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忘れ物を届けに
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「ところで、コハルはここに来てからどこかに出掛けたの?」
その後、隣に座ってきたジェニファーと連絡先を交換しているとそんな事を聞かれる。
「ううん。初日にセントラルパークを少し歩いただけだよ」
「え~。もったいない! ニューヨークにはまだまだ見所があるのよ! カエデってば何をしているの!?」
「仕事だ」
楓さんが端的に言い返すが、それを気にも留めず、ジェニファーは話を続ける。
「もう。せっかくコハルが来ているんだから、仕事ばかりしていないでニューヨークを案内してあげればいいのに。コハルだって、ニューヨークを見たいでしょう?」
「え、えっと、そんな事は……」
ここに来る時は、ただ楓さんと会う事だけを考えていた。離婚届を送って来た真相を知りたいと思っていたので、ニューヨーク観光を考える余裕もなかった。楓さんが仕事に行っている間は日本で購入した旅行本を眺めていたが、英語が苦手な私が下手に外出して、楓さんが住むマンションに帰って来られなくなるのも怖くて、遠出したいとも考えなかった――そもそも楓さんがあまり外出して欲しくなさそうというのもあるが。
すると、ジェニファーが「そうだわ!」と声を上げたのだった。
「せっかくだし、これから二人で出掛けてくればいいんじゃないかしら? 今日は平日だから、どこもそんなに混んでいないと思うわ!」
「で、でも、楓さんは仕事中なんじゃ……」
「そ、そうだぞ! 俺は午後も仕事があるんだ……」
「いいんじゃないか」
当惑する私達に対して、楓さんの隣に座っていた所長までジェニファーに賛同するように話し出す。
「カエデはもうクライアントと会う予定はないだろう。ここに来てから仕事ばかりだ。たまにはコハルと出掛けてもいいんじゃないか」
「しかし、所長。午後は今度の公判の用意をしようかと……」
「家族サービスも大切だぞ。若い内じゃないと出来ない事もあるからな」
「ほら、所長のパパだって良いって言っているんだし、コハルと出掛けてきたら?」
親子に後押しされて、最初は「いや……」や「だが……」と言い掛けていた楓さんだったが、やがて「分かりました」と頷いたのだった。
「お言葉に甘えて、午後から休暇を頂きます。小春と――妻とニューヨークを観光してきます」
楓さんに「妻」と言われただけなのに、胸が小さく高鳴る。滅多に言われないからだろうか。
それとも、一時的な結婚でも、何も夫婦らしい事をやっていなくても、「妻」と認識されている事が嬉しいからだろうか。
「仕事の事は気にしなくていい。楽しんで来なさい」
「分かりました。一度、デスクに戻って荷物を取って来ます。ああ、ジェニファー。少し良いか?」
「なあに?」
二人が出て行った途端、残っていた所長に声を掛けられる。
「カエデとはどうだい? 上手くいっているかい?」
「ええ、まあ……」
その後、隣に座ってきたジェニファーと連絡先を交換しているとそんな事を聞かれる。
「ううん。初日にセントラルパークを少し歩いただけだよ」
「え~。もったいない! ニューヨークにはまだまだ見所があるのよ! カエデってば何をしているの!?」
「仕事だ」
楓さんが端的に言い返すが、それを気にも留めず、ジェニファーは話を続ける。
「もう。せっかくコハルが来ているんだから、仕事ばかりしていないでニューヨークを案内してあげればいいのに。コハルだって、ニューヨークを見たいでしょう?」
「え、えっと、そんな事は……」
ここに来る時は、ただ楓さんと会う事だけを考えていた。離婚届を送って来た真相を知りたいと思っていたので、ニューヨーク観光を考える余裕もなかった。楓さんが仕事に行っている間は日本で購入した旅行本を眺めていたが、英語が苦手な私が下手に外出して、楓さんが住むマンションに帰って来られなくなるのも怖くて、遠出したいとも考えなかった――そもそも楓さんがあまり外出して欲しくなさそうというのもあるが。
すると、ジェニファーが「そうだわ!」と声を上げたのだった。
「せっかくだし、これから二人で出掛けてくればいいんじゃないかしら? 今日は平日だから、どこもそんなに混んでいないと思うわ!」
「で、でも、楓さんは仕事中なんじゃ……」
「そ、そうだぞ! 俺は午後も仕事があるんだ……」
「いいんじゃないか」
当惑する私達に対して、楓さんの隣に座っていた所長までジェニファーに賛同するように話し出す。
「カエデはもうクライアントと会う予定はないだろう。ここに来てから仕事ばかりだ。たまにはコハルと出掛けてもいいんじゃないか」
「しかし、所長。午後は今度の公判の用意をしようかと……」
「家族サービスも大切だぞ。若い内じゃないと出来ない事もあるからな」
「ほら、所長のパパだって良いって言っているんだし、コハルと出掛けてきたら?」
親子に後押しされて、最初は「いや……」や「だが……」と言い掛けていた楓さんだったが、やがて「分かりました」と頷いたのだった。
「お言葉に甘えて、午後から休暇を頂きます。小春と――妻とニューヨークを観光してきます」
楓さんに「妻」と言われただけなのに、胸が小さく高鳴る。滅多に言われないからだろうか。
それとも、一時的な結婚でも、何も夫婦らしい事をやっていなくても、「妻」と認識されている事が嬉しいからだろうか。
「仕事の事は気にしなくていい。楽しんで来なさい」
「分かりました。一度、デスクに戻って荷物を取って来ます。ああ、ジェニファー。少し良いか?」
「なあに?」
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「カエデとはどうだい? 上手くいっているかい?」
「ええ、まあ……」
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