【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
50 / 88
忘れ物を届けに

50

しおりを挟む
「ところで、コハルはここに来てからどこかに出掛けたの?」

 その後、隣に座ってきたジェニファーと連絡先を交換しているとそんな事を聞かれる。

「ううん。初日にセントラルパークを少し歩いただけだよ」
「え~。もったいない! ニューヨークにはまだまだ見所があるのよ! カエデってば何をしているの!?」
「仕事だ」

 楓さんが端的に言い返すが、それを気にも留めず、ジェニファーは話を続ける。

「もう。せっかくコハルが来ているんだから、仕事ばかりしていないでニューヨークを案内してあげればいいのに。コハルだって、ニューヨークを見たいでしょう?」
「え、えっと、そんな事は……」

 ここに来る時は、ただ楓さんと会う事だけを考えていた。離婚届を送って来た真相を知りたいと思っていたので、ニューヨーク観光を考える余裕もなかった。楓さんが仕事に行っている間は日本で購入した旅行本を眺めていたが、英語が苦手な私が下手に外出して、楓さんが住むマンションに帰って来られなくなるのも怖くて、遠出したいとも考えなかった――そもそも楓さんがあまり外出して欲しくなさそうというのもあるが。

 すると、ジェニファーが「そうだわ!」と声を上げたのだった。

「せっかくだし、これから二人で出掛けてくればいいんじゃないかしら? 今日は平日だから、どこもそんなに混んでいないと思うわ!」
「で、でも、楓さんは仕事中なんじゃ……」
「そ、そうだぞ! 俺は午後も仕事があるんだ……」
「いいんじゃないか」

 当惑する私達に対して、楓さんの隣に座っていた所長までジェニファーに賛同するように話し出す。

「カエデはもうクライアントと会う予定はないだろう。ここに来てから仕事ばかりだ。たまにはコハルと出掛けてもいいんじゃないか」
「しかし、所長。午後は今度の公判の用意をしようかと……」
「家族サービスも大切だぞ。若い内じゃないと出来ない事もあるからな」
「ほら、所長のパパだって良いって言っているんだし、コハルと出掛けてきたら?」

 親子に後押しされて、最初は「いや……」や「だが……」と言い掛けていた楓さんだったが、やがて「分かりました」と頷いたのだった。

「お言葉に甘えて、午後から休暇を頂きます。小春と――妻とニューヨークを観光してきます」

 楓さんに「妻」と言われただけなのに、胸が小さく高鳴る。滅多に言われないからだろうか。
   それとも、一時的な結婚でも、何も夫婦らしい事をやっていなくても、「妻」と認識されている事が嬉しいからだろうか。

「仕事の事は気にしなくていい。楽しんで来なさい」
「分かりました。一度、デスクに戻って荷物を取って来ます。ああ、ジェニファー。少し良いか?」
「なあに?」

 二人が出て行った途端、残っていた所長に声を掛けられる。

「カエデとはどうだい? 上手くいっているかい?」
「ええ、まあ……」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

王冠の乙女

ボンボンP
恋愛
『王冠の乙女』と呼ばれる存在、彼女に愛された者は国の頂点に立つ。 インカラナータ王国の王子アーサーに囲われたフェリーチェは  何も知らないまま政治の道具として理不尽に生きることを強いられる。 しかしフェリーチェが全てを知ったとき彼女を利用した者たちは報いを受ける。 フェリーチェが幸せになるまでのお話。 ※ 残酷な描写があります ※ Sideで少しだけBL表現があります ★誤字脱字は見つけ次第、修正していますので申し分ございません。  人物設定がぶれていましたので手直作業をしています。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

処理中です...