【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜

四片霞彩

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同じ釜の飯を食うて、水魚の交わる間柄となる

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「それならその護符に守られていたのかもしれないな。お前の祖父もお前の審神者の素質を見抜いていたのだろう」
「セイさんはどうやって健康になったんですか?」
「おれには友がついていた。本人は否定していたが、おれの脳裏にははっきりと焼き付いている。息も荒く寝込んでいると、迷い込んできた蛍のようにおれの枕元にやって来るのだ。『早く快復するがいい。宮司の末の嗣子。皆がお前の回復を待っている』と言って。友が額に触れると、身体が軽くなる。息苦しさだけではなく、痛みも一瞬で消え去る。友がおれの痛苦を引き受けてくれていたのだ」

 蓬は豊穣の神である自分に病気快癒の力は無いと話していた。それならセイが負っていた痛みや苦しみはどこにいったのかと考えた場合、考えられる先は一つしかない。消せない以上、誰かがその痛苦を引き受けなければならない。蓬が自らを移し身としてセイの苦痛を受けたのだろう。
 
「心配で様子を見に来るだけじゃなくて、自分が身代わりになるなんて。面倒見の良い蓬さんらしいですね」
「ああ。だからこそ不安になったのだ。友の力が弱まった原因はおれにあったのではないかと。それに気づいた時、友のために出来ることは何でもやるつもりだった。名と身体を貸したのだってそうだ。それがまさか長らく友を苦しめる原因になるとは思いもしなかった」
「セイさんに名前と姿を返す前に、セイさんがいなくなってしまったからですね……」
「友には『貸す』と言ったが、本当はどちらも『くれてやる』つもりだった。どんな形であれ、無限に近い永遠なる時間を生きる友の傍に居られるのなら、それで良かった。おれという友がいたことを思い出し、孤独に生きるアイツを慰められる存在となれるのなら。それが今はどうだ。おれとの想い出は、思い出すのも辛い悲しい記憶となっている。力を取り戻すどころか、日に日にやつれ、衰え続けている。このまま友を苦しめる存在になりたくない。友をおれから解放したい。だが今のおれの声は友には届かない! 近くに居て、触れ合っても、おれの存在に気付いてくれないっ! おれに名と身体を返却することに固執して、大事なことを見落としている! そのためにおれは代償を支払ってまで、友を生き長らえさせたわけではないっ……!」
「代償ですか?」
「おれが事故に遭った日、友は全ての力を解き放った。この地に豊かと繁栄を契り、そのまま消滅しようとした。……それは奇しくもおれの目の前で起こった出来事だった」
「もしかして、消えようとしていた蓬さんが見たセイさんの姿って……!」
「魂だけの存在となったおれの姿だろうな……」
 
 蓬も最後に力を解き放った時、セイの幻覚を見たと話していた。それは蓬の元に向かっていたセイ本人の姿だったのだ。蓬の言う通り、義理堅いセイは約束を守って蓬の元にやって来たのだ。たとえ魂だけの姿に、なったとしても――。

「友の姿は消滅し、後にはおれが残された。おれは何日、何ヶ月、何十年と数えきれない程の幾星霜もの間、友の目覚めを待ち続けた。二度と目を覚まさないと言われても奇跡を信じた。その中でとある神と出会い、取引を交わしたのだ。友を長らえさせる代償として、輪廻転生と審神者の力を失い、人の姿も封じられた」
「でも今のセイさんは人の姿ですよね……?」
「ここではな。だが友の前では人の姿になれぬ。友が神力を取り戻しておれを見つけない限り、人の姿は封印されたまま、言葉を交わすことさえ許されない。たとえ誰より友の傍にいたとしても……」

 セイは興奮した感情を落ち着かせようとしているのか、何度も深呼吸を繰り返していた。セイが落ち着いたのを見計らい、莉亜はおずおずと尋ねる。

「それなら私の役目は、審神者としてセイさんの想いを蓬さんに伝えることですか。早く力を取り戻して、セイさんを見つけて欲しいということではなく、セイさんと出会った頃の蓬さんに戻って欲しいと。でも早く蓬さんから解放されないと、セイさんは怨霊になってしまうんですよね?」
「おれのことは全く気にしなくていい。今のままで問題ない。怨霊にもならないからな。それよりも心配なのは友のことだ。おれのことで嘆き、懊悩する姿も目にしたくないが、消える姿はもっと見たくない。……自分の半身をもがれるような塗炭の苦しみをまた味わうことになるからな」
「でも……」
「それにおれの願いはもう叶っているのだ。こうしてお前と出会い、おれの想いを託せた。おむすび共々な。おれの友は意地っ張りで少々強情なところもあるが根は良い奴だ。審神者になるのなら覚悟しておけ」
「まだ審神者になると決めたわけではないのですが……」
「友と言葉を交わし、同じ釜の飯を食って、水魚の交わる間柄となっただろう。やっていることは審神者と変わらないと思うぞ。神と共食できる人間など審神者以外に存在するものか。神を欺いて、仕掛けを施した茶と菓子まで食わせる者もな」
「あれは蓬さんの味覚を確かめるためであって騙すつもりは……。それよりもどうしてその話をセイさんが知っているんですか?」
「さっきも言っただろう。おれは姿を見せられず、言葉も交わせないだけで、常に友の傍にいると。お前のこともずっと見ていた。友に相応しい人物かを……。結果は問題なかったな。やはりおれの見る目は正しかったのだ」
「今度は自画自賛ですか……」
「そういうことだ」
 
 そう言って、セイは口を開けて大仰に笑う。蓬に聞いていた通りの爽やかな笑みに莉亜も小さく声を上げて笑ってしまったのだった。
 やがて店の前に辿り着くと、セイは持っていた荷物を渡してくる。荷物を受け取る際に触れ合ったセイの手は、今も生きているかのように温かく、柔らかな手であった。莉亜より遥かに遠い時代を生きていた人とは思えないくらいに。

「大切な友を頼む。……蓬のもう一人の友よ」

 その言葉を最後にセイの姿は消えてしまう。まさに立つ鳥跡を濁さずといったかのように、痕跡さえ何も残さなかった。
 セイの存在に勇気づけられた莉亜は、覚悟を決めると大きく深呼吸をする。そうしてこれまで開けられなかった店の引き戸を開けたのだった。
 蓬の心に通じる扉を――。
 
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