【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
55 / 88
初デートinニューヨーク

55

しおりを挟む
「いや……おかしくない」

 そうは言っても、楓さんの目は逸らされたままだったので、だんだん自信がなくなってくる。

(目を逸らしてそんな事を言われても、説得力が無い様な……)

 今のパート先もこれまで働いていた書店も、社内規定でスカートは禁止されていた。仕事に合わせて普段着もズボンばかり履いていたので、ワンピースどころかスカート自体、履いたのは学校を卒業して以来だった。学校を卒業してから数年が経ち、年齢を重ね、体型も変わってしまったと思うので、やはり似合わなかったのだろう。
 気落ちしていると、店員さんが戻って来たようで「よくお似合いですよ」と優しく声を掛けてくれる。

「ご主人の要望通り、黒のワンピースを中心に選びました。そちらは如何でしょうか?」
「イメージ通りです。ありがとうございます。後、黒のタイツかストッキングがあれば、それもお願いします。その……スカート丈が短いので、中が見えてしまうのではないかと不安で……」

 足元を見ると、確かにスカート丈は膝くらいなので、強風が吹いたらスカートの中が見えてしまうかもしれない。
 黒と白のパンプスを持っていた店員さんは、パンプスのサイズを確認する様に言うと、すぐに店内に戻ったのだった。

「今の内に靴を選べ。ジェニファーからニューヨークでは黒が流行っていると聞いて、全て黒で統一するようにお願いした。この店を選んだのも、日本人の店員が居ると聞いたからなんだ」
「そうなんですか……?」

 私がパンプスを選んでいると、店員さんが黒のタイツを持って来たので、サイズを確認してまた試着室の中に戻る。タイツもスカートと同様に数年ぶりに履いたので、若干苦戦しながら身に付けると、パンプスのサイズや履き心地も確認してから外に出る。
 私の姿に気づいたのか、楓さんは寄り掛かっていた壁から離れると近づいて来たのだった。

「よく似合っている」

 柔和な笑みと共に優しく言われて、「ありがとうございます……」と小声になってしまう。

「ワンピースどころか、スカートを履いたのは数年ぶりなので自信が無かったんです。でもお世辞でも似合っていると言われて嬉しいです」

 当たり障りなく返したつもりだったが、楓さんは呆れ果てた様に溜め息を吐いたのだった。

「俺がお世辞を言えるような男に見えるか? 本当に思っている事しか言えないんだ」 
「そうなんですか……?」

 恐る恐る見上げると、楓さんは「ああ」と頷いて、軽く頭を叩いてきたのだった。

「小春によく似合っている。普段もスカートを履いたらいいんじゃないか」
「これまでは仕事に合わせて服を購入していたんです。前に働いていた書店は社内規定でスカートが禁止されていたので……」
「そんな社内規定があるんだな。知らなかった……着心地はどうだ、悪くないか?」
「丁度いいくらいです」

 私が笑みを浮かべると、楓さんの頬がほんのり赤く染まっている事に気づく。
 
(もしかして、照れているのかな……)

 自惚れかもしれないが、さっき目を逸らしたのも、もしかしたら照れていただけだったのかもしれない。

「じゃあ、それで決まりだな」

 楓さんは先程の店員さんを呼ぶと、「これを全て買います」と話す。店員さんは慣れた手付きでワンピースやパンプスの値札を外していくと、最初に会った白人の店員さんに会計を任せたのだった。

「ま、待って下さい!」

 店員さんの後に続こうとした楓さんの腕を掴むと、何度も首を振る。

「どうした?」
「手帳を届けただけなのに、こんなに受け取れません! だって、どれも高いんじゃ……!」

 値札を外してもらう時に見たが、ワンピースもパンプスもそこそこの値段だった。日本に居た頃に自分で服を買うとしても、もっと安い店で買っていた。
 楓さんは「なんだそんな事か」と腕を払う。

「それくらい、大して高くない。ニューヨークじゃ普通の値段だ」
「でもっ……!」
「ここに来ても家の事をやってくれているだろう。……俺の気持ちだ。受け取って欲しい」

 そして、楓さんは店員さんに呼ばれると、レジに向かってしまう。
 残された私は日本人の店員さんに言われて、お店のロゴが入った紙袋の中に、ここまで着てきた服と靴を詰め込む。カバンと紙袋を持ってレジに向かうと、既に会計は終わっており、楓さんが待っていたのだった。

「行くか」

 楓さんは私の手から紙袋を取ると、店員さん達に礼を述べて店を出て行く。私も楓さんに習って、礼を述べると、後に続いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

処理中です...