【完結】推しのうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜

四片霞彩

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已己巳己な姉妹、依存と決別

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「事務所や大学から説明を求められて大変なんだよ……パパとママも怒ってばかりで全然話を聞いてくれないし、味方してくれないし……」
「そんなことを言われたって、私にはどうにもできない……」
「全部ぜんぶいっちゃんのせいだよ……いっちゃんが私をおかしくしたの……パパもママも友達もファンもみんないなくなっちゃう……でもいっちゃんはいてくれるよね……だって全部いっちゃんが壊したんだから……いっちゃんだけはさっちゃんの味方がいてくれるよね……?」
「イヤッ! あっち行って……! 爽月なんて知らないっ!! こういう時ばかりこっちに来ないでよっ!!」

 隙をついて爽月を突き飛ばすと、どうにか立ち上がって逃げようとする。けれどもそんな爽月に足首を掴まれて彩月は再び転ばされたのだった。

「逃さないよ、いっちゃん……今度こそ許さないから……」
「助けてっ! 誰かっ……! 誰か~っ!!」
「彩月!!」

 助けを求める彩月の叫声に答えるように小さな黒い影が彩月の後ろから飛んでくる。柔らかな黒毛に覆われた黒うさぎは彩月を守るように爽月の手にしがみつくと歯を立てたのだった。

「痛いいたいっ……! 離しなさいよっ! このケダモノっ!」
「響葵くんっ!!」

 爽月は何度も腕を大きく振り上げるが、爽月の手に噛みつく響葵が離れる気配は無かった。それどころかますます歯に力を入れたのか、爽月の手からは血が滲みだして爽月の喚き声はますます大きくなったのだった。
 やがてその場で呆然と固まっている彩月に向かって、響葵が声を張り上げる。

「早く逃げて天里と合流するんだっ!」
「でも響葵くんを置いていけないよっ!!」
「俺は後から行くっ! 君は早くここから離れるんだ……っ!!」

 そうして話している間に、爽月は反対の手で乱暴に響葵の身体を掴んで引き離すと地面に叩き付ける。足でぐりぐりと踏みつけられた響葵は苦悶の声を漏らしたのだった。
 彩月は咄嗟に爽月の腕を掴んで引っ張ると、涙交じりに「止めてよっ!!」と叫んだのだった。

「響葵くんに乱暴なことをしないでっ!! 死んじゃうでしょ……!」
「ああ、このうさぎが響葵だっけ……そっか……このうさぎがね……」
「爽月?」
「コイツさえいなければ、いっちゃんは私のものだったのに……コイツさえいなければっ、コイツさえいなければっ……!!」

 急に耳障りな尖り声を発したかと思えば、両手で響葵の首を捻って床に押し付ける。響葵を絞殺するつもりだと気付いた彩月が爽月の身体を引き離そうとするが、どこにそんな力があるのか爽月はびくりとも動かなかった。その間も響葵は呻き声も漏らして手足をじたばたさせて藻掻き、彩月の焦りはますます大きくなったのだった。

(このままじゃ響葵くんが死んじゃう……!)

 長いような短いような時間の中で、彩月の身体の奥底からマグマのように大きな力が突き上げるような感覚を感じたかと思えば、あっという間に盛り上がってくる。それはかつて彩月たちが身を寄せていた久慈川家に両親と爽月が押し掛けてきた時にも感じた強大な力のうねりのようであり、月の民の《超常力》に彩月が飲み込まれかけることも意味していた。

(それでも響葵くんを助けることができるのなら……っ!)

 彩月は身体に力を入れると自らの内にこもっていた《超常力》を発動させる。空気が一瞬震えたかと思えば、廊下に面した窓ガラスにひびが入る。
 そして今回は閉ざされた教室の扉や壁、床や天井にもひび割れが生じて、今にも崩れ落ちるかのようにパラパラと粒子上の破片が落ちてきたのだった。

「なによ、これ……?」
「彩月っ!!」

 いつの間に姿が変わったのか人間になった響葵が彩月を庇うように床に押し倒した瞬間、窓ガラスが一斉に音を立てて割れて彩月たちの上に降り注ぐ。
 鋭い氷柱のように落下してきた窓ガラスの豪雨の中で爽月の断末魔の悲鳴が轟き、彩月の盾となった響葵も背中に刺さる破片の痛みに耐えたのだった。

(あっ、ああ……っ!)

 満身創痍になってもなお彩月を守ろうとガラス片の急雨に打たれる響葵から目が離せない。涙が溢れて彩月の頬を伝えば、響葵が血を流しながらも傷だらけの指先で涙を拭って安心させるように小さく微笑んでくれる。その弱々しい一笑に彩月の胸がチクチクと痛みだす。
 このまま響葵を喪いたくない。守りたい、助けたい、一緒に居て欲しい。
 まだ伝えていない言葉があるのだから――。

「響葵くん……っ!!」

 響葵の首に腕を回すと彩月は自ら唇を寄せていた。黒曜石のような瞳を大きく見開いた響葵の顔が目に入るが、彩月は唇を離さなかった。
 生きてと願いを込めた涙交じりのキス。彩月の生命力を分け与えるように響葵の唇に深く口付けをする。
 すると不思議なことに響葵の顔や手足に付いた傷が治り始めた。背中や腕に刺さったガラス片がするりと抜けて床に落ちる。
 そしてガラスの篠突く雨が止んで彩月が唇を離して目を開けた時には、ほぼ無傷の響葵が驚き入った顔で彩月を見つめていたのだった。

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