く異なる。人や書物によって調理過程は同じでも、材料は違ってくる。当然材料が違えば、味付けも変わってくる。不可思議だと思わないか。元は一つの料理がどこかで枝分かれして、それぞれの枝の先で花を咲かせ、枝葉を伸ばす。そしてそれは途切れることなく今日まで続いている。その料理を初めて口にしたものが、その味付けを正解だと思い、次の代に伝えていく。そうして料理は後の世に伝わっていくのだ……。万が一、元となる幹が枯れて、原型となった料理が失われてしまったとしても」
時代や人、物の移り変わりによって、オリジナルとなる料理は途絶え、過去の遺物として歴史書の中に埋没する。その代わり、オリジナルから派生した料理は脈々と残り続ける。
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